第31話命は平等?
俺がちょうどスプーンをオムライスに突っ込んだところで無月が小さくため息を漏らす。
「どうしたんですかため息なんてついて」
スプーンですくったオムライスを口に運び3回ほど
「特に何があったってわけでもないんだけど少し気になることがあって」
「気になることですか」
「最初に私がお父さんとお母さんと一緒に住んでた家に行った時テーブルの上にお母さんが書いた手紙があったでしょ」
「そういえばありましたねそんなの」
その時の手紙を俺がこっそり家に持って帰ってきているのだがそのことはまだ無月に伝えていない。
別に隠しているわけではないのだがわざわざ言うことでもないかと思いそのままにしている。
俺が1人でどこかに出かけている間に時々家の掃除をしてくれているのでもしかしたらその手紙を見つけているかもしれない。
見えにくい場所やバレないような場所にわざわざ隠しているわけでもないのでばれていたとしても不思議はないだろう。
それでも何も言ってこないのであればわざわざ言う必要はない。
「その時の手紙がどうかしたんですか?」
「手紙を見た時少し何か違和感があって」
「違和感ですか俺は特にそういうのは感じませんでしたけど」
「私のお父さんが3歳ぐらいの時に出て行ったっていう話はしたわよね」
「はい、そんなに具体的に聞いたわけじゃないですけど確かに聞きましたね」
「もし私の子育てが嫌で家を出て行ったんだとしたら2人一緒に出ていくっていうのが普通じゃない」
「それが普通なのかどうなのかわかりませんけど、お父さんが例えばその時子育てに嫌気がさして出て行ったんだとしても、 お母さんがその時いやじゃなかったんだったら不思議はないんじゃないですか?」
「あまり事情を知らないよその家のことについては下手なこと言えないんで何とも言えませんけど」
今までよく事情も知らないのにズケズケと自分の考えを口にしていたじゃないかとその言葉を口にしながら思う。
「そもそもお父さんもお母さんも子育てが理由で家を出て行ったのかなんて分かりませんよ」
「まあそれはそうなんだけど」
お父さんの方は分からないにしてもお母さんの方は人形のように動かない状態だったとはいえ実の娘と同じ家に暮らしていたのだからその可能性は低いだろう。
「それに自分の子供と本当に関わりたくないって思ってるんだったら精神的距離よりも先に物理的距離を取るんじゃないですか?」
「そうなってくるとお母さんがあの神様に何を祈ってたのか気になるわね」
天井に向かって何とも言えない感情がこもった言葉を吐き出す。
「それがわかれば苦労しないと言うかなんと言うか」
確かに最近前に進んでいる感覚はあるのだが何か新しいことがわかるたびに後ろに戻されているような不思議な感覚に襲われる。
話と考えることに夢中になりすぎてすっかり忘れていたオムライスをスプーンですくい自分の口に運ぶ。
「そういえば今更だけどオムライス美味しい」
「美味しいですよ」
俺も話しに夢中になりすぎて味わって食べるのを忘れていた。
おそらくもう少し早く声をかけられていたらとっさに曖昧な答え方をしていただろう。
最も俺が曖昧な答え方をしても特に興味なさそうにうなずきながら済ませそうな気はする。
それでも曖昧に答えて落胆させなくて良かったと思う。
「今日の夜また銭湯に行ってきます」
わざわざ伝える必要もないかと一瞬思ったが念のために伝えておく。
「そう、わかった」
帰ってきた言葉はあっさりしていて当たり前のような口調で言う。
しばらくしていつも通りの時間に戦闘へ向かった。
大した情報を集められているわけではないが念のため報告しておく。
ついでに今日無月とお昼ご飯を食べながら話したことも。
「なるほど確かにお母さんとお父さんが2人とも子育てに限界を感じて出て行ったんだとしたら2人同時に出て行ってもおかしくない」
「だけどお母さんはその時残ってて今あの家にいないってことは別の理由が絡んでるって事だよな多分」
「それはどうなんだろうな」
俺はため息混じりの言葉を返す。
「頼んでおいたトップの情報について何か分かったか?」
「頼まれたの今日の昼前だぞ、そんなに簡単に見つかるわけないだろう」
疲れ切った口調で言う。
「わかってるダメもとで聞いてみただけだ」
「もし自分のお父さんとお母さんが子育てがやで家を出て行ったんだとしたら…」
特に何の言葉を続けるでもなくただそうつぶやく。
「なぁ真神」
「うん?」
「もし自分がまるまるだったらって考えたことあるか?」
「例えば自分が麻酔科医だったらとかか?」
「なんでわざわざいろんな医者の仕事がある中で麻酔科医を選んだんだ、 昔なりたかったのか?」
「別に他意はない」
「俺はさ、時々思うんだあのまま警察を目指してたらどうなってたんだろうって」
「たとえ勇輝が無事に警察になれたとしても仕事をこなしていくうちに正義感が強いあまり警察って誘惑からはみ出る気がする」
「そんなことはない、と言いたいところだが素直に首を横に触れないのが悲しいところだ」
今警察の仕事をしているわけではないが新聞記者の仕事をしている関係者しか知らないような情報を横流ししてくれたりしているのでやはり正義感が強すぎるがゆえに警察には向いていないだろう。
しばらくして風呂から上がり俺は家に帰りゆっくりしているといつのまにか寝る時間になっていた。
無月に布団を引いてもらい俺はその布団の上に勢いよくダイブする。
「前にも言ったけどその折り方危ないからやめたほうがいいんじゃない」
言葉だけ聞けば心配しているように聞こえるがいつもと同じ特に感情がこもっていない口調。
それでも心配をしてくれるのは素直に嬉しい。
「大丈夫ですよ慣れてますから」
その俺の言葉には何も返さず布団の中に入る。
「それじゃあ電気消しますよ」
「ええ」
「ねえまだ起きてる?」
「はい」
短く言葉を返す。
「ここ最近あなたと初めて会った時に言われた時の言葉を考えてたんだけど」
「初めて会った時何か言いましたっけ?」
一方的に自分の戯言を聞いてもらったのは覚えているが詳しい内容までは覚えていない。
「自分の命の価値は自分が決めるものだって言ってたじゃない」
確かにそういうことを言ったのは覚えている。
「それがどうかしたんですか?」
「他の人から見た赤の他人の命の価値って同決まるのかと思って」
「それはすごい難しい【論題】ですね」
「まず人の考え方は十人十色ですから、それに人の考えなんてその時の感情状況によってコロコロ変わるものです」
「例えば俺が大火事の現場に遭遇して1秒でも迷ってたらどっちも助からないっていう状況でどっちか必ず助けなければいけません」
「1つの意見として命は誰しも平等だからどっちも助けるべきだという意見があったとします」
「でも実際にそれが通用すると思いますか?」
「思わない」
「もし自分が俯瞰的にその状況を見ていたらそれが正しい答えなのかもしれませんけど」
「じゃあ実際にその場にいる赤の他人と自分の子供どっちを先に助けますかって言われたら当然自分の子供なんじゃないですかね?」
この考えを全く知らない赤の他人に説明してもおそらくただあなたは冷たすぎるというような答えが返ってくるだろう。
もちろんその考えを実行できる状況だったら俺もそうするだろう。
まだそんなに人生を生きていない俺がこんなことを思うのは早すぎるかもしれないが人生そんなにうまくいかないのが普通だ。
「だから俺の考えはさっきも言いましたけど他人から見た命の価値は状況によって変わるってことです」
「なるほどあなたらしい」
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