第7話 ハーピーが冒険者希望だと?






 一匹のハーピーが俺達に向かって、空から突っ込んで来る。

 

 ハーピーとは人間と鳥の身体を持つ、半人半鳥の魔物だ。


 俺達の真上まで来ると、再び乱闘が始まった。

 どうやら一匹のハーピーを寄ってたかっていじめているように見える。

 しかしいじめられているハーピー、全ての攻撃を完全にかわしている。

 複数相手に全ての攻撃をかわすとか、意外と凄いな。

 だが、防御ばかりで攻撃に手がまわらないようだ。

 

 だけど何で俺達の頭上でやるかなー。


 見ているとちょっと可愛そうになる。

 なんてたって、ハーピーの半分は人間の女性だ。

 半分が人間の男性の俺としては、助けたくもなる。


「おお~い、そろそろ勘弁してやったらどうだ~?」


 俺が空に向かって叫ぶと、どうやら聞こえたらしい。


 いじめていた側のハーピー達四人が、突如急降下。

 標的は間違いなく俺とダイだ。

 とんだとばっちりとしか言いようが無い。


 襲ってきたハーピーの数は全部で四人。

 脅威となるのはその鋭い爪。


 こういう時にあると便利なのが盾なんだが、俺はそんな物持ってない。

 持っているのは柄の部分を新調したばかりのこの槍だ。


 丁度、使い心地を試したかった所だ。

 槍を空に向かって構える。


 ダイを横目で見ると、あくびをしてやがる。

 その余裕はどこからくるのだか。


 俺が槍を構えたのを確認したからか、ハーピー四人共が標的をダイに変えやがった。


「ダイ、気を付けろ。そっちへ行くぞ!」


 ダイは俺の忠告など何のその、再び大あくび。


 そこへハーピー達が鋭い爪で襲い掛かる。


 ダイが眠そうな目のまま姿勢を沈ませる。


 そして一気に後ろ脚で地面を蹴った。


 着地は近くにあった木、いや違う。

 その木は単なる足場で、再びその木を蹴る。


 そしてさらに近くの木を蹴って、高さをぐんぐん上げて行く。


 あっという間に、四人のハーピーよりも高い位置に着くダイ。


 慌てるハーピー達が自分達よりも上空のダイを見上げた時、落下するダイが前足を振るった様に見えた。


 次の瞬間、ハーピーの中の一人が錐揉きりもみして落下して行く。

 ダイが前足で殴ったようだ。


 そして残りのハーピー達の間を通り抜ける様にして、ダイはそのまま落下して行く。

 そこへ怒った一人のハーピーが「キィー」と叫び声を上げながら、ダイへと急降下して接近する。


 だがダイは待ってましたとばかりに、逆にハーピーの首に食らい付いた。

 

 ダイは首に食らい付いたまま、ハーピーと一緒に落下していく。

 ハーピーは必死にもがく。


 そして地面に激突する寸前にダイはハーピーから離れ、近くの木の枝に着地した。


 そのハーピーも辛うじて木の枝にぶつかって、衝撃を和らげたようだ。

 地面に激突はしたが、まだ息はあるな。


 ダイの見事な戦闘シーンに、俺は思わず拍手してしまった。

 するとダイ。


『ハーピー程度ならこんなものよ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ』


 またもキショい笑いを伝えてくるし。


 結局ハーピー共は敵わないとみて逃げて行った。

 地面に激突した一匹も、仲間に運ばれて去って行く。

 そしていじめられていたハーピーだけがこの場に残った。


 そのハーピーが地上に降りると、恐る恐るこちらに近づいて来る。


 見れば普通のハーピーと違う。

 普通のハーピーには無いはずの手があるのだ。

 普通ハーピーは下半身が鳥、両手が翼の半鳥半人で人間の様な手はないはず。

 だが、こいつには人間と同じ両腕がある。

 いじめられていたのは、その手のせいなのかもな。

 人間の間では、こういった魔物を“特殊個体”と言っている。


 そのハーピーは、礼でも言おうとしてるのか。

 何か言いたげだ。

 それならばと、俺の方から先に声を掛けた。


「俺達に何か用か?」


 少し怯えた様子ではあるが、そのハーピーはしっかりとした言葉で返答してきた。


「私を助けてくださいましたわ。そのお礼を言いたいんですの……それとあなた、人間じゃないですわね?」


 こいつ俺が人間じゃないって見抜いたのか?

