第32話最後のトップメンバー

俺がいつも通り家の中で過ごしているとスマホに電話がかかってくる。


特に相手の名前を確認するようなことはせずその電話に出る。


「もしもし」


「真神」


「頼まれてた宗教のトップのことについて調べてて突き止められたかもしれない」


口調は何と言うか歯切れが悪く自信がなさそうな感じだ。



「かもしれないってどういうことだ?」


他の全く違う誰かという可能性もあるということか。



情報が途中から完全に途絶えていたらしいのでその可能性は十分にある。


「何と言うかいまいち確証が持てないんだ」


珍しく不安を含んだ口調で言う。


「こんな曖昧な情報を伝えてお前を混乱させるのはどうかと思ったんだが一応伝えておこうと思ってな」


「今日またあの銭湯で話せたりするか?」


俺は確認するような口調で尋ねる。


「安心しろ最初からそのつもりだ」


「それじゃあいつもより少し早いが先に銭湯の方に向かっててくれ俺もすぐそっちに向かう」


そう言って電話を切る。


今喋っていたことを短く伝えようと思ったが全て分かっていると言わんばかりの表情で無月は頷く。


何も言わずに家を出て銭湯へ向かう。


銭湯に向かう途中の分かれ道の右側から勇輝が歩いてくる。


「まさか会うなんてな」


「てっきりもう勇輝は銭湯の方に行ってるのかと思ったんだけど」


「どうせ行かないといけない場所は変わんないんだしゆっくり歩きながら行こうぜ」


「そうだな」


俺は短く言葉を返す。


「真神はどうするつもりなんだ?」


「何がだ?」


「このまま真実を突き止めるだけでいいのか!」


「だから俺は前に言っただろうこの出来事に肩がついたら俺は一切関与しない、後は自分で決めてもらうことだ」


俺があの時声をかけなければあの時万引きしようとしているところを見逃していれば無月は万引きがばれて怒られたかもしれないがここまで俺と深く関わることはなかっただろう。


