蹂躙のあと
「実績としては十分だろうが、どうすっかな」
一人になって、召喚装備を解除して山を歩き、暑さとセミの声にテンションを下げつつも行軍するオーガーどもの一群を壊滅させたのは今したがのことだ。
「功名心はあっても実力が伴わにゃこうだわな」
振り返れば一面スプラッタな光景が広がり、鉄臭いとでもいうのだろうかただでさえ蒸しかえるような血の臭いが夏の暑さに醸されて正直長居したくない環境を作り出していた。
「正直帰りたくはあるが、オーガーどもが一軍を壊滅させられるような戦力がこの辺をぶらついてることを知らねぇのは今だけだしな」
オーガーどもからすれば先走った友軍だったモノを誰かが跡形もなく処分してしまわない限り、後続のオーガーどもが俺の屠った奴らの死体を見つける可能性は高い。血の臭いを感じ取るかもしれないし、死体目当てに集まって来るカラスなんかを見て確かめに向かった先で味方の死体を発見したってケースもあんだろう。
「強襲のお代わりは諦める、か」
倒したヤツらと似たような功名心に逸った奴らが居るかがまず未知数。次の襲い掛かる相手を求めて進んでいたら城塞から離れすぎたではマズイ。
「俺自身の食料とか物資の問題もあるけどな」
見分役に連れてきている偵察部隊の面々を城塞に帰さなきゃいけねぇって問題もある。少なくとも報告分に値する戦いは出来てんだ。
「引き返して偵察部隊と合流する」
それが俺の下した決断だった。この辺りは城塞を出てすぐとは違い木々の多い茂る山地だ。日が落ちて暗くなれば歩くのにも難儀する。
「ってな具合でこれ以上進むのも拙いだろうって思ってな。倒したオーガーどもの見分を一緒にしてもらいてぇんだが」
召喚装備を解かずに戻ったことで行きよりも短い所要時間で楽に偵察部隊と合流を果たした俺は話しても問題ない経緯と俺なりの考えを述べた。
「確かにああも見通しの悪い場所を暗くなり始めてから歩きたくはないですね。では、案内をお願いしても?」
「任しとけ」
俺がこしらえた死体の元まで案内して見分、帰還ののちに偵察隊の方で戦果を報告して貰う。帰ると決めたからにゃイレギュラーでもない限り今日の戦闘は終わりだ。
「『任しとけ』とは言ったが油断はすんなよ?」
一応撃ち漏らしなく狩ったつもりだが、あの戦場から逃げ出したオーガーが居る可能性だってある。脳筋なあの連中に逃げるなんてことを考えるやつがいるとも思えないが、凡庸なミスや軽い見落としが落命に繋がるのが戦場だ。
「はい」
「わかりました」
「いい返事だ。トドメを刺して回った訳じゃねぇからな。見分中も死にぞこないにゃ気をつけろ」
身体を真っ二つにされて長々生きてるとは思い難いが、忠告もしておく。それから、歩くこと暫し。
「うっ」
「く」
戦場だった場所に近づけば、血の臭いが濃くなり、幾人かが顔を顰めた。偵察隊と言えど城塞に努める兵士。こういう臭いにもも唸れているかと思ったが、そうでもないらしい。
「あれだ」
木々の間に倒れたオーガーの死体が見えて、俺はそれを示す。
「あれは……確かに。ですが」
「ここまでたぁ思ってなかったか?」
もっと少人数の敵を撃破して戻ってきたと思っていたんだろう。まあ、無理もねぇ。単独で自嘲せず暴れまわった場合の殲滅力は我ながらすげぇモンだとは思うくらいなのだから。
「だが、これも功名心に逸った一部の連中に過ぎねぇんだろ?」
本番はもっと先、これは前哨戦に過ぎねぇはずだ。
「いえ、これでオーガーどもの軍勢は全部です」
とか否定されるオチはねぇはずだ。
「悪ぃが頼まぁ。俺は当たりの警戒をしとく、なんせ」
俺たちの戦いは、きっと、ここからなんだからな――。
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いかがだったでしょうか?
本作は「1週間耐久!真夏の創作祭」への参加目的での執筆であったので、これで一端幕となります。
ずっと死蔵していた「極端に燃費が良く強力な「装備召喚」で不遇職の立場をひっくり返す」設定のお披露目の場でもあります。
基本この設定ありきだったので、設定だけそのままで主人公やプロットを取り替えたりして書き直した作品をまた公開するかもしれませんが、その時にはもっとこの設定を活かせたらいいなとも思っております。
では、お付き合いいただきありがとうございました。
不遇職の召喚術師なので謎の最強冒険者の正体が俺とは誰にも気づかれないようです 闇谷 紅 @yamitanikou
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