第13話目をそらす場所

「何ですか?」


「これから私と一緒についてきてくれない?」


「別にそれは構いませんけどどこに行くんですか?」


俺のその言葉には何も返さず玄関のところに置いてある自分の靴を履く。


「どこに向かってるんですか?」


玄関を出てしばらく車椅子を漕いだところでさっきと似たような質問を再びする。


「特に決まってない」


特に行く場所が決まっていないのであればもうこれ以上同じ質問をしても無駄かと思いとりあえずただ黙って後ろをついていく。


「この前まで桜が咲いてると思ったらもうすぐ秋が来るのね」


歩くスピードは一定に保ったまま横に顔を向け少し儚げな目で横にある木を見る。


しばらく目的もなく歩いていると無月が進めていた足を止める。


横にある公園の方にゆっくりと体を向け公園の中に入る。



「珍しいですね何と言うかこうして外に出るの」


まだ1ヶ月も一緒にいないのに珍しいも何もないと思うが。


「なんというか俺の中で外に出歩いて遊んでるイメージがなかったんで少し意外です」


「特に理由があったわけじゃないけどあえて理由をあげるとするなら最近色々なことが忙しかったから気分転換にと思って」


確かに最近は宗教の情報を探るために色々なことをしてたからな。


って言っても昨日一緒にショッピングに行ったばっかりか。


「ありがとうございます」


軽く頭を下げお礼を言っておく。


「別にあなたのためじゃない」


「自分のため…」


この公園は他の公園と比べると随分と新しく綺麗に掃除されている。


「俺公園に来たの小学校以来ですよ」


「私も小さい時にしか公園には来てない」


少し奥の方にはジョギングコースがあり60代後半ぐらいの腰が曲がったおじいちゃんがゆっくりと歩きながらそのランニングコースを杖をつきながら一歩一歩進んでいる。


少し離れた後ろの方には50代後半ぐらいのサンバイザーをつけた女の人が一定の店舗で歩いている。


「公園に来たのはいいんですけど何をすればいいんですかね?」


「そうねとりあえずぶらぶら見て回りましょうか」


俺は花のことをよく知らないのでわからないが公園の横の方にある花壇には様々な種類の色の花が植えられていた。


「花好きなの?」


特に何も考えず横の花壇に植えられた花を見ていると無月が尋ねてくる。


「いや別にそういうわけじゃないんですけどただ綺麗だなって思って」


「花言葉って残酷よね」


花壇の前で一度足を止め少ししゃがんだ体勢でそんなことを言う。


「残酷?」


「だって幸せを象徴する四つ葉のクローバーですら永遠の愛っていう花言葉の他に裏切りって意味があるんだから」


「まあ花言葉なんて大体そんなもんじゃないですか」


そんな他愛のない話をしながら歩いていると目の前に薄暗く先が見えない見た目だけで言うと森のような感じの道があった。


無月は何も特にためらうことなくその森のような道の先へ進む。


「私ってちっちゃい時に両親と遊んだ記憶がないの」


唐突に言いながら横の方に顔を向ける。


俺も同じ視線の先へと顔を向ける。


周りの木で少し見えにくかったが無月のその視線の先には20代後半くらいの男と小さな男の子がキャッチボールをしている光景を目で捉える。


「楽しそうね」


どこか寂しそうな遠い目でその光景をしばらく見た後再び前へと足を進める。


「でもさっき公園に小さい頃来たことがあるって」


「それは家族でとかじゃなくただ1人でこの公園に来てただけよ」


「特に何か遊ぶわけでもなくいつも公園のブランコの上に座って時間が過ぎるのを待ってた」


「少しでもあの家にいる時間を短くしたかったから」


「幸い私がその通うように言ってた公園はもともとあまり人が来なかったからブランコは毎回開いてた」


「その公園には気がつけば毎回のように通ってた逃げるように…」


顔を曇らせてうつむきどこか振り絞るような声でつぶやくように言う。


「俺は逃げてもいいと思いますけどね」