あの時俺が首を突っ込まずにスルーしていれば無月の自殺をしたいと言う願いはかなっていただろう。




「俺が言ってるのはそういうことじゃない!」



「あの子の父親が、母親がもう死んでる可能性だってあるんだぞ!」


「2人が今生きてるかどうかなんて俺にもわからないだから突き止めようがない」


「だけどもし生きてるなら2人で直接話しておいた方がいいだろう」


もしそれが親子の最後の会話になったとしても。


まあ死んでるか生きてるかは全く分かっていないので確率的には50%50%というところだが。


きっと何度も考えて俺にどう言おうか考えていた言葉なのだろう。


俺の考えを尊重し無月の考えを尊重し出てきた言葉がきっと今の言葉だ。


「安心しろどんなひどい結果になっても勇輝は何も悪くない」


「ただ俺のわがままに付き合ってもらってるだけだ」


そうこれは単純にただの俺のわがままなんだ。


偶然見かけた自殺志願者の少女をこの世界に繋ぎ止めてしまっている。


言葉で適当な理由をでっち上げ彼女をこの世界につなぎとめようとした。


彼女の思いを踏みにじり適当な戯れ言を並べこの世界にいてもらっている。


「勇輝が無月さんの自殺を止めたいと思ってるのは知ってる」


「それを知っておきながら俺は巻き込んだ俺の勝手な理由で だから怒るなら俺に怒ってくれ」


「今更そんなことで怒りなんて湧いてこねえよ」


「それになんだかんだ言って 俺もここまで首を突っ込んじまったわけだし最後までやれるだけのことはやってみるつもりだ」


そんな話をしているといつの間にかいつも通っている銭湯にたどり着いた。


いつも通り体を洗ってもらい2人で風呂の中へと入る。



「それでそのトップのやつが分かったっていうのはどういうことだ?」


「正確に言うとその可能性があるってだけだ」


「それにしてもよくそんな情報をすぐに集めてこれるもんだよな」


「どっかの誰かが俺に全部人探しを依頼するからだろう」


「いつも悪いとは思ってる」


「でも頼りにしてるんだぜこれでも」


「調子のいいこと言やがってそんなの言われなくたって分かってる」


「情報屋の年寄りから説得して聞き出すのがどれだけ大変なのか分かってるのか」


前にその情報屋の話を聞いた時は俺もついて行った方がいいのかと思ったが、勇輝のトークスキルに任せておけば間違いないだろう。


「今お前の頭の中にあのお嬢ちゃんを説得させられるような仮説はあるのか?」


「仮説と言えるほどの立派なものかはわかんないが一応頭の中にある」


それまで無月がこの世界で生きてくれているかは分からないが。


一応俺の推理を聞いてくれるまで死なないという約束はしてくれたがそれだっていつ心変わりするかわからない。


銭湯から出て帰っている道の途中で1枚の写真を渡された。


「それがこの前頼まれてたやつの写真だ」


「さっきも言ったが情報が曖昧なせいではっきりとは言い切れないが」


「つまりこの人が全然その宗教のトップじゃないただのその宗教に所属してる人って言う可能性もあるってことか」


「正確に言うならもともとトップだったやつだな」


「単純にその宗教から入ったり抜けたりするやつも多いからそいつらを全員辿っていくことになる」


「分かった、この写真はありがたく使わせてもらう」



「おかえりなさい、それで新しい情報を教えてもらったりしたの?」


「ええ、曖昧な情報ではあるみたいなんですけど」


言ってさっきもらった写真をテーブルの上に置く。


「この人は?」


「今は情報が途絶えている宗教メンバーのトップの1人らしいです」


「俺この人を探しに明日宗教の方にまた行ってみます」


「私も行く」


「分かりました」


「それじゃあ今日は明日に備えてもう寝ましょうか」


次の日。



朝ごはんを食べ終え出かける支度をし宗教の建物へと向かう。


「そういえば今思ったけど、昨日見た写真に写ってた人が来てる服って最初にあった男の人が来てたのと同じ白い修道服じゃない?」


「そう言われてみれば確かにそうですね」


「宗教で統一してるんでしょうか?」


「でもこの前公園で会った人は特にそういうものを来たりはしてなかった」


その宗教の建物の前までたどり着く。


「すいませんこの男の人って今どこにいるか分かりますか?」


俺はそう言って受付の人に声をかける。


「申し訳ありません今この方は不在です」


「この人がどこにいるのかっていうのは分かったりします?」



「おそらくいつも通りなら美術館に行っていると思います」


「美術館ってどこの美術館ですか?」


「ここからあの少しまっすぐ歩いたところにある建物なんですけど」


「念のために今地図を書いてお渡ししますね」


「ありがとうございますいつもいつも」


あの公園に行く時も地図を書いてもらった。


「できましたこんな感じでよろしいでしょうか?」


「ありがとうございます助かりました」


俺は書いてもらった地図の紙を受け取り早速その場所へ向かう。


前に地図を書いてもらった時もそうだが 、分かりやすく特に迷うこともなく目的の場所にたどり着くことができた。


「結構大きなところなんですね」


普段こういうところには全く来ないので少し入りにくさを感じる。



建物の中に入ってみると そんなにたくさんの人とは言えないまでもそれなりに人が入っていた。


1つの作品をずっと観察して楽しんでいる人もいれば、適当にブラブラと中を見回しながら作品を見ている人もいる。


多少は写真と同じ人物を探すのに手間取るかと思っていたが意外とそんなことはなくすぐに見つけることができた。


「写真の人ってあの人じゃない?」


「ええ、行ってみましょうか」


俺は真ん中の方に飾られている1つの絵をじっと見ている男に声をかける…


「あの…」


声をかけると絵からゆっくりと目線を外し俺の方に顔を向ける。

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