第13話
納品のための謁見は、形式通りに進んでいった。
花束と花瓶は、危険物検査の魔法にかけられたときに一度だけ布がとられたがすぐに元に戻されて、王城での保管場所に持っていかれた。
「ご苦労であった。ちらりとしか見ていないが、美しい物であった。細部まで観察したいが、それは今は我慢しよう。経費計上書は、あるな?」
「ありがとうございます。計上書は、こちらに」
「では、あちらに。後日、作成費として依頼報酬とともに支払われる。ドワーフ族の方々は、一月後の中頃にお見えになるそうだ。別で使いを出す。揃って参れ」
「かしこまりました」
問題も起きず、滞りなく終わった謁見に胸を撫で下ろして、謁見の間を出るとまた控室に戻された。
カレンから再度お茶を貰い、カラカラだった喉を潤す。
「エリア様、少し落ち着かれましたら、王妃様がお待ちです。今度は、娘とその夫として。とのことです」
「わかりました。カレン、ありがとう」
「…そっかぁ」
「クレメンテ様?どうなさいました?」
「王妃様、いや、エリアの御継母上には一度しかお会いしてないし、娘婿としてお会いするのは、御父上と同じくらい緊張する。陛下との謁見より遥かに…」
「そうでした。大丈夫、前にも言いましたけど優しい方ですし、私の見方をしてくれたのですもの」
「うん、がんばるよ」
「お二人とも、ご案内してよろしいですか?」
「えぇ、お願いしますわ」
通されたのは、お継母様の個人的な温室だった。
完全なる、お継母様によるお継母様のためのお継母様の温室。
「お久しぶりですね。エリアーデ、クレメンテ殿」
「お久しぶりです。お継母様」
「お久しぶりでございます」
「どうぞ、座って。ただ、二人の元気な顔が見たかっただけなの。こんな時じゃないと揃ってないと思って、呼んじゃったわ。許してね」
「いいえ。なかなか揃っては会いに来れませんから。お腹、だいぶ大きくなりましたね」
「えぇ、とても元気なのよ。お姉ちゃんに会えたから、恥ずかしいのかしら?休憩してるみたいだけれど…」
「元気ならよかったです。王妃様も、ドワーフの方々をおもてなしされるのでしょう?その、大変では、ないですか?」
「そうねぇ、少しね。でも、しない訳にもいかないし、ほどほどに頑張るわ。ありがとう、クレメンテ殿」
「お継母様、ご無理はなさらないで下さいね」
「えぇ、もちろん。ねぇ、気になっていたのだけど、その髪飾り。もしかして、カンザシ?」
「そうなんです。お継母様からご紹介いただいた、王宮魔道具師のイアン様に作っていただいた魔道具で、作ってもらったんです」
「すごく、きれいね。これは、サキラの花かしら?可愛らしいわ」
「正解です。少し結い上げるのにコツが要りますけど、すごく可愛らしいからお気に入りなんです」
「いいわね。私も話に聞いて、気になっていたの。私にも作ってくださらない?クレメンテ殿」
「はい、もちろん!」
「ふふふ。クレメンテ様、緊張しすぎです」
「そりゃ、ね。どんな意匠がお好みですか?ご希望があれば」
「そうねぇ、エリアーデとお揃いがいいわ。親子でお揃いも、素敵でしょう?」
「いいですわね。お継母様には、もう少し赤みの強い色の方がお似合いですから、同じ意匠で色違いにしませんか?」
「そうしましょう。お願しますね?」
「はい。では、その様に」
「エリアーデ、おもてなしの時に一緒に付けましょうか?」
「わかりましたわ。楽しみです」
「そういえば、ドレスや宝飾品は大丈夫なの?沢山は、持って行かなかったでしょう?」
「そうですね、少し新たに持って行きたい物がありますから、あとで一度部屋に行きます」
「えぇ、他にも足りないものは言ってちょうだいね?クレメンテ殿の物も、ちゃんと用意するわよ?」
「えぇ、ありがとうございます。そうしますわ」
なんだかんだと雑談をしてから温室を辞して、私が使っていた部屋に向かうと、ずっと私に付いていてくれた侍女が部屋の前で待っていてくれた。
「エリア様!」
「ユーリ!久しぶりね」
「お会いしとうございました。少し、日に焼けられましたか?」
「少しね。ユーリ、少し見ていきたいの。いい?」
「もちろんです。エリア様のお部屋ですもの。お手伝いいたします」
「ありがとう。でも、どうしてここに?」
「王妃様の従者殿からエリア様がお部屋に見えると、連絡を頂いたんです。ですから、仕事を他に任せて飛んでまいりました」
「ありがとう」
私がユーリに手伝ってもらいながらいくつかの宝飾品を選んでいる間、クレメンテ様は、ポケ~っと部屋を眺めていた。
「何か面白いものがありましたか?」
「いや、装飾などを眺めていたら、何かいいものが思い浮かばないかと思って。素晴らしいものや美しいものを見ると、触発されるからね」
「なるほど。何か思い浮かびましたか?」
「君に似合いそうな、模様がいくつかね」
「では、楽しみ待っていますね」
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