第27話青い空に飛び立つ鳥
「その人はいい意味で普通って言うか宗教の雰囲気に毒されていない感じがするんです」
「宗教に毒されていないというのは具体的にどんな感じですか?」
「具体的にどういう感じかって言われると説明するのが難しいんですけど普通の人とそんなに変わらないっていう感じですかね」
「つまりいきなり誰かに教材を押し売りしたりいきなり宗教のあり方みたいなのを説明し始めたりしないってことですかね?」
俺のいまいち納得しきれていない表情を見て察してくれたのか、無月が自然な口調で言葉を投げかけ確認する。
「そんな感じです」
「それぞれの家に教材を売りに行くことはありますけど道端にあった人にいきなり教材を押し売りしたりはしません」
そんなことは当たり前だろうと一瞬思ったが少し前に道端で宗教の教材を押し売りしていた騒動がニュースになっていたことを思い出す。
「その人はどんな人でしたか?」
「しっかりとその人と顔を合わせたことはないんです」
「ただ少し横に通った時見ただけで」
「ただ見た感じその人は優しそうな人でした」
「今もその人は宗教にいるんですか?」
「俺はもう宗教に所属していないのではっきりしたことは分かりませんがもしかしたらやめてしまっているかもしれません」
「いた時に聞いた話だとその人は体の調子が悪いみたいでしたから」
「なるほど教えてくださってありがとうございます」
店を出て家へ戻った。
俺は夜勇輝といつも通っている銭湯で待ち合わせをし2人で湯船に浸かる。
勇輝に前に見せてもらった宗教メンバーの4人のうち1人の写真を俺のスマホに送ってもらう。
「ありがとうこれで聞き込みをすることができる」
「でも本当にうまくいくのかその男から話を聞くことはできたとしても本当のところまで教えてくれるかどうかなんてわかんないぞ」
「もちろん本当のことなんて教えてくれないことはとっくに分かってるその会話の中からヒントさえ見つかればいい」
もちろん言葉の裏の意味をいくら紐解いて行ったところで事実にたどり着けるかなんてわからない。
それでもいい。
「何かの考えるきっかけさえつかめればひとまず十分だ」
「そうかせいぜい頑張れよ応援はする」
「俺は最近少し危ない橋を渡りすぎたから目立つ行動は控えないとさすがに上に目をつけられそうだ」
本人は会社の中で期待されていないから俺の行動なんて誰も気にしちゃいないと言うようなことを言っていたが、さすがに目をつけられてもおかしくはないだろう。
むしろ目をつけられるのが遅すぎたと言っていいぐらいだ。
「何の励ましにもならないかもしれないけど今まで集めてくれた情報を無駄にするつもりはない」
「だったらせいぜいお嬢ちゃんの心を軽くすることに専念してくれ」
この前この銭湯に来て話していた時は俺が無月の自殺をしたいという心を肯定することに悔しさと怒りの感情を抱いているようだったが、 どうやらその口ぶりから察するに肯定してくれるらしい。
無論思うところはあるだろうが。
「ああ、分かってる」
次の日。
俺はいつもより早い時間に起き横で寝ている無月を起こさないように気を配りながら
普段この部屋で下に降りることはないのでマットも何も引いておらずフローリングの部分に膝が擦れてすごく痛いが我慢する。
なんとかフローリングのゾーンを乗り越え玄関に置いてある車椅子に座る。
さっきフローリングで擦れた膝の部分はどうなっているんだろうと少しズボンをめくってみると想像していた通りそこから血が出ていた。
ズボンを元の位置まで戻し再び気配を殺して車椅子を操作し玄関を開け外に出る。
もちろんドアを閉めるのも最新の注意を払う。
1人でどこかに出かけるのは久しぶりだなあと思いながら目的の場所へと向かう。
前に行ったことがある宗教の建物だ。
その建物にたどり着き中に入る。
「すいませんこの人を探してるんですけどこの建物の中にいますか?」
受付の女の人にそう声をかけ自分のスマホの画面に昨日もらった男の写真を表示させ写真を見せる。
「おそらくこの方は今不在だと思います」
「今この人がどこにいるのかって詳しく分かりますか?」
「いつも通りならあの公園にいると思いますけど」
「あの公園っていうのはどこでしょうか?」
「ここから少し遠い場所にある公園なんですけど」
「ちょっとわからないので地図を書いてもらっていいですか?」
「分かりました」
短く言葉を返し横に置かれていた小さいメモ帳とペンを手に取る。
すると慣れた手付きで地図を書いてくれる。
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ありがとうございます」
書いてくれた地図の紙を受け取り一旦自分の家へ戻ることにした。
家にいるはずの俺がいなかったらびっくりして慌てるかもしれない。
でも無月なら意外と表情変えずいつも通りに家の中で過ごしていそうだ。
というかそっちの方がしっくりくる。
特にやましいことは何もしていないのでもしどこに行っていたのかと聞かれても問題はないがまだ実際にあってもいないし不確かな情報ではあるので余計な情報を与えたくないというのが本音だ。
俺は何食わぬ顔でそこにいたかのように家の中に入り元の場所に戻ろうと思っていたがそれは叶わなかった。
なぜなら家の扉を開けると玄関のところに無月が立っていたからだ。
「どこに行ってたの?」
特に怒っているような雰囲気はなくいつも通りの口調で尋ねてくる。
「ちょっと近くを散歩してました」
「本当は?」
「宗教の建物の方まで行って昨日男の人が話していた人がどこにいるのか聞いてきました」
「その話を聞きながら朝ご飯にするとしましょうか」
そう言ってキッチンの上に置かれている2つのお皿をテーブルの上に運んでくる。
お皿の上に乗せられていたのはハムと目玉焼きだ。
炊飯器の中からご飯をすくいお皿の半分ぐらいの量を入れてくれる。
「ありがとうございます」
ご飯も目玉焼きもとても暖かい。
どうやら今さっき作ってくれたばかりのようだ。
「いただきます」
「それで昨日教えてもらった男の人については何か分かったの?」
「いいえその男の人について何かわかったというより男の人が今いる場所を教えてもらいました」
「その人宗教の建物の中にはいなかったってこと?」
「ええ、まだ朝も早かったですし先走り過ぎましたね」
「おそらくその人がいるであろう場所の地図はもらったんですけど」
「まあとりあえず朝ごはんを食べ終わったら支度してその人がいる場所へ向かってみましょうか」
作ってもらった朝ご飯を食べ終わり支度をし外に出る。
「その書いてもらったっていう地図を見せてくれる?」
「これなんですけど俺も行ったことない場所なんですよね」
言いながら地図を手渡す。
「この場所私も行ったことない場所だから確認しながら行きましょうか」
紙に書いてもらった地図の情報を元にスマホの地図アプリでそれを検索し時々それを確認しながら目的の場所まで歩く。
しばらく歩いているといつもとは違う雰囲気の場所に出た。
「なんかここ俺が住んでる家の周りと違って静かですね」
「確かに見た感じあそこの辺の道と違ってここは道を通る人が少ないみたいね」
そんな話をしながら歩いていると目的の公園の前まで辿り着いた。
公園の中を覗いてみると子供が遊ぶ砂場の少し出っ張った部分に1人の男の人が座っている。
男の人は手に持っているパンを小さくちぎり鳩にそれをあげる。
男の人に近づく。
鳩が一斉に青い空に飛び立ったところで俺に顔を向ける。
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