ビジネスの話、なんてそんな大仰なモンじゃなく


「敵の斥候部隊はナシ、ねぇ」


 オーガーどもが人間を舐め腐ってやがるのか、それとも斥候の意味と価値が理解できないレベルで脳みそまで筋肉が詰まった連中脳筋しか存在しねぇのか。


「とりあえず斥候部隊をぶちのめして『噂に偽りなし』たぁやれねぇ訳だ」


 バトルジャンキーと言う訳じゃあない。だが敵の強さを触りだけでも早期に確認しておこうという俺の目論見はあっさり潰えた。


「となると、逆しかねぇか。斥候として出向いて敵の強さを探りつつ一撃ぶちかます。威力偵察って言うんだったか?」


 見分役に偵察部隊の一つにでもついてきて貰い、安全なとこまで下がって俺の仕事ぶりを見て貰えばいい。


「ふむ、貴公が早々に仕事をすると申し出てくれたことはありがたい。そして貴公の強さを疑うわけではないが」

「危険だってか? まぁ、これまでこの国土を守るためオーガーどもと戦い続けたお人の言葉となりゃぁ、ないがしろにするつもりはねぇ。だがな?」


 城塞の補強や修復の後を見ればオーガーどもをこの城塞に近づけるのにも抵抗があった。俺はそのことを素直に伝えた。いや、出撃の理由にしたって言うべきか。


「すまぬ」

「謝罪はいらねぇ。俺としても仕事をやり易くしただけだからな」


 召喚した装備をフル活用して暴れまわった場合、味方を巻き込みかねない。敢えてこちらから出向く理由の一つだ。召喚した装備の振るい方なんざこっちは素人なのだ。エンチャントで膂力や技術を嵩増しすることはできるがまだまだ付け焼刃。


「これでもまぁ場数を踏んでるんで、いざとなっても逃げ時を見失うようなヘマはしねぇ。勝てねぇと思えば退くくらいはする」


 と言ってみたものの、俺の知るオーガーと変わらぬ実力であれば中隊くらいなら余裕で蹴散らせるだろう。理論上相手が大隊でも問題なく、連隊以上も大丈夫だとは思うものの、オーガーどもがそこまで群れること自体が本来レアケース。

 個々が強く巨体故に食事量も多いオーガーは村規模以上の集団をつくることが稀。そんな例外がお隣にあるというのはこの人間の国も運がないというべきなのかもしれねぇ。


「では、貴公に同行する偵察部隊の兵たちと引き合わせよう」

「頼むぜ」


 一応は納得してくれた騎士様に連れられてそれほど長くない話をした部屋を後にすれば、狭い廊下を通り抜け、階段を二階分ほど降りた先に兵士の詰め所らしきモノがあった。


「城塞内を巡回する兵の為の詰め所だが、偵察に出るあるいは戻って来た兵も利用する詰め所なのだ。今なら、出発の準備をする兵が居ると思ったが、正しかったようだな」


 俺に説明する騎士様を見て、出発の為の準備だったのか何やらごそごそやっていた者を含めて五名、作業の手を止めると直立不動の姿勢をとる。


「うむ、見たところまだ準備中か。ちょうどいい」


 騎士様は俺に五名の兵士たちを偵察隊の第四分隊の一部だと紹介した。なんでも本来十名の分隊を半分の人数に分けて運用しているらしい。一つの分隊を二つに分けての運用、首を傾げるほど俺は鈍くない。城塞に補修と補強のあとがったことからもこの城塞で命のやり取りが行われているのは想像に難くねぇ。

 恐らくは人的被害に補充が追い付かず、苦肉の策として分隊を分けて運用しているのだ。


「第四分隊の残りの五名は班長が今しがた報告に来たばかりでな。今は休息中だろう。よって、貴公に同行して貰うのが彼らという訳だ」


 騎士様はそう言った上で五名の兵士に俺と俺が提案した内容について話し、その身届人となるよう命を下す、ただ。


「一人ローブを着てるのがいるんだが?」

「ああ、彼女は召喚術師だ。縁故でこの城塞に来て偵察隊の一人として働いている。知っているかもしれんが、召喚獣は斃されても構成された魔力が失われるだけで済む。囮や危険をはらむ決死の伝令として運用するなら悪くないのだ」

「ほう」


 訝しんだ俺は騎士様の説明に目を見張る。確かに召喚術師のメリットを生かした運用をしている。不遇職だと決めつけてまともに見ようとしない者が多い今世だからこそ、前線に召喚術師を置いて運用していることに俺は驚いた。


「まぁ、召喚術師を偵察部隊に組み込んでいるというと驚かれることは多いがね。成果はきちんと挙げている。だからこそ、彼女を下に見る者はこの城塞内にはおらんよ」

「なるほど、運用方法を聞けば無理はねぇ」


 ただ、きちんと評価されてるなら弟子のひとりになんて考えはいらなそうではあるが。


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