 人間の姿の俺に話し掛けてきたんだ、そういうことなんだろう。

 それに言葉が喋れるってのも驚きだ。


「貴様、どうやってそれを見抜いた?」


「え、だって突然無かった尻尾が生えてきたのが見えたですわ」


 し、しまった。

 興奮して尻尾だけ出ちまってたか!

 気が付かなかった、気を付けないと。


「そ、そうか。中々良い目をしてるな。と、ところでだな、どこで言葉を覚えたんだ」


「この辺りのハーピーは皆、言葉を使いますわ」


「そういうことか、話が通じるのは都合が良い。聞きたいことがある。この辺りに人間の山賊を見てないか」


 するとハーピー。


「山賊ですの、何回か見たことはあるのですわ。でも、そいつらの巣は知らないですわね。あ、でもこの先の川の近くで良く見かけるのですわ」


 まあ少しはプラス情報になったな。


「それじゃあな、二度といじめられない様に気を付けろよ」


 そう言って去ろうとすると、まだ会話を続けてきた。


「あ、もし良かったらお礼の事もありますので手伝いますわよ。上空から探せば、早く見つけられますわよ」


 悪くない提案だな。

 ダイにも聞いてみる。


「ダイはどう思う?」


『ライの好きにしろ。怪しい行動をすれば瞬殺するまでだ』


 こうして俺達は、ハーピーと一緒に行動することになった。


 話を聞くとこのハーピー、群れから追い出されたらしい。

 その追い出された理由が、翼以外に両手があるから。

 まるで天使だと気味悪がれていたらしい。

 確かに魔物から見たら天使は嫌だろうな。


 それで小さい頃からいじめにあっていたみたいで、成人になったところで追い出されたんだと。

 ちょっと可哀そうな奴かもしれないな。


 早い話、こいつは行き場がない。

 それで着いて来たんじゃないだろうか。

 まあ、どうでも良いことだが。


 名前はあるはずのない腕を卑下する呼び名しかないというから、取り敢えず『ハピ』と呼ぶことにした。


 ハピが俺の冒険者章を見て、不思議そうにしている。


「なんだ、ハピ、これが気になるのか」


 俺がそう言うと、ハピは首をコクコク縦に振る。

 そこで人間の社会に溶け込んで生活していると教える。


 すると目を輝かせるハピ。


「それじゃあ、ライさんは冒険者をやってるのですわね!」


「ああ、人間の社会で生きていくには、金を稼がないといけないからな。ほらダイを見てみろ、こいつも冒険者だ」


 正確にいえば冒険者じゃあなくて、冒険者の獣魔だけどな。

 ダイの首輪には獣魔の札がぶら下がっている。


 それを聞いた途端、ハピが俺の前で片膝を着いて頭を下げた。

 

「ライさん、是非にも私を冒険者にしてくださいですわ」


 はあ?

 そもそも人間界にハーピーの獣魔なんかいるのか?

 いや、知能のあるダイアウルフが獣魔と認められたんだ、ハーピーがいてもおかしくないか?


 ハピは行く当てがないのと、高度な文明の人間社会に憧れているらしい。

 高度な文明ねえ……

 それに狩られる側はもう嫌だと、狩る側になりたいという。

 う~ん、どうしたものか。


「ダイ、どう思う?」


 ダイに振ると即答だった。


『ライの好きにすれば良いだろ』


 一番困る返答じゃねえか!

 

 まあちょうどパーティーを組みたいと思ってたから、都合が良いと言えばそうなのだが。


 手続きはエルドラの街へ戻ってからだな。

 まずは山賊を討伐して金を稼がないと先へ進めない。


 武器を修理するにも、宿に泊まるのにも金が掛かる。

 しかし金さえあれば、魔物でも人間社会で上手く生きていけるはず。


 その為には山賊ども、探し出してやるから待ってろよ!












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