第5話 ゴブリンの角







 冒険者達からは何度も礼を言われた。

 リーダーの名前はボブ、負傷の冒険者がビル、もう一人がデーブだ。


 しかしこんな夜中に人間が、何でこんな森の奥にいたのかそれが不思議だ。


「なあ、なんで夜中に君らが森にいたんだ?」


 俺が質問すると冒険者達はお互いに顔を見合わせてから、代表としてリーダーのボブが説明してきた。


「実は日暮れに罠を仕掛けておいて、掛かった獲物を夜に回収しようとしたんだ。昼間に罠を仕掛けると他の冒険者が引っ掛かる可能性があるだろ。だから誰も居なくなった時間帯に仕掛けて、夜中に回収しようとしたんだよ。そしたらあいつらに出くわしちまってな」


「夜は危険だぞ。夜中に活動する魔物は人間よりも強いのが多い」


「ああ、今日、それを身に染みて感じたよ。それからそのダークオークは君の獲物だ。俺達に回収する権利などない。持って行ってくれ」


 回収、つまり戦利品の回収だ。

 ダークオークの武器や装備品を売れば、少しは金になる。

 ダイの首輪を買わないといけないし、槍も壊れてしまったから金は必要だ。


「本当に全部いいのか?」


「ああ、俺達は助けられただけで、何も出来なかったからな。それに今の俺達にはそれくらいしか出来ないしな」


「そうか、それなら遠慮なく貰っておく」


「それからさっきの戦闘での事なんだがな――」


 ボブがそう口にした。

 マズいな、俺の腕の変身のことだろう。


「――あれって身体強化魔法なのか?」


 身体強化魔法なんかあるのか。

 言葉通り身体を強化する魔法なんだろうか。


「あ、ああ、そ、そうだが?」


 苦し紛れに話を合わせた。


「やっぱ、そうか。右腕の筋肉が盛り上がったからそうだろうと思ったんだよ。魔法が使えるのは羨ましいよ。魔法も使えない俺達の腕じゃ、まだ夜は無理そうだな」


「そ、そうだ、この“身体強化魔法”は俺のとっておきだからな。秘密にしておいてもらえるか」


「ああ、もちろんだ。誰にも言わないよ。なあみんな」


 ボブの言葉にビルにデーブも首を縦に振る。


 良かった、誤魔化せたな。

 良し、これからは身体強化魔法という事で通そう。


 そこで俺達は別れた。

 彼らは街へ戻るそうだ。

 これにりて夜は出歩かないようだ。


 さて、ダークオークの戦利品を回収するか。


 五匹もいるから結構な金になりそうだな。

 と思ったんだが、ショボい。

 鎧も着ていない時点で想像できたんだがな。

 所持品が予想以上にショボい。

 金になりそうなのは反身の片刃剣とナイフくらい。

 それも刃こぼれしている。

 お金は北の地域で出回っている銅貨を数枚程度だ。


 果たして幾らになるんだろうか。

 

 しかし五振りの剣は重い。

 

 これを持ったままゴブリン狩りは骨が折れる。

 仕方ない、一旦街へ戻るか。


 こうして俺達も街へと向かった。


 幸いな事に、途中三匹の野良ゴブリンを見つけて刈り取った。


 しかしそこで問題発生。

 ゴブリンを仕留めたら、その証拠はどうすれば良いのだろうか。

 三匹の死体を担いで持って帰るのは一苦労だぞ。

 それで一匹で小銀貨一枚じゃやってられない

 ゴブリンの持っている武器も金になんかならないしな。


 悩んだ末に生首を腰にぶら下げて持って帰ることにした。

 こうすれば間違いなく証明になるだろう。


 俺は真夜中の街道をダイと一緒に、テクテクと歩いてエルドラの街へと戻った。

 街に到着すると門が閉まっている。


 マジか!

 もしかして夜は門を閉じるのか!


