第14話
宝飾品と仕立て中のドレスを思い浮かべて、お継母様とドレスや髪形の相談をして、思い付いた。
「クレメンテ様、ちょっと、おねだりしてもいいですか?」
「なんだい?僕にできることなら何なりと」
「お継母様と、髪形もお揃いにしようと話してるんです。ドレスは、立場も体型も違うのでお揃いにはできないし。どうせお揃いでカンザシを付けるなら、髪形もお揃いにしようって。それで、横髪を後ろにまとめてから、全体を編んで最終的に前に垂らすようにしようかと言っているんです。でも、それだとカンザシだけじゃ寂しくて」
「ふむ、それで?」
「カンザシの花と揃いの、小さなピンを10個ほど作っていただけないでしょうか?」
「御継母上の分もだね?」
「はい。厚かましくて申し訳ないのですけど…いいでしょうか?」
「もちろん。作るよ。待ってって。御継母上のカンザシを作ったら、取り掛かるよ。同じ形の銀のピンも作ったらどうかな?色ガラスと銀の小さな花を髪に散らす感じで、どう?」
「素敵です。よろしくお願いします」
お継母様はたぶん襟を立てた正統派の上衣に胸の下で切り替えて下衣をゆったりさせる形のはず。
私が仕立てているのは、肩を出して袖がふんわりと丸い形の定番の形の薄紅色を基調としたドレス。
きっと、このお披露目でクレメンテ様にも、元王女の私にも、お父様たちと私の関係などにも注目が集まるわ。
クレメンテ様には実力があり、私とお父様たちも仲良くしているのだと、私に反意などは無いと感じてもらえるといいのだけど。
貴族の方々からの良くも悪くも厳しい眼差しを、跳ね返さくては!
あっという間の準備期間が終わり、お披露目とおもてなしの日がやってきた。
早い時間に王城に入り、お継母様とともに飾られていく。
ドレスに着替え、髪を結い、装飾品を身にまとい、化粧をして、女の戦闘準備が完成すると、お父様とクレメンテ様が迎えに来てくれる。
「二人とも、美しいな」
「えぇ、華やかでお美しいです」
「ふふ、ありがとうございます。あなたもクレメンテ殿も、男前ですわ」
「えぇ、素敵です。お父様は威厳を、クレメンテ様には自信を、纏っているようです」
それぞれに手を差し出し、それぞれの夫にてを引かれて会場に向かう。
お父様たちは別室へ、私たちは控室で待機となっているために早々に分かれたけれど、お継母様と目で頷き合ったおかげか緊張はしていない。
私よりクレメンテ様の方が緊張しているかと思いきや、お客様対応用の意識になっているようで素直に頼りたくなるほどに落ち着いていた。
国内の一部の貴族たちの不穏な動きを聞かされていたから、少し不安があったお披露目も、結果は上々だった。
ドワーフ国からのお客様である国王と妃、第二王子とその妻子の5人は、花束と花瓶を視線で燃やしてしまえそうなほどに見つめ、感嘆のため息を漏らし、これ以上ないほどにクレメンテ様の実力を褒めてもらえた。
お父様たちも、なぜこれが自分の物でないのかと嘆くほどに感動してくれた。
緻密な技術の結晶は、不穏分子たちにぐうの音も出させず、作り笑いを張り付かせた。
クレメンテ様は王国屈指の銀細工師として名を上げ、王女であった私が嫁いだことすら納得だと言わしめる結果となった。
素晴らしい品物でもてなされたドワーフの国との良い国交の礎となったと、追加報酬が約束されて、私とクレメンテ様は家に帰って二人きりになってから小躍りしてお祝いした。
後日ガルガンさんから、おかげで大儲けできる案件が舞い込んだと大喜びで連絡があった。
色ガラスの出来の良さが、ドワーフの方々の目を引いたようだ。
イアン少年からも、シュバット君が仲間内で認められ、少しずつだが仲良くできていると、手紙を貰った。
お店の方もあれからしばらく、私とお継母様がつけていたカンザシはコツが要るからかあまり王国では流行らなかったけれど、代わりに考案した櫛形の髪飾りと揃いのピンたちがよく売れた。
髪に小さな花が散りばめられている様が、貴族の女性たちに大いに流行ったみたいだ。
ガルガンさんの知名度も合わさって、二つの工房が手掛けた銀とガラスのくり抜き飾りも、王国中に「愛を紡ぐ絆飾り」として広まっている。
私の銀細工師見習いとしても修練もあって、予約注文が溜まりに溜まって、最近は作成の忙しさでお店が明けられないこともあるほど。
そして、王国に世継ぎとなる王子が誕生したと国中が沸き上がった日に、私の妊娠も発覚し、幾重の喜びでクレメンテ様が目を回して倒れるという小さな事件も起きていた。
私は、銀細工師クレメンテの妻として、母親として、女として、銀細工師見習いとして、今日も幸せに包まれて生きている。
「あなた、いつになったら東国に旅行にいけるでしょう?」
「しばらくは、無理そうだね…」
「楽しみにしておきます」
「そう遠くないうちに行けるように、頑張ります」
王女、銀細工師と結婚しました! あんとんぱんこ @anpontanko
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