第3話【過去】悔しくて涙が止まらない


息子が勇者になった事で国から莫大な一時金が出たのよ。


細々と生活するなら一生生活出来るだけのお金。


このお金がまさか、夫ゼクト―ルを変えてしまうとは思わなかったわ。


いえ、元から歪んだ性格だったのかも知れない。


今迄はお金が無かったから、真面だっただけなのかも知れない。


『今まで頑張って来たから、少し位ははめを外しても構わないと思いますが、畑や田んぼのお世話位はしませんか?』


農民なんだから作物の世話をしないと自分だけじゃなく村の人にまで迷惑が掛かってしまうのに。


「お前がやれば良いだろう? それに田んぼや畑の世話なんてしなくても金があるんだから良いじゃないか?」


「確かにお金はあるけど?そんな、贅沢ばかりしていたらそのうち無くなっちゃうわよ! 少しだけで良いから貯金に回さない?」


そう言ったのよね。


「本当に煩いババアだな、そらよ!」


「これはなに?」


「金、金煩いんだよ、それだけやるから文句いうなよ!」


革袋を投げつけてきたから中身を見たら、余り入って無かったわ。


「これ…1/10も無いじゃない、もう少し…」


「煩いなぁ! あ~あ辛気臭い、お前の顔を見ていると本当に気が滅入るわ…ちょっと出かけてくる!」


「何処に行くのよ!」


「街だよ!街!今日から暫く帰って来ねーからな!」


止めても無駄…言うだけ無駄だわ。


「そう…解ったわ」


呆れた目を多分していた私を背に笑いながら行ってしまった。


こんな事なら支度金なんて貰わない方が良かった…心から思ったわ。


どうせまた、賭け事か女かお酒…


他の家はしっかり貯金したり土地を買ったりしているのに…


考えても無駄だわ、せめてこのお金は貯金して置かないと!最悪、今年の税金が払えなくなるわ。


畑仕事どうしようかな?


1人でやれるだけ頑張ってやるしかないのかな…


しかし、あの人も良く毎晩、毎晩飽きないわね…本当にろくでなしだわ。


本当に呆れたわ、とうとう家に帰って来なくなったわ。


◆◆◆


夫のゼクト―ルが2か月ぶりに帰ってきたわ。


「ただいま」


悪びれずに飄々としているわね。


「ただいま?! 今まで何やっていたのよ! もう帰って来ないと思ったわ!」


「まぁ、そんなに嫌な顔するなよ! 俺が悪かったよ…」


「そう? どうせ、もうお金は使っちゃったんでしょう?これからは地道に働くしかないわね!」


「そうだな、本当に俺が悪かったよ! 今まで本当に悪かった!最後にお前と街に行って少し贅沢をして、もう無駄使いをやめるよ!」


改心したのかな?


そう思ったのよね…それが大間違いだった。


そう言うからウキウキして一緒に街に出かけたら、それがまさかの罠で奴隷として売られるなんて思わなかったわ。


腹が立つわ。


まさか、妻相手に薬まで使って眠らせるとは思わないじゃない?


残りの1/10のお金欲しさにこんな事をするなんて思わないじゃない?仮にも妻なのよ!


本当に油断した。


ハァ~元S級冒険者 黒髪の癒手ともあろう者が、これじゃ良い笑い者だわ。


お金があの人を変えたのよね…きっと。


昔は…違うわ


よく考えたら、あのクソ親父…随分前から酷かったじゃない!


思い出したわ!


セレスくんが『僕、大きくなったら静子おばさんと結婚したいな』


そう言ったら…


『セレス、お前が大人になる頃には彼奴ババアだぜ!それでも良いなら金貨1枚で譲ってやるよ!』


そんな事、笑いながら言っていたわね!


横でゼクトも


『やめとけ、やめとけ、そんなババアに価値なんて無いぜ』


そう言って笑っていたわ…思い出したわ。


確かに、もう随分長い事男女の関係は無いわ。


最後に抱かれたのは何時かしら?


もう思い出せない位昔。


恐らく10年はそういう関係に無いわよ。


男女の愛は確かに無いわ!


だけど家族の愛はある!


信頼はある!そう思っていたのに…


それすらも無かったのね。


ううっ、グスっ…幾ら泣いても仕方が無い。


それは解っているの!


だけど、悔しくて涙が、涙が止まらないわ。












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