 焦って走り寄る。

 そこで安心した。

 門番はちゃんといて、小さな扉を開け閉めしてくれていた。

 夜は門の近くの小さな扉から出入りさせているみたいだな。


 扉をくぐり街中へと入る。


 静かだな。

 さすがに夜ともなると人間どもは歩き回らないらしい。

 ほとんどの人間は寝ている。

 が、時々路地裏でコソコソと動く人影が見える。

 あれが話で聞いた裏稼業の人間どもか。

 昔バンおじさんに、泥棒や盗品の売買や人攫ひとさらいをする奴らだって聞いた。

 人間って色んな奴がいるんだな。

 確かそう言う奴らを捕まえて賞金を貰う、賞金稼ぎって仕事もあるって聞いたな。

 夜に行動するならその方が効率が良さそうだな。

 落ち着いたらそういうのも少し考えてみるか。


 冒険者ギルドが見えて来た。

 周囲は暗いのに、その建物だけは明るい。

 ここは年中無休らしい。

 冒険者としては助かるが、従業員は大変だな。


 さすがにこの時間は空いているのだが、それでもゼロじゃない。

 しっかり冒険者が何人かいた。

 中には俺達みたいに獲物をぶら下げた冒険者もいる。


 俺は受付へ行くと、昼間のお姉さんじゃなかった。

 夜は別の種族の女がいた。

 

 獣人族の若い女なんだが、“お姉さん”というよりも“姉ちゃん”と言う方が良い感じ。

 まずは化粧が濃い。

 着ている服の布が少ない。

 爪に色を付けている?

 瞬きすると風が起きそうな長いまつ毛。

 マブタにまで色を付けてやがる。

 そしてなんだか不貞腐ふてくされたような態度というのか、ヤル気が見えない。

 これは俺も知っているぞ、噂に聞いたギャル受付嬢だな。


「すまんが、ゴブリン討伐をやって来たんだが、処理を御願いしても良いか」


 俺が受付で声を掛けると、面倒臭そうに書類をテーブルの上に出す。


「は~い、じゃあこれ書いてよ」


 討伐受付用紙と書かれている。

 

「ええっと、これって受付の人が書く種類なんじゃないか」


 俺が指摘するとギャル受付嬢は軽く「ちっ」と舌打ちする。


「細かいことは気にするんじゃねえよ、ガキはこれだから嫌なんだよね~。ったく」


 俺が何かしたんだろうか。

 人間は時々、分らないことを言うんだよな。


「ああ、すまない。俺は鉄等級の新人なんだよ。間違った事をしたらその都度言ってくれ。あ、それ、こっちで書くよ」


 俺は慌てて用紙を引き寄せる。


「ふ~ん、話が分かるじゃ~ん。じゃあ書いておいてね~、任せた!」


 ウインクされた。


 俺は悪戦苦闘しながらも書類の記入を終えて、ゴブリン討伐の手続きを終えた。


「あれ、討伐証明部位はどこよ。それないと私が怒られるんだからさ、早く出してよね」


 そうだった、忘れていた。


「ああ、ちょっと待て。ほら、これが討伐証明の首だ」


 俺はそう言ってカウンターの上にゴブリンの生首を三つドンと置いた。


「な、な、な、何やってんのよ~~~~。あり得ないんだけど~。キモッ、キモイからやめてよね~」


 何か間違った事をしでかしたようだ。


「ああ、悪いな。何かまずかったか?」


「ガチで言ってる? 何でゴブリンの頭を持って来てんのよっ。角だけで良いんだって。脳みそ腐ってんじゃないのっ!」


 角だと?


 よく見ればゴブリンの頭には小さな角がひとつ生えている。

 そうか、この角が討伐証明になるのか。

 失敗したな。

 初めに依頼表をもっと良く見ておくんだったな。


 周囲にいた他の冒険者が笑っている。

 これはちょっと恥ずかしいな。










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