第3話 首輪
もしかして人間の言葉が分かる魔物は変なのか。
うううむ、有り得そうな気がしてきたな。
どうやって誤魔化そう。
「ち、違うんだって、俺の一人ごとだから~」
俺が必死で言い訳していると、受付のお姉さん。
「狼さん、お腹空いてるかな、何か食べる?」
勝手にダイアウルフに話し掛けている。
返事するなよ……
「ワオオン!」
声を上げながら、首を縦にブンブン振るダイアウルフ。
終わったな。
「凄い、凄い、この狼さん、メチャメチャ頭が良いわね。ライ君、凄い獣魔見つけたねっ」
は?
それだけ?
セーフなのか!
しかもお姉さん、本当に乾燥肉のエサを与えているし。
ダイアウルフは嬉しそうに、ブンブン尻尾を振り回しているし。
『人間って思ってたよりも良い奴じゃないか』
念話でそんなことを伝えてくるし。
とにかく多少はゴタゴタしたが、“ダイ”という名で獣魔の登録は出来た。
これで俺が一緒なら、ダイも人間社会でも生きていける。
「あ、そうそう、これを渡しておくわね」
そう言ってお姉さんに渡されたのは獣魔の札だ。
これをダイの首から下げておかないといけないらしい。
となると首輪を買わないといけないな。
「ダイ、首輪とかいうのを買わないといけないみたいだ。防具屋に売ってるらしいから行くぞ」
「ウォン!」
ギルド内にいる冒険者からか、「スゲー」とか「頭良いな」とか聞こえてくるが無視しておく。
後で分かったことだが、獣魔に話し掛ける人間は多いらしい。
だが、返事する獣魔はかなり珍しいと知った。
その程度なら隠す必要もない。
防具屋はその名の通り、盾や鎧が売っている。
革製品が多いな。
金属を使った製品はどれも値段が高い。
その中に革製の首輪があった。
値段はそれほど高くはないが、今の俺の
一番安い首輪にしようとしたら、ダイが一番高い首輪を口に咥(くわ)えやがった。
「おい、それは無理だ。金がない」
『でも、俺はこれが良いんだ。そんなちゃちな作りだと戦闘したら切れちまうぞ』
う~ん、それを言われると困る。
「なら、取りあえず
『それで良い。俺は冒険者になったんだからな。自分の物くらい、自分で稼いでやる』
おお、頼もしいじゃないか。
だけど厳密にいうと冒険者じゃなくて獣魔だがな、まあそこは言わないけど。
そうなると依頼をこなすことになるのだが、鉄等級冒険者が受けられる依頼なんて大したものはない。
良くて薬草採取だよな。
あとはゴブリン討伐があるが、それで稼ぐには数をこなさないとダメだ。
ならば薬草採取と平行して、ゴブリン討伐もやるか。
今度は俺一人じゃないしな。
なんか心強いな。
俺達は再び冒険者ギルドに向かう。
陽が沈んで大分経つからか、ギルド内の冒険者が少ない。
やはり人間は夜には行動しないようだな。
空いていて良いのだが、この時間はろくな依頼がなかった。
ほとんどの依頼は朝出るものらしい。
しかし、幾つかの討伐依頼はある。
常時依頼と言うらしく、ゴブリン討伐はそれに当たる。
しょうがないな、ゴブリンにするか。
常時討伐依頼は申し込みは必要ないらしい。
「ダイ、ゴブリン討伐しかないみたいだが、構わないよな?」
『ああ、良く分からないがそれで良い。要はゴブリン共を狩れば良いのだな』
「まあ、そういうことだ。なら行くぞ」
俺達は夜の森へと向かった。
やっぱり夜は良い。
風は涼しいし、なにより月明かりは落ち着くな。
それに誰もいないってのは良い。
ゴブリンの居場所はダイが知っているらしいから、道案内は任せている。
ゴブリンは群れで行動することが多い。
強い魔物ではないから単独行動は殆どしない。
これから行く所はそんなゴブリンのコロニーだ。
道から外れての移動になって、俺は狼に変身する。
やはりこの姿は良い。
真夜中にこの姿でいるのは久し振り、やっと解放された感じがする。
ダイも生き生きしている。
森の中を風を切って走ると、色々な匂いを感じる。
何かの死骸の臭い、魔物の臭い、血の臭い……血の臭いだと?
ダイも嗅いだようで、走るのをやめて鼻を高くして、臭いの方角を確かめている。
『こっちだ!』
ダイが再び走り出す。
俺もそれに着いて行く。
しばらくすると開けた場所に出る。
そこでは人間が三人に対してダークオークが五匹、まさに戦闘中だった。
ダークオークというのは夜に活動するオークの亜種のことで、普通のオークよりもやや浅黒い肌をしている。
人間三人の内の一人は重傷で、立っているのも辛そうだ。
血の臭いはそいつからだ。
良く見ると人間は三人とも冒険者のようで、首から銅等級の札をぶら下げている。
そういうことなら話は簡単だ。
俺は人間の姿に戻り、急いで服を着る。
服が破けないように、変身する前に脱いでいるからだ。
だから人間の姿に戻ると裸状態となる。
服を着て槍を手に冒険者達の前に飛び出した。
「加勢する!」
「ガウウウ!」
最初は驚いていた三人だったが、加勢だと分かるとリーダーらしき人物が嬉しそうに返答する。
「すまん、助かる!」
これで重傷一人を抱えているとはいえ、数的には互角となった。
少なくても冒険者三人のモチベーションは上がったな。
自然と俺達は負傷者の前に立ちふさがり、人壁の態勢となった。
ダークオークは装備は大したことはない。
反身の片刃剣と軽装革鎧。
俺の手製の槍でも十分戦える。
一応俺は冒険者のリーダーに聞いてみる。
「こいつら全部、ぶっ殺しても良いんだよな」
すると口角を引きつらせながらリーダーが言った。
「あ、ああ、出来る事ならそうしたいが、あんた鉄等級だろ。こいつらは強いぞ。倒すことよりも負傷者を連れて生き残る方法を考えてくれ」
俺は自分の首からぶら下げた鉄等級の札をチラッと見る。
なるほどね。
忘れていたが、俺は冒険者での底辺の“鉄”の初心者なんだよな。
だがな、人を見かけで判断しちゃいけないよ?
おっと、俺は人じゃなくて魔物だけどな。
「そうだな、負傷者を助ける方法か―――なら、こいつら全てを倒せば良い!」
そう言いながら俺は槍を突き出した。
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