第11話 プロポーズ


うふふっ、本当に凄いわね…


『静子さんは家でゆっくりしてて、俺頑張るから』


どうしてこういう考えになるのか解らないわ。


確かに王都の商人や貴族ならそうだと思うけど…私は村娘。


普通は夫と一緒に田畑を耕して生活するのが当たり前なのに…


これじゃ奴隷どころか、どう考えても『幸せな奥さん』じゃない。


こんな素敵な恋人が見つかるなら…やめましょう。


虚しいわ。


私が婚活をし始めた頃は、セレスくんはまだ生まれていなかったんだから…


大体『本当に好きな子が出来るまで恋人になってあげる』なんてつい言っちゃったけど、相手はピチピチの10代、それに対して私は30過ぎのおばさん。


それに『奴隷』なんだから命令されたら、自分から服を脱いで相手しなくちゃいけない存在なのに…


うふふっ、本当に、恋人か奥さんみたいに扱ってくれて…困るわ。


「ただいま~」


セレスくんが帰ってきたわ。


「おかえりなさい、随分早かったわね」


「静子さんに会いたいから頑張って仕事を早く終わらせたんだ」


「うふふふっ、嬉しいわ」


本当に理想の夫婦みたいな関係だわ。


夢みたい。


「いつ見ても凄く綺麗だ」


全く、もう! 真顔でそんな事言って。


そんな言葉、私に言ってくれるのはセレスくん位だわ。


「うふふっありがとう! セレスくんも凄く素敵よ! だけど、おばさん、そんな事余り言われたことが無いから、照れちゃうわ、顔が赤くなってセレスくんが真面に見れなくなっちゃうわね」


「静子さんはおばさんじゃないよ…せいぜい、お姉さんだと思う」


「そう? そうかな?そう言われるとおばさん照れちゃうな」


「おばさんって思って無いし、凄く綺麗だと思っているよ!本当にそう思っているから、だから余りおばさんって言わないで欲しいな」


なんでこんなに好きになってくれたのかな。


私は間違いなくおばさんなのに…


だけど、セレスくんが私を好きなんだもの。


『おばさん』って言い続けるのも失礼よね。


「ゴメン、ついでちゃうのよ、余り言わないように気をつけるわね…本当にごめんなさい!」


「本当に綺麗で美人そう思っているから、そうしてくれた方が凄く嬉しい」


「本当に? おばさん困っちゃう…あら嫌だいけないわ」


「ゆっくりでいいよ」


「そう言ってくれると助かるわ」


子供の時からだもんね。


何時から私の事を好きだったのかな?


確か、小さい時は『おばさん大好き』だったわ。


多分、あの時の好きは『お母さんの代わり』よね。


?! そう言えば、何時から『静子さん』って呼ぶようになったのかな?


多分『静子さん』そう呼び始めた時からよね。


「時間は沢山あるんだからさぁ…はいこれ!」


花束…くれるのよね?


「うそ、これを私にくれるの?すごく嬉しいわ、ありがとう!」


花束なんて…うふふっ、セレスくんからしか貰った事無いわ。


子供のセレスくんから貰っても嬉しかったけど、大人のセレスくんから貰うと…凄く感慨深いものがあるわ。


「他にもケーキも買ってきたから食べない?」


「セレスくん、それは食事が終わってからね、お菓子を先に食べるとご飯が食べられなくなるでしょう?」


つい言っちゃったわ…なにしているんだろう。


本当に悪い癖ね。


セレスくん、複雑そうな顔しちゃったじゃない。


今の私は母親じゃなくてセレスくんの恋人なのに…


失敗しちゃったわ。


「そうだね、ご飯をしっかり食べた後じゃないとね」


「なんだか、変な顔をしているわね」


「いや、小さい頃にゼクトと一緒に良く言われたなぁ~と思って」


「うふふっ、確かに良く言っていたわね」


セレスくんって理想の夫みたいだけど、理想の息子にも思えちゃうのよね。


気をつけよう。


◆◆◆


「この煮物にスープ、凄く美味しい」


「こんな田舎料理しか作れないけどね!昔から良く美味しいって食べてくれたよね、そう言ってくれるのはセレスくん位だよ」


ほんとに作り甲斐が無かったわね。


元夫も息子もただ黙々と食べるだけで『美味しい』なんて言ってくれなかったわ。


私って現金なのかしら?


喜んでくれるからか、家事が楽しくて仕方ないわ。


「静子さんの味って言うのかな、食べると凄くホッとする」


「うふふっ、そう言ってくれると嬉しいわ、本当に作りがいがあるわ」


最近の私、凄く笑うようになったわね。


『楽しい』こんな風に思ったのって、何時ぶりかな?


セレスくんと居ると、本当に毎日が楽しくて幸せだわ。


◆◆◆


「静子さん、ありがとう!」


ただ、お茶を入れてセレスくんの買ってきたケーキを並べただけなのに…ありがとうって…困っちゃうわ。


「この位はさせて貰わないと悪いわ」


だけど、さっきから様子が可笑しいわね。


なんでモジモジしているんだろう。


「静子さん、これ良かったら貰ってくれないかな?」


セレスくんが箱を差し出してきた。


包装紙からして高級そうよね。


何かしら?


「え~と何かしら…プレゼント?」

「開けてみて」


「うん! 嘘これ有名なお店じゃ無いの?」


「これ位はさせて貰わないとね」


プレゼントなんて貰った記憶、うふふっ、前に私にプレゼントをくれたのは小さい頃のセレスくんだわ。


何をくれたのかな…えっ! 嘘よね…


「ネックレス、綺麗な宝石まで嵌めてあるわ!本当に、これを私にくれるの? 意味をちゃんと解ってくれるの?」


「勿論!」


こんな物までくれるんじゃ、もう否定できないわ。


親子に近い愛とか『本当に好きな人が見つかるまで』なんて言えないわね。


母子程、歳が離れているのに…


大体、私はセレスくんの奴隷なんだから…


ちゃんとしなくちゃ駄目だよね。


セレスくんが『本当に私を好きなのは嫌でも解るもん』


「解ったわ、こんな物までくれるんだからもう! 私は奴隷としても価値のないおばさんなのよ!それに、今の私はセレスくんの奴隷だから、セレスくんが望むならこんな事しないでも、なんでも、命令できる存在なのに!それなのに、本当に良いの?私で本当に後悔しないのね?」


「するわけないよ!この世界で初めて好きになった人だから…」


「解ったわ、受け入れるわ、全く…」


私はセレスくんから貰ったネックレスを首から掛けた。


「どう? 似合うかな?」


「うん、凄く綺麗だ」


まさか、この齢でプロポーズをされるなんて思わなかったわ。


セレスくんには…本当に…何時も驚かされてばかりだわ。

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