第4話 折れた槍
「そうだな、負傷者を助ける方法か―――なら、こいつら全てを倒せば良い!」
そう言いながら俺は、ダークオークに向かって槍を突き出した。
バンおじさんに教わった槍さばき。
槍を振るう時には、柄を回転させ敵にネジ込むように突き刺す。
そうすると威力が増し、より深く突き刺すことが出来る。
この槍には魔法石が取り付けてある。
これを使えば、槍の穂に呪符された魔法が発動する。
ただし回数に制限があるから、余程の場合じゃなければ使わない。
こいつら程度なら使わずにやれるさ。
この呪符は俺の最終手段だ。
俺は突き刺した槍の柄を軽く捻りながら抜いた。
ダークオークは何が起こったか理解できない様で、驚きの表情で俺の顔、そして自分の胸から溢れ出す鮮血を見やる。
そこで初めて自分の身体がどうなったか理解したようだ。
何か言いたげに、口をパクパクしている。
突き刺して時間が経つと肉が収縮して抜けなくなるから、刺したら収縮する前に素早く抜く。
その時にはやはり槍を回転させながら抜くと抜きやすい。
刺して抜くまでがひとつの動作と教わった。
抜いた槍を次の標的へと向けて構える。
それと同時に胸に穴の空いたダークオークが、ドッと地面に倒れた。
残り四匹。
次に狙ったダークオークは思っていたより腕が立つようで、すかさず後ろへと後退する動作を見せる。
「逃がす訳ないだろ―――ダイがな!」
茂みに隠れていたダイが飛び出し、後ろへ下がろうとするダークオークの脚に噛みついた。
「ガアア!」
そこへ俺の槍の穂先が、そのオークの喉元を横なぎに掠(かす)めた。
一瞬遅れてダークオークの喉元がパックリと開き、鮮血が噴き出す。
「ゴフウゥッ!」
喉を押さえながら崩れ落ちるダークオーク。
残り三匹。
残りのダークオーク達が警戒して大きく距離を取る。
冒険者達は驚いて俺を見ている。
そんな中、リーダーの冒険者がつぶやいた。
「あんた、鉄等級だよな……いったい、何者なんだ……」
おおっと、これはやりすぎだったようだな。
加減が難しいな。
怪しまれたら大変だ。
「おい、残りの三匹はどうする?」
一応だが冒険者達に聞いてみた。
「ああ、そうだな。やっちまおう、っていうか頼む。俺達には歯がたたない」
なんだ、結局は俺とダイがやるのかよ。
後戻りはできないし、まあやるか。
「ダイ、やるぞ!」
俺はダークオークに向かって大きく踏み込む。
三匹の中の一番身体がデカいダークオークが、奇声を発しながら俺に挑みかかる。
俺もだんだんと興奮してきた。
俺の中の狼の血が騒ぐ。
ダークオークの剣は反身の片手剣だが、そいつのは両手仕様の大剣だった。
両手持ちのまま大きく頭上に振りかぶる。
まともに俺の槍で受けたら柄を叩き折られる。
なら避けるまでだ。
だが思ったよりそいつは早い動きだった。
―――避け切れないかっ
やむなく槍の柄で横に滑らせる。
―――重い
受け流したはずなのに凄い威力。
槍の柄を通して俺の手に伝わる振動が、異常を伝える。
すかさず槍を振り回して牽制し、奴との距離を空ける。
槍の石突部分で地面を叩くと、伝わってくる振動がおかしい。
どうやら今の受け流しだけで、槍の柄に亀裂が発生したようだ。
これはまずい。
俺は予備の武器といったら小型ナイフしかない。
だが久しぶりに歯ごたえのある相手だ。
ああ、変身したい。
「ダイ、こいつは俺に任せろ。お前は残りを頼むぞ」
『そうか、でもな、ダークオークはあまり旨くない。まあ好き嫌いは良くないか。グヒヒヒヒ』
人間みたいな笑いを念話で伝えてくる。
本当にこいつダイアウルフなんだよな?
もうこうなってくると冒険者達は邪魔でしかない。
出来ればサッサと逃げてほしいが、必死に剣を構えている。
そうか、負傷者がいるからか。
そういえば、早く止血しないとあの冒険者は死ぬな。
これは楽しんでいる場合じゃないか。
「ダイ、負傷してる冒険者が危ないから急ぎで頼む」
「ウオオオン!」
冒険者達が狼と会話する俺を不思議そうに見ているが、今はそれどころじゃない。
「おい、オーク野郎、残念ながら楽しんでいる余裕がない。すまないな」
そう口にして俺は右手に力を込める。
すると右腕がメキメキと筋肉で盛り上がり指先の爪が伸びかけ、体毛が生えかかる。
その右腕で持っていた槍を投げた。
槍が手を離れた瞬間には、右腕は元の人間の腕へと戻っていく。
こうすることで体毛が伸び切る前に、元の腕に戻るのだ。
俺が投げた槍を叩き落とそうと、反身の大剣を振り下ろすダークオーク。
驚いた事にそいつは俺の投げた槍に当てやがった。
かなり良い目をしているな。
だが槍の柄に亀裂が生じていたからか、柄の部分が途中で折れ地面に落とされる。
だが刃先部分は回転しながら、ダークオークへと飛んでいった。
そして顔面に突き刺さる槍の穂先。
「アガッ……」
うわっ、モロに顔面で受けたな。
顔面に刺さった槍の穂先を両手で押さえながら、崩れ落ちるダークオーク。
そのまま動かなくなった。
残りは二匹。
ああ、でも長年使ってきた手作りの槍だったのに……
ダイの方を見ると、一匹は横腹を喰い千切ったようで、腹を押さえて倒れている。
そうなると残りは一匹だ。
生き残りのダークオークはかなり動揺している。
あっという間に形勢が逆転して自分だけになったんだからな。
恐らく奴の頭の中では大胆に切り込んで、その隙に後ろの森へ逃走しようかと考えているんだろうな。
それが上手くいくか悩んでいるんじゃないのか。
そのダークオークのコメカミからは、冷や汗が垂れている。
「ほら、どうした。掛かって来いよ」
俺が挑発してみるが、言葉が通じないからか何も言わない。
そして覚悟を決めたのか、反身の剣を振りかざして斬りかかって来た。
だが、その矛先は冒険者の方だった。
「あ、てめっ、そっちかよ!」
だが初めから防御に徹していた冒険者は、その攻撃を盾で受けることに成功する。
「ガルルルルッ」
そこへダイが飛びかかった。
ダイの牙がダークオークの頭に食らいついた。
「ウガアアアアアッッ」
悲鳴を上げるダークオーク。
ダイはそのまま首筋へと牙を移し、オークの首の半分を喰い千切った。
なんてアゴの力だ。
地面に降り立ったダイが、顔に着いた返り血を舐めながら牙を剥き出す。
笑ってやがる。
戦い終わって冒険者達が礼を言ってきた。
負傷者は彼らが所持していたポーションでなんとか助かりそうだ。
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