冒険者になった魔物達〜気が付いたら魔王軍と呼ばれてた〜

犬尾剣聖

第1話 鉄等級冒険者になった







 ライカンスロープとバンパイヤは、昔からお互いを相いれない存在としてきた。

 その為、太古から永遠ともいえる戦いが続いた。

 それが時と共にバンパイヤの勢力が伸び、ライカンスロープが押されるように戦況は傾く。

 今ではライカンスロープは滅びる手前一歩まで追いやられる始末。

 生き残ったライカンスロープが、どれだけいるのかも分からない。

 ただライカンスロープは人間の姿を取れるから、それこそ人間社会へと逃げ込んだ。


 そして長い時が経ち、人間達はライカンスロープの存在を忘れ、伝説上の魔物としての認識だけが残った。

 だがバンパイヤは、最後の一人のライカンスロープまで根絶させるべく、“人狼狩り”を今でも行っている。

 俺はバンパイヤの追手をかわしつつ、あちこちを彷徨さまよい歩いた。

 そして分かった事、それは人間社会にいれば安全ということ。

 反対にバンパイヤは、“バンパイヤ・ハンター”と呼ばれる人間組織から狙われている。

 だから人間社会にいれば、バンパイヤも迂闊うかつに動けない。

 それで俺は人間の街へと生活の場所を移すことにした。




 そして俺はエルドラという街で冒険者登録をした。

 年齢を聞かれて取りあえず、人間の見た目の感じで十六歳とした。

 しかし実はもっと若く見えるらしいが、今更言い直せない。

 ライカンスロープは成長が遅く見た目は十代だが、実はそれ以上を生きている。

 それで冒険者登録の時に、適当に年齢を偽った。

 それでこの時から俺は、人間としての年齢で人間社会で暮らすことになった。


 人間社会に溶け込めば、バンパイヤからの追手の目をくらませる。

 だが人間社会で生活していくには、稼がなければいけない。

 それで俺でも出来る、一番手っ取り早く稼ぐ方法が冒険者だったというだけだ。


 装備は俺の育ての親である、バンおじさんの形見の槍があるだけ。

 魔法石が埋め込まれた特別品だ。

 形見というのは、俺が子供の頃にバンおじさんは、バンパイヤに殺されてしまったからだ。


 武器はその槍だけで防具はない。

 人間が着る様な鎧は、変身する俺には無理がある。

 興奮して変身すると、着ている鎧が裂けてしまうからだ。


 ただ気を付けないといけないのが、人前で変身したら大騒ぎになるってことだ。

 その時は間違いなく人間の聖騎士団に殺される。

 ライカンスロープやバンパイヤは、存在自体が人間の教会の教えに反しているからだ。

 俺は興奮すると変身してしまう時もあるから、人間の前でそれは気を付けようと思う。 


 さて、折角冒険者になったんだから何か依頼をこなしたい。

 初めは一番最低ランクの“鉄等級”からだそうだ。

 鉄等級が受けられる依頼を掲示板で探す。

 

 探してみるが、これはというのが全くない。

 薬草採取が一番まともか。

 それでも大した金にならない。

 シライト草を三株で小銀貨三枚。


 しょうがない、これにするか。

 金を稼がないと野宿することになる。


 受付に依頼の紙を出すと、綺麗なお姉さんが笑顔で受付処理をしてくれる。

 

「くれぐれも森の奥へは行かない様にね。奥には魔物が沢山いるからね」


 親切なのは良いのだが、俺がその危険な魔物なんだけどな。

 まあ、ここはこっちも相手に合わせる。


「わかったよ。森の奥には行かない様にする」


「あら、あら、素直さんですね~」


 なんか頭を撫でられたんだが。

 見た目が幼いから子供に見られがちだが、俺はお姉さんより長く生きてるからな。

 

 近くにいる他の冒険者の目がちょっと恐いんだが。

 俺はサッサと冒険者ギルトを出た。


 まずは森へ行かないと。

 

