城塞を立つ
「先は俺が行く」
騎士様との話が終わって残された俺は偵察隊の面々五名の出立準備が終わるのを待ってそう宣言した。
「本来人より前を行き調べるのがお前ら偵察隊の仕事なんだろうが、今回は俺の仕事っぷりを見分して貰うのがお前らの仕事だ」
そもそも騎士様に俺が提案したのは威力偵察。手っ取り早く味方を気にせずに済む敵のいる場所に向かい、暴れるのが狙いではあるが名目が偵察である以上、偵察部隊の世話になる訳にもいかねぇのはわかるだろう。
「……それはそうですが」
「わかりました」
見せる反応は様々、偵察部隊の一員として人にその任を譲るってことに抵抗でもあんのか、別の理由か。どっちにしても感情面で割り切れなそうなヤツが居る一方でこちらの言い分が正しいと頷くヤツも居た。上からの命に従うのが軍人、そんな面もあってか最終的には俺の言を五名は受け入れたが、そこには個人差があって。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
真っ先に俺の主張を受け入れたのも、最初に声をかけてきたのもローブを纏った少女。つまり、偵察隊に所属している召喚術師だった。
「何だ?」
「あたしたちあなたをどうお呼びしたら? 通り名は存じてますけど」
「なら、それでいい」
一応召喚装備を身に着けている時用に偽名も作っている俺だが、本名以外で呼ばれると自分が呼ばれていることに気づかないことがあるかもと他者にはむしろ通り名予備を推奨してた。
「今のところ『鎧の悪魔』と呼ばれてるのは俺だけだ」
もちろん、俺の名を騙る偽物なんかは話が別だが。
「だが、名前では同姓同名が居てもおかしくねぇだろ?」
と、一応通り名予備を推奨する建前もちゃんと用意はしてある。それがもっともだと思われたのか、出発してからは普通に通り名で呼ばれ。
「しかし、わかっちゃいるが暑ぃな」
城塞にガラス窓なんてモノはない。中の空気の入れ替えと少しでも涼しく過ごすために通気用の窓は開け放たれていて、城塞内に居た時もセミの声は遠くに聞こえていたが、城塞を出てオーガーどもの本拠地のある方角へと進み出せば、ぽつぽつ生えた樹が見え始めた頃からセミの自己主張が顕著になった。
「本来偵察に出たヤツが独り言なんざ、ぶん殴られたっていい訳できねぇモンだが」
木々の生えようはまだポツポツだ。独り言で気づく程度に敵が近づくより先にまず目視で敵の接近は知れる。
「一応確認しとくが、オーガーどもの姿が目撃されたって場所は」
「はい、もっと木々が多い茂ってるあちらより向こうになります」
俺の言に頷いた偵察隊の一人が示したのは、確かにこの辺りとは比べ物にならないくらいの密度で木々が茂り、地面の色を隠している。
「林、だな。あの向こうは盛り上がってるが、山だったな?」
「はい」
偵察に出るのだからと簡易ではあるがこの辺の地形は教わってる。ソレに、照らし合わせて確認をとれば先ほど頷いた一人、同行する班の班長でもある兵士が首肯を返してくる。
「あの辺に居るなら、明日明後日にゃ城塞で防衛線が起きてもおかしかねぇか」
視界が開けて慎重に進む理由に乏しいとはいえ一日どころか半日でこっちはたどり着けてんだ。
「偵察なんて置かねぇ、罠は踏んだら踏みつぶすつもりのオーガーどもも足は緩めねぇだろうしな」
もっとも、そんなギリギリのタイミングで指名依頼が出されたとは考えづれぇ。今は俺が馬より早く駆けられなければ時期的に城塞に到着できていなかったタイミングだ。
「
となると、騎士様の見立てでは本格的にオーガーどもが攻めてくるのはその前後なんだろう。これまで何度もオーガーどもから城塞を守って来た騎士様の経験を舐めるつもりはねぇ。
「こりゃ、空振りかもだな」
わかっていてこの偵察に許可を出したなら、騎士様はとんだタヌキってことにもなるが。
「とはいえ、本来まとまりもなさそうなのがオーガーどもだしな」
先走った一部隊が近くに来てるなんて可能性もゼロじゃねぇ。功名心に流行るだとか一刻も早く暴れたいだけだとか、これまでその侵攻を跳ねのけてるところに少数で突っ込んでく馬鹿なんざ長生きは出来そうにねぇが。
「まぁ、ブーメランだわな」
よくよく考えるまでもなく俺の行動も似たようなモンだ。
「……てなワケで独断で暴走したオーガーどもの一部がうろついてる可能性もあるかと思ったんだが、今までそんなことは?」
「ありますよ。自分たち偵察隊が出張るのはそういうのを見つけて各個撃破をはかり、敵の数を減らすという意味合いもありますから」
「そうか。んじゃ、俺は単独であの山の辺まで行ってくるわ。居るかも程度の可能性なら、とりあえずは単独でいい。軽くひねれる程度の数なら殲滅してくるからその後で見分を頼まぁ」
偵察隊の前では装備の召喚を解除して休めないということもある。だからそんな名目で俺は一人になることに成功した。
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