第28話宗教設立

「初めまして名前は大裏真神と言います」


「あなたに少しお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


「私に答えられることであれば何でも聞いていただいて大丈夫です」


あの男の人が言っていた通り今まで話してきた宗教メンバーの人たちとは全く雰囲気が違う。


いい意味でどこにでもいる優しいおじさんと言った感じだ。


俺たち2人は話しやすいように男の横につく。


「それで私に聞きたいことというのはどのようなことなんでしょうか」


「少し変な聞き方になりますが天玄天応という団体に今も所属していますか?」


「はいその団体には今も所属していますが何か?」


「いいえ、前にその団体のことについて調べていたことがあったんですがホームページを見てもいつその団体が作られたのかのっていなくて」


「団体を作ったのはだいぶ前の話になりますね」


「建物自体を作って実際に動き始めたのはいつぐらいになりますか?」


「建物ができたのもだいぶ前でもう何度かリフォームを繰り返していて元の姿形は残っていません」


「意外とあの建物かなり古くからあったんですね」


「少なくともあの建物ができてから20年以上は経っています」


「失礼ながらこの程度の話の内容ならわざわざ私の方まで足を運んでいただかなくてもあの建物の中にいる誰かに話を聞けば答えてくれたと思いますよ」


「実は誰が宗教に所属している方なのかわからず受付の人にあなたを探していると言ったらここを教えてくれたんです」


実際はこの男に近づくための適当な理由づけだ。


「20年前からあの建物があるということは所属している方々もかなりいるということですか?」


「さあそれはどうなんでしょうねもっとたくさんの方が所属している団体は星の数ほどありますから特に多いとか少ないとかはっきりしたことは言えそうにないです」


ため息を漏らし手に持っていたパンを再び小さくちぎって適当に地面に放り投げる。


すると少しして遠くの方から餌目がけて鳩がかなりのスピードで飛んでくる。


「とは言っても私は今宗教の方にあまり顔を出していないので中がどうなっているのかなんって全くわからないんですけどね」


「最近はこの公園でぼーっとしながら近くのスーパーで適当に買ったパンをちょうどいいサイズにちぎってこうして鳩にあげるのが趣味なんです」


一度別の宗教メンバーに聞いた話ではあるがもう一度聞いてみることにした。


「父親と母親のことについてお聞きしたいんですけど」


無月を横目で捉えながら言う。


「申し訳ありませんが私は今回あなた方とお会いするのは初めてですのでどの方がお父さんとお母さんなのか分かりません」


「この2人です」


言ってスマホの画面にお父さんとお母さんが2人映っている写真をその人に見せる。


「その方々でしたらしっかりと毎日毎日祈りを捧げている方々でしたよ」


別の宗教メンバーに同じ質問をした時も似たようなことを言っていたのでおそらく事実と考えてよさそうだ。


「少し答えづらいことかもしれませんがどうしてあなたはその団体に入ろうと思ったんですか?」


「私はもともとお金がなくその日その日を生きるので精一杯で心に全く余裕がありませんでした」


「そんなある日1人の男の人と出会い」


「最初はその人と世間話をするだけでまさか自分が団体に入ることなんて全くその時は想像してませんでした」


「そんなある日私にその人がこう質問してきたんです」


「あなたが望んでいる暮らしを手に入れられるとしたらあなたはどんな暮らしを望みますかと」


「それから私は団体に入り気がつけば上の立場になっていました」


「そんな上の立場のあなたが今こんなところにいていいんですか?」


「今はただの休憩時間ですもう少ししたら戻りますよ」


「後1つ聞きたいことがあるんですが」


「何ですか?」


「あなたが所属している団体が非合法なことをやってたりはしませんよね」


人体実験のことには直接触れずカマをかける程度にとどめておく。 


もしそのことが本当に事実だとすれば絶対にバレてはいけない計画のはず。


俺たちがそのことについて完全にとは言えないまでも知っているとわかれば何らかの方法で口を封じてくるだろう。


殺されてもおかしくない。


「非合法というのは団体の中に犯罪者が紛れ込んでいるんじゃないかということですか?」


「確かにネットに上がっているホームページの内容にはどんな経歴の方々も受け入れると書いてありますが今のところ窃盗や体罰をして社会復帰が難しくなった人たちがほとんどで人の命を奪った経歴を持つ人はいません」


「いいえそういうのではなくてその宗教の中で何やら危ない研究をしていたりとか」


この聞き方は確信に迫りすぎているかとも思ったが本当の聞きたい部分は口にしていないので言い訳する時の方向転換はいつでもできる。


それに相手も本当に宗教のトップでその情報を知っているんだとしたらそんな簡単に口を割るわけがない。


俺がその言葉を投げかけると一瞬上に目を向けどういう言い訳をしようか考えているようだった。


すぐにその目線は元の位置へと戻ってくる。


「私が知る限りそんな実験をしているという話は聞いたことがありませんね」


「団体と全く関係のない誰かがネットに書き込みをしてそういう噂が広まっていったのではないでしょうか」


やっぱりそんな簡単に口を割るわけがないか。


元々ダメもとで聞いてみた話だったので予想通りだ。


「そう言われてみればそうですね団体のホームページを見ていた時にたまたまSNSを開いたらそういう情報が流れてきたので少し気になって」


「すいませんいきなり変なことを言ってしまって」


「いいえ構いませんよ、それでは私はもうそろそろ休憩を終えて向こうの方に戻らなければいけないので」


「色々と教えてくださりありがとうございました」


「いつかまた何らかの形でお会いすることがありましたらよろしくお願いします」


男は丁寧にそう言った後公園から出て行く。


俺は特に何の意味もなくその男が公園から出て行く後ろ姿を見ていた


「さて私たちはどうする?」


「たった今話してくれたことをまとめながら帰る?」


「いつまでも公園にいるわけにも行きませんしそうしましょうか」


俺たちもその公園を出た。



「とは言っても集まった情報って言えばあの宗教の建物ができて20年近く経ってるっていう事だけだけど」


「後建物が何度かリフォームされているということ」


付け加えるように言う。


「でもそんなことが分かったところで何も手がかりをつかめたことには」


「そうでもありません」


「もし本当にあの人が言っていることが正しいとすれば新聞に載っていた爆発事故が起こったのは今から30年前」


「つまり?」


「つまり30年前の爆発事故が起こった時にその中国の宗教とお父さんとお母さんが所属していた宗教が同時に存在していたのではなく」


「2人が所属していた宗教は後からできた」


「あなたはこう言いたいの、その時の中国の宗教の団体のトップ何人かが今の宗教を立ち上げたと」


特に驚くでもなくいつも通りの口調で言う。


「ええ推測が正しければそういうことになりますね」


力強く言葉にうなずく。


「あくまでも今まで手に入れた情報を時系列順に考えた場合の話ですけど」


「でもそうね爆発事故を起こして中国でその宗教を続けられなくなったから日本にその宗教の代わりの建物を作ったって考えれば」


無月は納得したような言葉を口にする。


「今の話から考えると宗教のトップの人たちは中国人ってことなんですかね?」


となれば色々と調べるのが大変そうだ。


「その宗教に途中から入ってきた日本人がトップになってる可能性もあると思うけど」

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