 薬草採取ならば俺もやったことがある。

 子供の頃にバンおじさんの手伝いで、一緒に何度か森に入ったから問題ない。

 それにシライト草は、匂いが強いから見付けやすい。

 ライカンスロープは、人間なんかよりも嗅覚は良いからな。


 森に入って行くと、思った以上に人が多い。

 こんな所に薬草なんかあるはずもない。

 変身すれば匂いで探せるが、その姿を見られる訳にはいかない。

 やむなく人間の姿で薬草を探す。

 

 気が付けは、森の奥と言われる辺りまで来てしまった。

 でも人気ひとけもないから気が楽でいい。

 などと思ってたら、魔物が居た。


「ガルルル……」


 ダイアウルフだ。

 俺は変身すると狼になるから、近縁種といえばそうかもしれない。

 それに人間の立場で見るとダイアウルフは魔物であり、魔物であるライカンスロープと同じくくりだ。

 仲間じゃないけど敵でもない。

 だから殺す必要もない。


 だが奴は縄張りを主張して、唸り声を上げている。

 さて、どうするかな。


 考えていると、そいつは襲い掛かってきた。


「あ、ちょっ、待てって、うわっ」


 俺の制止を振り切り、牙を剥き出しにして左腕に噛みついてきた。


 次の瞬間、俺の左腕だけがメキメキと筋肉が盛り上がり、体毛がブワッと生えてきた。

 それが全身に回らないように必死で堪える。


 噛みついたダイアウルフはというと、人間だと思って噛みついた相手が魔物だった訳だから、もう大慌てだ。

 何とか噛みついていた左腕を放してくれた。

 そもそもダイアウルフ程度の牙じゃ、変身した俺の腕に傷もつかない……はずなんだが、くそ、痛いじゃねえか!


『貴様、まさかライカンスロープか?』


 話し掛けてきたってことは、このダイアウルフには知能があるらしい。

 人間の街に近いこんなところで、知能の高い魔物に出会うとは驚きだ。

 バンおじさんから話は聞いていたけど、まさか本当に出会うとは思わなかった。


「そうだ、俺はライカンスロープだ。人間じゃないから安心しろ」


 するとダイアウルフは再び話し掛けてきたのだが、口が動いていない。

 ああ、念話ってやつか。


『ライカンスロープがまだ生き残っていたとは驚いたな。だが、こんな所で何してるのだ』


「お前が知っているように俺達の種族は滅びかけている。だから俺は人間社会に溶け込んで生き残っている。人間社会の中に居れば安全だからな。人間社会が魔物の俺を守ってくれる。そういうお前こそ、こんな人間の街の近い所で何をしている?」


『俺はこの森の最後の生き残りのダイアウルフだよ。昔はこの森は俺達の縄張りだったんだがな、ちょっと前からゴブリン族が勢力を増してきやがってな。奴ら数で押して来やがる……それでこのザマだ」


 ゴブリン族か。

 個体じゃ雑魚だが数で押して来る、意外と厄介者だ。

 繁殖力だけは凄いからな。

 そういえばゴブリン討伐も依頼であったな、あまりに安くて受けなかったけどな。


 そこでダイアウルフは俺が羨ましいという。


『お前は人間の姿になれるから良い。俺は人間からしたら魔物だ。遭えばその場は逃げても後で仲間を引き連れて襲って来る。かといって他の種族の魔物に出会っても襲われる事さえある。下手したら縄張り争いで同じ狼族とだって争う羽目になる。だからどこ行っても同じだ。俺はこの森で朽ちていくんだ。人間社会で生きられるお前が羨ましいよ』


 確かに言われてみればそうだ。

 俺はバレなければどっちにでもなれる。

 だけど魔物の姿をしたこいつはそうもいかない。

 そう考えると可哀そうだな。


 ダイアウルフは寂しそうに森の奥へと立ち去ろうとする。


 そこで俺は冒険者の取り決めの一つを思い出し、思わず声を掛けてしまった。


「なあ、ちょっと待ってくれるか。お前も冒険者になれるかも知れないぞ」


 ダイアウルフはピタリと足を止めた。




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