ギルドで依頼を受けて来たモンですが
「何者だ?!」
オーガーどもの侵攻を跳ねのけて来た城塞だけあると言うべきだろう。城壁から生えた物見の塔の窓から誰何の声が降る。
「依頼を受けて来た冒険者だ」
「依頼を受けただと? 冗談も大概にするがいい!」
こちらが叫び返せば、気分を損ねた様子で塔から怒声が返る。
「単身徒歩でやってくるような冒険者をギルドが斡旋するものか!」
続く言葉は概ね正しい。これからオーガーどもとの防衛戦があるのだ。助っ人として送り込んでくるなら相応の人数のパーティーであるとかが基本であるし、少ない例外の場合も送迎の為に馬車を出すと依頼主側の方で申し出ている。
普通に考えれば
「割符はある」
ギルドでの手続きで受け取った依頼請負人の本人確認用の割符が俺にはある。割と重要度の高い依頼でのなりすましを防ぐため今世では俺が生まれる前から使われてる本人確認の手段だ。前世でも戦国時代とかに交易で割符的なナニカは使われてた気がするので、世界が変われど人の営みが続けばどこかの誰かが思いつくモンなんだろうとも思う。
「割符ぅ? ……待ってろ」
依頼を請け負った冒険者の証を持ち出されては流石に確認せざるを得ないのか。誰かを呼びにもしくは報告だろうか、塔から人の姿が消えるのを見届けた俺は割符を弄びつつ空を仰ぐ。
「雨ってこたぁなさそうだな」
その分日差しがきついが。季節は夏。城塞に近づく輩が身を隠せぬようにか城塞の側には樹一本生えてはいないが、見渡す限り不毛な大地という訳でもなく視界の端には木々の緑が入って来るし、喧しく鳴くセミの声もそちらからしてくる。
「夏真っ盛り……大変そうだなぁ城塞の兵士諸君も騎士様も」
金属鎧を着こんだ戦士でなかろうと想像力がいくらかあれば夏場にそれを着ざるを得ない相手の苦労は欠片ぐらいなら察せる。生憎と俺の召喚してる装備の方は敵が炎を吐く魔物だったりすることも考えて熱を遮断する仕様なので欠片程度になっちまう訳だが。
「割符を持った冒険者だと聞いたが――」
城塞から人が複数人現れ、中央のそれなりに身分の高そうな中年の推定騎士様が口を開くまでにそれほど待たされはしなかったと思う。こっちも色々思いをはせてたこともあるにはあるとして。
「なっ、コイツ」
「やっぱり、そうだろ?」
「あの鎧、もしや――」
騎士様の左右が騒がしくなる。辺境の城塞ということだが、召喚装備を纏ったこの姿はそんなところにまで知られているってこったろう。とかカッコつけて別人と勘違いされてたってオチも人生にはままあるもんだ。
「ああ、これだ」
どちらでも良いようにただ真ん中の騎士様の言葉にだけ応じて取り出した割符を渡す。
「確かに。なるほど、貴公が引き受けてくれたのか『鎧の悪魔』」
「悪魔が気を悪くしなきゃいいがね、その呼び名」
騎士様が俺の通り名を呼べば左右の騒めきが一層大きくなる。遠くのセミの声が完全に負けていた。
別にセミのファンでもなければ応援する気もない。暑苦しいんでむしろボリューム下げろと言いたいくらいの立ち位置だ。それだけついてきた連中がうるさいということで、ただ、騎士様の言葉で若干向けられる視線の質も変わったように思える。
見張りの兵士から単独徒歩で依頼を受けてやってきたと言い張る全身鎧のアヤシイヤツとでも話半分に聞いてたヤツも居たのだろう、おおよそ。
「貴公の噂はこんな辺境の城塞にも届く程だ。味方であれば心強いことこの上ない」
「そう言ってもらえりゃ幸いだ。なら、うわさに違わねぇってトコもいくらか見せといたほうがいいんだろうなぁ?」
正直ついこの間まで不遇職だと見下されていた身からすれば他人の評価なんぞ今更ってところもではある訳だが、きっちり力を見せておけばこっちの言い分が通りやすくなるという利点があるのを俺は既に経験していた。
「気が短い、なんて言われるかもだが、早速仕事の話がしたい。いいか?」
「そうだな。今のところオーガーどもが姿を見せたという報告もない。忙しくなって話もできなかったではいい訳にもなるまいよ」
ついてくると良いと言う騎士様に素直に従い、俺は城塞へ足を踏み入れる。
「なるほど、な」
城塞の内に入れば果樹が植わっているのが見えた。前世で言うところのナツメに近く、確か容易に干し果実に加工出来て実もたくさんなる種の果物であった筈だ。籠城を鑑みて植えられてるのだろう、おそらくは。
ただ、俺が目を留めたのはそこだけでない城壁の一部に内側からでなければ見えない補強と補修のあとがいくつも散見されたのだ。
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