第6話 桃色の月の冒険者






 ゴブリン討伐で小銀貨三枚を貰い、そのまま一晩中開いている宿へと向かった。

 冒険者割引で泊まれるその宿は、大広間なら小銀貨二枚で泊まれるのだ。

 獣舎も完備されていた、そっちは小銀貨一枚。

 合計で小銀貨三枚と、今日の収入が消えた。

 

 



 翌日、宿を出て武器屋へと向かう。

 昨日のダークオークの戦利品を売って金にするためだ。


 武器屋へ行ってまずは反身の片刃剣とナイフを査定してもらう。

 結果、全部で銀貨五枚と思ったよりも良い金になった。

 金属武器はそこそこの値段が付くそうだ。


 それで槍を買おうかと値段を見ると、銀貨五枚じゃとても買えない。

 槍は金属部分が少ないから安い部類らしいが、それでも銀貨十枚くらいはする。

 しょうがないので柄の部分だけ、それも中古で買う事にする。

 それでも銀貨三枚した。

 あとはダイの首輪だな。

 

 今度は防具屋へと向かい、ダイが欲しがっていた首輪を小銀貨五枚で購入。

 しかし革製の首輪が小銀貨五枚って、ちょっと高いだろ?


 これで残った金と、元々持っていた金を合わせると銀貨で二枚分程しかない。


 食事と宿代を考えると、もっと稼がないといけないな。


 冒険者ギルドの依頼掲示板で金になりそうなものを探すか。



 

 

 冒険者ギルドへと入ると夜とは違い、かなり込み合っている。

 この人込みはどうも好きになれない。

 ダイは特に嫌そうで、外で待っていると言う。

 ダイは早々に、外の陽当たりの良い場所を見つけて寝転んだ。

 すると若い獣人女性が集まって来て、キャッキャッ言いながらダイをモフモフしている。


 なるほどね、そういうことか。

 

 俺は舌打ちをしながら奥へと入って行く。


 やはり、いつもの受付のお姉さんの窓口が一番混んでいる。


 まずは依頼掲示板を見てみるが、やはり鉄等級冒険者が受けられる依頼は大したものがない。

 

 そこでふと別の掲示板に目がいった。


 お尋ね者の掲示板だ。

 討伐依頼と何が違うのだろうか。

 

 近くにいた冒険者に聞いてみると「知能のあるなしで区分けされているんだろ」と言われた。

 そうなると、どの程度の知能で線引きされるんだろうか気になってくる。

 また他の冒険者に聞くと「そんなもんな、ぶっ殺しちまえばいっしょだよ」と。


 確かにそうだな。

 冒険者らしい答えじゃないか。

 金さえ貰えれば一緒だ。

 納得!


 そう思って掲示板を眺めていると、盗賊のお尋ね者の似顔絵が書かれていた。

 名前は「グイド」で賞金は金貨五枚とある。

 レッドキャップという山賊団のリーダーらしい。

 さらに討伐依頼に「レッドキャップ山賊団」とある。 

 山賊一人に付き銀貨二枚とある。


 おおい!

 お尋ね者と討伐依頼の違いはどこいった!

 どっちも同じグループの人間だぞ。


 まあ良い。

 ぶっ殺せば一緒だったな。


 俺はギルドから出てダイを探すと、なんか腹を見せるように寝転がっている。

 その直ぐ側には獣人の少女が座っていた。

 今はその子だけのようだ。


「ダイ、何してんだ?」


「クウ~~ン」


 これは狼系獣人の女の子に撫でられて、気持ちよくなったダイが服従のポーズを取っている構図。


「情けない……」


 ダイアウルフの族長の名が廃れるな。

 

「ダイ、いい加減にしろ。やることが決まったぞ。お嬢ちゃんも悪いね、この狼さんはお仕事だからね」


「あ、ごっめーん。あまりにもモフモフだったんでつい手が出ちゃった」


 振り向いたその女の子、嬢ちゃんって歳じゃない。

 大人の女性だな。

 女戦士と言っても良い。

 ただ背が低いから後ろ姿は幼い女の子だ。


「いや、嬢ちゃんは失礼した。君も冒険者なんだね」


 彼女の胸には銅等級の冒険者章が下げられている。


「はい、ミリーっていいます」


「俺はライ、このダイアウルフがダイっていうんだ。この通り、まだ冒険者になったばかりなんだけどね」


 そう言って鉄等級の冒険者章を指さす。

 するとミリー。


「私もこの間、やっと銅等級になったばかりよ。あんまり変わらないから」


 ミリーと会話していると、ダイが念話で言ってくる。


『ソロで活動してるのか聞けっ、早く!』


 何だかこいつ必死だな。


「えっと、ミリーはソロ活動なのか?」


「ううん、違うよ。さすがにソロでやれるほど私強くないからね。“桃色の月”っていうパーティーに入ってるの」


 そりゃ興奮して変身しそうな名前だな。


「そうか、俺はこいつと組んでるんだ」


 そう言ってダイの頭を叩く。


「これってダイアウルフよね。この辺じゃ見なくなったから絶滅したのかと思ってた」


 そう、こいつは絶滅危惧種って奴だ。

 

「最後の生き残りみたいだな。死なせない様にするよ」


「でも狼がいるとはいえさ、鉄等級でソロは絶対危険だよ。パーティーに入るべきだと思うよ」


 パーティーかあ。

 群れみたいなもんか。

 そう考えると確かに群れは必要なんだよな。

 でも人間を入れる訳にはいかないしな。


「そうだな、パーティーは考えておくよ」


 そう言って別れた。

 ダイは名残惜しそうだったが、仕事があるのだ。

 金がないと人間界では生きられない。


 俺達は金を稼ぎやすいと思われる、盗賊討伐をするために山道へと歩き出した。


 レッドキャップとかいう山賊団の討伐と、そのリーダーの「グイド」とかいう奴の賞金首が狙いだ。

 

 だが、レッドキャップとかいう山賊団の出没範囲は広い。

 遺留品でもあれば臭いで探せるのだが、今はそれもない。

 結局色々探したが、日が暮れても痕跡すら見つからなかった。

 見つけたのは、ホーンラビットというウサギ系魔物が二匹。

 ダイと俺とで美味しく頂いた。





 翌朝のことだ。

 東の空が騒がしい。

 まぶしい空を必死で確認すると、空中で魔物同士が争っている。


 ダイが伸びをしながら聞いてきた。


『空を飛べる魔物は厄介だな。早いとこ立ち去ろう』


「ああ、そうだな。出発するか」


 そう言って俺が立ち上がった時だった。


 一匹の空飛ぶ魔物がこちらに向かって、もうスピードで突っ込んで来た。


 その魔物、ハーピーという魔物だった。















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