第19話家に隠された秘密
「話が進みすぎたみたいだから一度話を戻すが、もしこの宗教が別の宗教だったとしても何らかの繋がりがあると見て間違いはないだろう」
「それでお嬢ちゃん」
「はい」
「何か他にこれからまた情報を探っていく上で手がかりになるような情報とかってないか?」
「手がかりになるような情報ですか?」
無月は顎に手を当て少しばかり考えるような仕草をする。
「どんなに細かいことでもいいんだこんなものが好きだったとかこういうことをよくしてたとかそういう些細なことで」
「そう言われても物心ついた時には両親2人あの神様に一心不乱にただただ祈りを捧げてるだけでしたから」
「まともに会話したことなんてありませんよ」
「それこそ両親が何を好きだったのかすら分かりませんでしたから」
「比喩でもなんでもなく一言も会話を交わすことなく1日を終えることが私のその時の日常でした」
「あの2人が本物の置物なんじゃないかと錯覚するぐらいピクリとも動かない日は珍しくありませんでした」
淡々と語るその口調からは一切何も感じない。
感情の浮き沈みも怒りも悲しみも何も感じない。
「悪かったなお嬢ちゃん聞かなくていいことまで聞いちまった」
勇輝もある程度覚悟はしていたんだと思うが淡々と語るその表情を見ていたたまれなくなったのか目をそらす。
その表情はどこか自分に対して怒りをぶつけている表情にも見えた。
勇輝の性格から考えてなんて残酷なことを訪ねてしまったんだろうと悔いているのかもしれない。
何でこんな簡単なことにも気づけなかったんだろうと怒りを覚えているのかもしれない。
「宗教の方に乗り込んで色々と調べようともしてたんだがそれはもうちょっと十分な情報が集まってから行動に起こすことにする」
「ああ、そっちの方がいいだろうな下手に覚悟を決めずに乗り込んで悲惨な目に遭う可能性だってある」
「とりあえず俺は引き続き中国の宗教の団体と関わりがあったのか、それとも宗教の中にその時の事件の実行犯がいるのかどうにか頑張って探ってみる」
「後お嬢ちゃんお父さんの方が先に宗教にはまっててどっぷり使ってたっていう認識でいいのか?」
「いいえ後から入ったお母さんの方がどっぷりとその宗教にはまってお父さんもそれに釣られるようにはまっていきました」
「でもなんで今更そんなことを?」
「いや特に意味がある上での質問ってわけじゃなかったんだが単純に個人的に気になってな」
「じゃあ大体お嬢ちゃんが小学校ぐらいまではお父さんが宗教にはまっててそのうちにお母さんもつられてはまったっていう感じか」
確認するような口調で言う。
「ええ、大体そんな感じです」
俺は無月がそう言葉を返す前わずかに体を震わせたような気がした。
「それじゃあ俺はそろそろ行かないと本当に怒られそうだから行く」
「分かった」
「色々とありがとう」
「さっきも言ったろ俺にできるのはこのぐらいだって」
言って家を出た。
その日の夕方頃俺はいつも通り勇輝と待ち合わせをしている銭湯に向かう。
「あの後どうなったんだ?」
「怒られるようなことはなかった2時間だけ有給使ってたからな」
「そうか…」
「なんで少し残念そうなんだよ」
「別にそういうわけじゃないんだが少し勇輝が怒られることを期待してただけだ」
「やっぱり残念に思ってんじゃねぇか!」
「まぁ…でも怒られるようなことはなかったが周りからの視線が痛かったな」
「悪口を呟かれたりしたか?」
「いやただの無言の圧力をかけられただけだ」
そんな話をしながら銭湯の中へと入る。
「はぁー」
勇輝は肩までしっかりと湯船につかりしみじみと一息つく。
「真神はこのままでいいのか?」
少し間をあけいつもと変わらない口調で訪ねてくる。
「何がだ?」
「あのお嬢ちゃん両親2人がどうして宗教にはまったのか理由がわかったら自殺をしようとしてるんだろう」
「それでいいのか?」
「助けて欲しいって言われてるんだったら俺もその相手が生きる方法を模索するけど本人がこの世界で生きることを望んでいないんだったら…」
「死を望んでるんだったら俺はそれを否定するつもりはない」
「でもそれってそんなのって許されるのかまだ大人にもなってない1人の女の子の自殺を許すなんて!」
「許す許されない善か悪かの話じゃないんだよこの話は」
そうこの話はもっと単純で本人がそれを望むか望まないかの違いだけだ。
「俺がもし同じ立場だったら同じ選択をするかもしれないしそれはその経験をした人間にしかわからない」
俺は何の感情も込めずにただ言葉を口にする。
「命を絶つって言うのはその人の未来が失われるって事じゃないのか?」
「全くもってその通りだでもな…現実はそんな単純な話じゃないんだ」
「今ある現実を受け入れたくないなら今ある現実を変えたいなら少なからず自分で動くしかない」
「でもその自分で動く気力すら希望すらもう持ってない状態だったらどうする」
「1人の女の子が望んでいるのがお金でも権力でも力でも人脈でもなくただの日常を欲しているんだとしたらどうする」
「普通の人にとっての日常がその子にとっての非日常で」
「一般的には非日常と言われている側の生活に慣れてしまった女の子が平和な日常を望むかもしれないが果たして行動に起こせると思うか?」
「その子にとっての現状を変える行動をしようとした瞬間にお父さんお母さんからひどい虐待をされるとしたら簡単に動けると思うか?」
「助けないための言い訳だと思ってもらっても構わないただ無月さんの気持ちを軽くしたいと思ってるのは本当だ」
次の日。
「今日無月さんのお父さんとお母さんと一緒に暮らしてた家に連れて行ってもらえませんか!」
本人が嫌がると思ってこの話はなるべく今までしないように避けていた話なのだが大きな一歩を踏み出すためにはそこに行かずにはいられないだろう。
間を開け言葉が帰ってきた。
「あそこから引っ越ししてなければ私が高2の時までいた家にいるはずだけど」
「ただ本人と直接話せる精神状態かどうかは分からない」
「分かりました行きましょう」
「前に住んでた場所までの行き方って覚えてます?」
「ええすぐ近くの横浜だからすぐ着くはず」
それから俺たちは横浜行きの切符を買い電車に乗り横浜に向かった。
「あそこが私が前まで住んでた家」
そう言って指さした家を見て俺は少し驚いた。
頭の中で想像していたよりも立派な一軒家だったからだ。
俺は勝手に宗教にはまっていたという話を聞いた時から古い家に住んでいたんだとばかり思っていたが実際そんなことはなかった。
「ここから少し離れたところに家の物置があるからそっちの方に行ってみましょうか、過去の出来事につながるヒントがあるとすればおそらくあそこだから」
過去に繋がるヒント両親2人がどうして宗教にはまってしまったのかわかるものが何か眠っているかもしれない。
ついていくと少し歩いたところにこれまた想像していたよりも大きな物置があった。
「物置まで来たのはいいですけど鍵とかはどうするんですか?」
俺のその言葉など一切無視しその物置の扉に手をかける。
「鍵が開いてる!」
慎重にその扉を開ける。
するとそこにはいらなくなったものが色々と詰め込まれている。
俺は無月の後について中に入る。
あたりを見回してみると小さい子が遊ぶようなおもちゃや日用品が置かれている。
無月が小さい頃に使っていたものでもう使わなくなったからここにしまってあるのか。
右側に積み上げられていた段ボールに足をぶつけてしまいそのぶつかった衝撃でダンボールの上に置かれていた何かが落ちてくる。
無月は地面に落ちた1つのノートを手に取る。
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