第18話謎に包まれた事件
勇輝が手に持っている新聞の写真を見て俺は驚きの声をあげる。
写真に写っていたのが天玄天応の宗教が進行の対象としている神様と見た目が似ていたからだ。
色や模様はところどころ違うものの形はほぼ一緒だ。
「とりあえず上がらせてもらうぞ」
言う通り家の中に上がりテーブルの上に手に持っていた新聞を置く。
「でもどうしたんだその新聞?」
スーパーの出入口のところに新聞紙は置いているかもしれないが見るからに古い新聞はさすがに置いてないだろう。
「図書館で借りてきた」
「でもさっきパソコンで調べてたって言ってたよなだったらわざわざ図書館で借りてくる必要なんかないんじゃないか?」
今の時代ネットで検索すれば大抵の情報は出てくるまさかパソコンで出てた情報がスマホだけ出てこないなんてことないだろうし。
「俺も最初そう思ってメッセージでそのサイトのリンクを貼って送ろうかとも思ったんだが」
「どうも他のサイトも色々見て確認してみたらどれが本当の話なのかわかんなかったから今回こうして図書館の新聞を頼ったってわけだ」
色々な情報が転がっているという面ではネットはすぐ調べられるという利点があるが、その反面嘘の情報も溢れかえっている。
そういう意味では新聞の方がいいのかもしれない。
無論新聞は本当のことしか書いていないなんて言うつもりはない。
新聞だって事件を誇張し読んでいる相手の目を引き付ける手法をいくつも取り入れている。
「それで、神様のデザインが似てるからっていう理由だけで知らせに来たわけじゃないんだろう」
「ああ、それだけじゃない」
「これを見てくれ!」
新聞に載っているさっきとは違う写真を指さす。
そこに写っている写真は1つの何かの建物が燃えて煙を上げている写真だ。
「この爆発した建物がどうかしたのか?」
「この爆発した建物元々は宗教の建物だったらしいんだ」
「もしかして!」
「ああ、俺もまさかとは思ったがこの建物が前の天玄天応の建物だったっていう可能性は十分あり得る」
「じゃあこの新聞に載ってる30年前の爆発事故は人体実験をしている最中に何らかの形で起こった爆発ってことなのかしら?」
俺の横で黙って話を聞いていた無月が呟く。
「この30年前の事件についてはまだ俺も詳しく知らないからはっきりしたことは言えないがおそらくその可能性も十分ある」
まだあの宗教が人体実験をしているかどうか確認できていないのにも関わらずその情報に真実味が増したような気がする。
「もし何らかの人体実験を30年前からずっとしていたんだとしたら30年後の今もその実験を続けてるって事になる」
「何の人体実験をしてるんだ30年なんて長い年月をかけてまで達成したい人体実験って何なんだ」
「昨日話した男が持ってたノートとかを売って今まで人体実験の経費に当ててたってことか」
「誰が何のために作ったかわからないノートなんて誰か買うやついるのか?」
「研究をするにしたってそれなりのまとまったお金が必要だろうしそんなノートを買ってくれるような客がそう簡単にたくさん見つかるとも思えないんだが」
「運が良くてもせいぜい家に入れてくれたりとかだろう」
「別に1人1つまでって決まりがない限り1人のお客さんに同じノートを何冊か買わせるっていう方法もある」
俺は勇輝の疑問に言葉を返す。
「1人の客に頼ってノルマの金額を達成するにしてもさすがに限界があるだろう」
「それはそうだと言いたいところだが宗教メンバーに借金をさせてまで宗教に収めるお金を作らせようとした団体だ」
「ひょっとしたらそのノートを売り込みに行ってるお客さんに無理やり何らかの理由で言いくるめて借金をさせてそれを無理やり買わせるっていう手段を取っていないとも限らない」
「現実的にやろうとするとかなりの労力が必要になってくるけど」
付け加えるように言う。
「前に話を聞いた男の人みたいに借金で元々首が回らなくなってる人につけ込んでその借金を肩代わりして宗教に入らせる方法もあるんじゃない?」