「人間も動物もこいつは危ない、こいつとは関わりたくないって言うことを無意識的に判断できる直感力っていう機能がついてるんですよ」


「防衛本能と言った方が分かりやすいですかね」


「動物の弱肉強食の世界でもその能力は大事ですけど」


「人間の場合は少し違う」


「人間はより多くの感情を抱く」


「動物の感情よりも複雑で何回な感情を」


「どんなに嫌いな人でも同じ職場だったら少なからず関係を持たなきゃいけないでしょう」


「私が早く結論を出さなければこの会議は永遠に終わらないかもしれない」


「そうしているうちに自動的に周りに合わせることを覚え自分の感情を失っていく覆い隠していく」


「最終的にはその感情に気づかないように最初からなかったかのように目をつぶって無視をする」


「そういう意味では前にしたカメレオンの話と同じですね」


「周りの人状況に合わせ適用するように色を変えていく」


「私まだ18年しか人生を生きたことがないからわかんないけど気を使いながらの周りの賛同は必要でしょう」


「ええもちろんそれはそうですなのでそれを肯定するつもりも否定するつもりもそもそもありません」


「必要最低限人間関係の気配りが必要だからこそ危ないと思ったらすぐに逃げるっていう防衛本能に従う必要があるんです」


「まあ人生逃げてばっかりの俺に言われても説得力は全くないと思いますけど」


自分で言っておきながら苦笑してしまう。


「最近流行りの働き方改革ってやつね」


「いいえそんなのは関係ありません」


「何かどうしようもなく辛いことがあったら逃げるそれは人間の生まれ持った本能なんです」


「って言っておきながら俺はそれが全くできてなくて性格がひねくれてどうしようもなくなっちゃったんですけどね」



苦笑する。


そんな話をしながらある程度公演を散歩したところで家へ帰る。



「コーヒー入れてもいいかしら?」


「別に構いませんけど家にコーヒーなんてありましたっけ?」


「棚の中にある食器に隠れてたいくつかのインスタントコーヒーが見つかったの」


「別に飲むのは構わないんですけどそれ賞味期限とか大丈夫ですか?」


そんなに買ったのは前じゃないような気がするので大丈夫だとは思うが。


「賞味期限は特に問題なさそうだけど」


「あなたも飲む?」


「それじゃあ一杯もらえますか?」


そう言うと無月はキッチンの上に置いてあるポットにお湯を沸かしそれぞれインスタントコーヒーの粉が入った2つのコップにお湯を注いでいく。


テーブルに運ばれてきた そのコーヒーが入ったコップを手に取る。


コーヒーを一口飲んだところで無月が思い出したような口調でこんな疑問を投げかけてくる。


「そういえばずっと気になってたんだけどあなた何か飲み物を飲む時若干小指が伸びてるけど何か意味あるの?」


「ああ、これですかこれはただの生まれつきの障害の一つですよ」


少し間を開け話を変えるようにこう言った。


「無月さんはあの宗教のことについてどう思います?」


「宗教のことについてって何のこと?」


「前にあの男の人と話した時に言ってた死んでいるみたいだったっていう」


「前話した時と似たような答えになっちゃうけど私もあなたもあの中で実際どういう宗教的なことをやってるのかもわかんないから何とも言えない」


「ただ一つ私が言えるとしたらその運ばれていた人が死んでても死んでなくても何かやばいことをしてるっていう可能性はありそうね」


「その運ばれていた男の人が寝ていてそれがその宗教の方針に何か関係があるって言う可能性もなくはないけど」


「それだったらわざわざ数人で運ぶ必要もないと思うし」


「じゃあわざわざ数人で運んでたのはなるべく他の誰かに見られないようにするため」


「どうなんでしょうねわざわざ1人の人間を数人で運んでたらそっちの方が目立つ気もするけど」


「ずっと気になってたことがあるんですけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る