第30話最後のトップメンバー

公園から家に帰ってきたところで俺は勇輝に電話をかける。


「なんだ真神?」


「まだ仕事なんだが」


「その割には随分と忙しそうじゃないな 」


「うるせえなぁ、わざわざこんな時間に電話してきて何の用だ?」


「これからお昼休みの時間に会えるか!」


いたって真面目な口調で尋ねる。


「ああ、 分かったこの仕事が片付いたら近くの公園に行くから先に行けたらそこで待っててくれ」


「分かったそれじゃあ後で」


言って電話を切った。


俺は言われた通り勇輝が働いている会社の近くにある公園で待つことにした。



特に何の理由もなく青い空を見ていると勇輝がやってくる。


「どうしたんだそんな物思いに耽ったような顔をして」


「別にそんなつもりはなかったんだがそんな風に見えたか」


「最近どういう理由であの宗教の30年前の事件が起こったのか考えすぎてるせいでわけがわかんなくなってきたんだ」  


「少し紺をつめすぎなんじゃないのかたまには休んだってバチは当たらないだろう」


「それがそうも言ってられなさそうなんだよ」


「どういうことだ!」


「まあ何でもないこっちの話だ」


理由を聞きたそうな表情をしていたがそれ以上何も聞いてこなかった。


これ以上のんきに調べているわけにはいかない。


またいつ無月が自殺をしたいと思い始めるかわからないだからなるべく早く答えを出さなきゃいけない。


それらしい答えにたどり着いたと思ったらまた違う答えにたどり着いて結局何が本当のそれらしい答えなのかわからない。


「俺はさぁ別に30年前の真実を完全に暴こうとかそういうことは一切考えてないんだ」


「ただそれらしい理由を組み立て無月さんに納得してほしい」


「納得した上で…」


自殺をしてほしい。


納得した上で自殺をして欲しいなんていう考えは今更ながら自分勝手にも程がある。


「そんなこと言われなくたって最初からわかってるさお前がお嬢ちゃんのために必死になって、いろんな情報を集めて最後まで見届けようとしてることぐらい」


「誰かのためとかそんないいもんじゃないただ自分のためだ」


手前がっての自分のエゴのため。


「ただの自分のエゴのためだ」


「俺は困ってる人間を必死に助けようとしてこんな結果を残せたっていう優越感に浸りたいだけだ」


「死のふちまで追い込まれた人間を俺は助けることができたっていう硝酸を浴びたいだけだ」


いや違うこの理由はどれも全部後付けだ。


俺が彼女を助けようとしている本当の理由は自分が苦しくなりたくないからだ。


自分が知っている人間が自殺をしたという話を聞いてあの時助けられたんじゃないかっていう考えを頭の中に浮かべたくないから… 


だからやっぱりどんな理屈をつけようが自分のためだ。


「自分が人を助けようと思った理由なんて何でもいいんじゃないのか」


言いながら俺のすぐ横にあるブランコに座る。


「人を助けようと思った理由なんて全てとは言わないがほとんどが後付けみたいなもんだろう」


「あの時助けなきゃいけないと思って助けましたとか言ってる人テレビでたまにいるけど理由なんかなくたって人を助けるやつは助けるし助けないやつは助けない」


「別にどっちが悪いとかどっちが

素晴らしいとかじゃなくてな」


「俺は人を助けない人間の方が多いと思うんだ」


「例えば誰かが車に引かれそうになったところを見た時人間は体が恐怖に震えて動けないのが普通だ」


「そうなのかもしれない」



「話は変わるが最近はかなり動きすぎたからしばらく大人しくしてないといけないっていうのはまだ続いてるのか?」


「いや最近は前と比べて落ち着いてると思うがどうかしたのか?」


「この前銭湯で写真をもらった男に会ったって話はまだしてないよな?」


「ああ、 まだその話は聞いてない」


「俺が一度も行ったことがない遠い公園にいたんだけど見た目は特に普通だった」


「見た目が普通じゃない奴ってどんなやつだよ」


「お店の中でも外でもずっと修道服を着てるやつとか」


「それは確かに普通のファッションではないな」


「それで話が脱線したが結局のところ俺に何をして欲しいんだ?」


「あの宗教のトップの最後の1人を探して欲しいんだ」


「確か最後の1人って今行方不明になってんじゃなかったか?」 


「俺が聞いた話だとそういう話もあるけど」


「そういう話もあるけどっていうかその情報俺がお前に教えたやつじゃないか」


「お願いだ頼むもう頼れるのはお前しかいないんだ!」


「嘘つけ俺以外にこのこと誰にも頼んでないだろう」


「なぜわかった!」


「よく分かったな」


「俺以外まともな友達いなさそうだし」


なんてひどいことを平気で言うやつなのだろうかこいつは。


「まあ分かったよしばらくの間何も手伝ってやれなかったからそのぐらいのことは引き受けてやるよ」


しばらくの間と言ってもそんなに経っていないはずなのだが引き受けてくれるというなら言葉に甘えておこう。


「これは俺の予想だが今まで調べてきたどの人物よりも多分調べるのは時間がかかるぞ」


「なにせそいつの情報が途中から途絶えてるからな」


「ああ、分かってるどれだけ時間がかかってもいい」


「ついさっきまでなるべく早く突き止めないととかなんとか言ってなかったか?」 


「だからなるべくそいつの正体を早く突き止めて欲しい」


「どっちなんだよ」


「なるべく早く情報をキャッチできるように努力はするがあまり期待はするなよ」


「ああ、分かってる」


俺はそう言って公園を出て家へと帰る。



「おかえりなさいどこに行ってたの」


「少し公園の方に行ってました」


「勇輝さんと話して何かわかったことあった」


「何かについて話してたっていうよりは俺の戯れ言にただ付き合ってもらってただけですね」


「よく俺が勇輝と話してきたって分かりましたね」


勇輝としか情報を交換していないのでわざわざ言わなくてもわかるのかもしれないが。


「あなた勇輝さんしか知り合いいないから聞かなくてもわかる」


そんなことはないと言い返そうと一瞬思ったがよく考えてみれば確かに知り合いらしい知り合いが他にいないことに気づかされる。


2人して俺のことをどう思っているんだろうか。


全く2人して失礼だなぁ。


「今からお昼ご飯作るけど何か食べたいものある?」


言いながらキッチンの前に立ちエプロンを身につける。


「ああ、別に…」


「何でもいいって言ってもある程度のたぶん食べ物は出てくるけどどういう食べ物が出てくるかわかんない」


いつも通りの無表情と平坦な口調でそう言ってくる。


だがその無表情がいつもとは違い逆に恐怖を抱かせる。


俺に何か食べたいものあるかと聞いても何でもいいですよと答えるから先読みされたのか!


「それじゃあお任せで」


「分かったオムライスでいい?」


「はい!」


よくよく考えてみればさっきと言ってることはほぼ一緒なのだが言葉のニュアンスの違いが功を奏したらしい。


もしかして作ってくれてるオムライスの中に毒を仕込んだりしてないよな!


そんなことはないと分かっていながらもさっきの言葉を聞いてから良くない想像が頭の中に広がる。


いつも表情をあんまり変えないので何を考えているのか分からないというのもあって余計に心配になってしまう。


お昼ご飯ができるのを待っているとキッチンからいい匂いが漂ってくる。


頼んでいたオムライスができテーブルの上にそれが運ばれてくる。


席に座り2人でそれを食べる。


まだまだ分からないことはたくさんあるがとりあえず今はこのオムライスを美味しく食べさせてもらおう。


毒など一切入っておらずいつもの美味しい料理を作ってくれたことに安堵する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る