「確かに弱みにつけ込んで洗脳をかけているのが1人や2人とは限らないか」
「でもそんなに借金を抱えてる人間を見つけて都合よく宗教に引き込むことなんてできるのか?」
「勇輝は仕事を始める時いつも何から始めてる?」
「何で急に俺の仕事の話なんだ?」
そう言いながらもその言葉に答えてくれた。
「うーん…そうだないつもは自分の席にあるパソコンを立ち上げて」
「記事にできそうな重要なキーワードを集めた情報から抜き取ってそれを組み上げていくって感じだな」
「それと同じように借金をしてる人たちのルーティーンがあるんだとしたら…」
「どういう意味だ?」
「例えば1人の男の人が会社に行く前に少し早めに家を出てどこかのカフェ、公園漫画喫茶でくつろぐのが習慣になってる場合その人をターゲットにして宗教に引き込むことは比較的簡単だ」
「その男の人が借金をしていればなおさら」
「話しかけてきた人がいくら怪しく見えてもお金を肩代わりしてくれるなんて都合のいい話を信じられなくても…」
「高額な借金を全てチャラにしてくれるんだったら騙されてもいいって思ってもおかしくないんじゃないか?」
「ちょっと待ってくれ、真神が言ってるやり方だったら確かに普通に声をかけるよりは宗教に入会させる確率は上がるかもしれない」
「けど必ずしもその借金をしてる人がその漫画喫茶に来るとは限らないだろう」
「まあ漫画喫茶はお金もかかるし借金をしてる人間が行くには精神的なハードルもお金の面でのハードルも両方高いだろう」
「だがこれが公園だったら?」
「公園だったら漫画喫茶みたいにお金を払う必要もないから少し休憩をするにはぴったりの場所だ」
「しかも自分が働いている仕事場がすぐ真横にあればなおさら」
「真横にある会社で働いてる人たちが不平不満を漏らした後にその会社にいつも向かっているところを宗教メンバーの誰かが目撃した」
「確かにそれだったら普通に集客をするよりは確率は上がるでしょうね」
さらにいつも働いてる会社がブラック企業で給料がまともに払われていなかった場合会社で働いて社員が借金をしてる確率も大幅に上がる」
「実際に宗教がこのやり方を取り入れてるかは分からないけど少なくとも似たような手法を取り入れてる可能性は大いにある」
「でもそんなに条件が揃った場所なんてそんなにいっぱいあるもんでもないんじゃないか?」
「この場所から少し離れたところにそんなに多くはないけど条件に当てはまる場所が数カ所あったはず」
「何かのヒントになるかと思ってこうして口に出して説明したはいいけど結局両親2人がどうして宗教にはまったのかこれじゃわかんないんだよな」
一通り話が落ち着いたところで短足する。
「ただ勇輝が調べてくれたおかげで何もわからなかったところからだいぶ前進できたよありがとう」
「俺ができることって言ったらこのぐらいだからな」
「まぁまた必要になったら電話でも何でもいいから呼んでくれ」
「そう言ってくれると助かる」
俺がやるのは無月の心をなるべく軽くさせた上で安らかに自殺をさせてあげることだ。
安らかに自殺をさせるという言葉は違和感があるが適切な表現ではあるだろう。
ふとよれたスーツを着た元宗教のトップだった男の顔が頭によぎる。
そういえばあの男の会社は少なくとも電車に乗って移動しなければいけない距離なので宗教の近くにはない。
それは今の話で宗教に入団させられる前の住んでいた場所はどこだったんだ?
もしあの男が住んでいた場所が前まで宗教の建物の近くだったんだとしたらその例に漏れずターゲットにされていたことになる。
とにかく俺が今行った手口で勧誘されているのでその可能性が高い。
前はどこに住んでいたのかという情報は手に入れられてないので、これは単なる俺の憶測でしかないが。
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