第2話 狼を獣魔登録した
そこで俺は冒険者の取り決めの一つを思い出し、思わず声を掛けてしまった。
「なあ、ちょっと待ってくれるか。お前も冒険者になれるかも知れないぞ」
ダイアウルフはピタリと足を止めた。
そしてゆっくりと首だけこちらに振り返り、怪訝そうな顔で俺を見つめる。
そこで俺はひとつの考えを口にした。
「俺は人間社会で冒険者登録をしている、冒険者ギルドの正式なメンバーだ。それでこの冒険者ギルドなんだが、幾つかルールがあって、その中のひとつに獣魔契約というのがある。簡単にいえば冒険者の仲間に魔物を割り当てられるルールだよ。その獣魔登録をした魔物は人間社会に入ることが出来るんだ」
ダイアウルフが
やはり知らなかったようだが、まあ当たり前か。
『おい、その話、詳しく頼む!』
尻尾をブンブン振ってきた。
俺は冒険者が獣魔と一緒に依頼をこなしたり、一緒に行動している状況を説明した。
それにリスやカラスなどをペットとする者だっている。
考えてみると、実は意外と一般的だったりする。
そういえば狩人の猟犬なんか良い例だな。
その話をするとダイアウルフがのってきた。
『俺もその獣魔にしてくれ、頼む!』
「ああ、良いけど、特別な場合を抜いて人間に手出しはしないと約束できるか?」
『もちろんだ、旨いものが毎日食えるならそんな約束くらい守って見せるさ!』
この狼、相当苦しい生活をしていたみたいだな。
「よし、ならまずは手始めにシライト草を探してくれ。三株ほしい」
「ワオオオオ~~ン!」
喜びを全身で表しながら、ダイアウルフは森の奥へと走って行った。
街の門でちょっとだけ時間が掛かったが、なんとかエルドラの街の中へと入って来た。
時間が掛かったのは狼を連れていたからだが、狼系をペットにしたり猟犬代わりにしたりする冒険者は多いので、それほど問題にはされなかった。
門番に早いとこ登録はしろと言われただけだ。
街中を歩きながらダイアウルフは、物珍しそうにキョロキョロしている。
『人間の街は初めてだ。前にエルフの村を襲ったことがあるが、こんな感じじゃなかったぞ』
何気に恐ろしいことを言うな、こいつ。
街中をダイアウルフを連れて歩くが、狼の獣魔くらいじゃ街の人は驚かないらしく、特に目立っているような感じはしない。
ちょっと安心する。
魔物なのを隠している俺としては、余り目立ちたくはないからな。
まずは冒険者ギルドへ行って、依頼の薬草を提出しないといけない。
それからこのダイアウルフを獣魔登録しないとな。
冒険者ギルドへと入って行くと、夕方とあってちょっと混んでいる。
未登録の魔物は室内へ入れないらしく、ダイアウルフも入れずに外で持ってもらう。
特に俺が依頼を受けた受付のお姉さんは人気があるようで、非常に混んでいて整理券を配っている。
基本、依頼を受けた受付に持って行かないといけないから、ちょっと待つしかないようだ。
半刻ほど待ってやっと俺の番だ。
「依頼のシライト草を三株だ」
すると受付のお姉さんは笑顔で俺の頭を撫でる。
「まあ、凄いのねライ君は、もう依頼完了したんですねえ、偉い、偉い」
馬鹿にされてるわけじゃないよな、褒められているんだよ、な?
人間は良く分らん。
「それから、獣魔登録してもらいたいんだけどいいか」
「はいはい、鳥さんかな、それともネズミさんかな?」
「ここに呼んでもいいか」
「いいわよ~、私にもその可愛い獣魔を紹介してねえ~」
俺は振り返って入り口の外にいるダイアウルフに向かって口笛を吹く。
するとキョロキョロしながらギルドのホールに入って来る狼。
そして床板をミシミシいわせながら受付に向かって来るその姿は、どうみても可愛らしいペットのような獣魔じゃない。
受付のお姉さんの表情は一瞬で固まり、ピキリと音が聞こえてきそうだ。
「えっと、こいつの獣魔登録……頼む」
俺がそう切り出してやっとお姉さんが動き出す。
「え、えっと、こ、これがライ君の獣魔なのね……そ、それじゃあ少しだけテストさせてほしいんだけど。言う事をちゃんと聞くかどうか見せてくれるかしら……」
なるほどね、そういうことか。
「分かった。なら、何か命令してみてくれ」
するとお姉さんは動揺した様子で言ってきた。
「え、私が命令していいの?」
人間の言葉は理解できるから大丈夫だろ。
「はい、どうぞ」
「そ、それなら―――お、お座り!」
一瞬「?」と思ったようだが、ダイアウルフは直ぐに理解してその場に腰を下ろした。
するとお姉さん。
「ライ君はやらなくていいのよ?」
し、しまった。
何か反射的に座ってしまった!
「は、ははは、つい魔が差しました」
「魔が?……まあ、いいわ。次は―――伏せ!」
再びダイアウルフは「?」と思ったらしいが、直ぐに反応してその場に伏せた。
「えええっと、ライ君?」
あ、やばい、俺も伏せていたか!
「あ、あは、あははは、冗談、冗談。もうお姉さんったら」
取りあえずこれだけで大丈夫だったらしい。
狼程度ならこれで十分らしい。
「あ、それで名前は決まってるのかしら」
そうか、名前も登録するんだった。
「おい、名前はどうする。お前は何て呼ばれていたんだ?」
するとダイアウルフは俺の方を見て返答する。
『名前はない。族長って呼ばれてただけだ。好きにつけてくれ』
「名前はないらしいから好きに着けて良いって言われたんで、ダイアウルフの“ダイ”って呼び名にする」
俺がそう言うと、お姉さんは目をまん丸くする。
「ライ君? もしかして、今その魔物と会話とかしたのかな……そんな訳ないわよ、ね?」
俺、なんかやらかしたのだろうか。
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