第8話 山賊狩り









 上空からハピに偵察してもらいながら、怪しそうな一帯を地上でも調べてみるのだが、やはり山賊どもの出没範囲が広すぎて、中々それらしい痕跡が見つからない。

 

 しかし野良ゴブリンやジャイアントラットなどの低級魔物は良く見つけた。

 おかげで食事には困らなかった。

 俺達魔物は人間と違い、お上品には出来てない。

 だから大抵の魔物は喰っちまう。

 旨いか不味いかよりも、喰えるか喰えないかが重要なのだ。

 だが最近俺は人間生活が長いからか、旨いが気になり始めている。

 それに加えて、火を通す癖が付き始めている。

 火を通すのは面倒臭いが格段に旨くなる。


 だが、ゴブリンは喰いたくない。

 ダイやハピでさえも、美味しくないと言いながら喰う。

 こいつだけは焼いても不味いのだ。

 

 幸いにもゴブリン以外も獲れるから、ゴブリンは角だけ回収だ。


 陽が沈みかけてきたので、今日は終わり。

 残念だが明日に期待しよう。


 夜になって焚火を囲んでいると、ハピがビクビクしている。

 火が怖いらしい。

 肉は焼くと旨くなる事は知っているらしいが、ハーピーは火を使わない種族だ。

 普通のハーピーは人間のような手がないから、魔法でもない限り火を起こせない。

 火は起こせないし、手がないから料理も出来ない。


 だからダイ同様に食事は生食だった。


 しかし俺と出会ってしまったから、火を通すという事を覚えてしまったのだ。

 それからというもの、時間さえあれば肉は火を通すようになった。

 

 ハピだが肉を喰っている姿はまさに魔物なんだが、普通にしている顔を見ると人間の若い女性そのものだ。

 そこで気が付いてしまった。

 ハーピーって人間の胴体をしている、つまりは胸が剥き出しだ。

 この格好で人間の街へ入って大丈夫なのだろうかと。


 ハピの顔と体つきはどう見ても、人間のうら若き乙女だ。

 獣魔と分かったら、馬鹿な冒険者どもが理由を付けて、ハピの人間の身体を触りにきそうだ。

 そんなバカな奴らが沢山いるのが冒険者ギルドだしな。

 

「おい、ハピ。この布を胸に巻いておけ。人間は胸を見ると興奮する奴が多い。絶対に人前で胸を見せるな、分かったな」


 そう言ってハピに布を投げ渡す。


「分かりましたわ。これを巻けば良いですわね」


 結果は悲惨だった。

 何の為にどこを隠すのか説明しなかった俺が悪いか。

 ハピが巻いた布は、何だか具がはみ出た状態で、隠すどころか逆にエロい巻き方になっていたのだ。


 ワザとじゃないよな?

 

「悪かった、俺が巻く……」


 結局俺が巻いたが、布の量がそもそも少なすぎた。

 前よりも良いが、ちょっと心配だ。

 だいたい布がズレても、ハピは気にしない気がする。

 街へ付いたらもっとまともな布を手に入れるか、女性用の胸鎧を着けさせるか。





 翌日も空から偵察しつつ地上でも探すやり方をしたが、なかなか見つからない。

 そんな中、ハピが時々見たと言っていた川の近くで人影を発見した。

 発見したのはもちろんハピだ。


 直ぐに俺達の所に降り立って発見を知らせてくれた。


 早速、その川へと向かう。

 

 その場所は川の近くの平らな草地が広がった場所で、大人数が休める広さがある。

 それでいて街道からは離れている場所。

 山賊には好都合な場所って訳だ。


 木の影から様子を見ると、人間が五人ほど見える。

 見た所くつろいでいるように見える。

 休憩中らしいな。


 何故か全員がフード付きのマントを身に着けていて、フードを目深く被り表情が見えづらい。


 何とか、首から冒険者章をぶら下げていないのは確認出来た。

 となると考えられるのは狩人だが、狩人の装備にしてはおかしな点が多い。

 普通は狩人に盾は必要ないよな。

 奴らは盾を装備してるし、ロングソードやメイスを持っている。

 弓を持っているのが一人だけってのもおかしい。

 

 山賊で間違いない、とは思うが自信はない、どうするか。

 するとダイ。


『ライ、山賊かどうか判別つかないから迷っているのか』


「ああ、そうだ。違ったら俺達がお尋ね者になるからな」


『大丈夫だ、全滅させれば事件は闇の中だ』


 おい、考え方が山賊だぞ!


「そうだ、ダイ、俺に良い考えがあるぞ。そうだな、俺が囮(おとり)になる。作戦は―――」


 ・

 ・

 ・


 俺は一人で奴ら五人の所へと向かった。

 

 俺が広場に姿を現すと、男達が直ぐに驚いて剣を抜く。


「おい、てめえ、何しにここへ来た!」


 やっぱ山賊だよな、その反応。


「いや、怪しい者じゃない。冒険者だ、ほらこれを見ろよ」


 俺は首から下げた冒険者章を指さす。

 

「なんだ、ビビらせんじゃねえよ。鉄等級じゃねえか。まさかお前ひとりだけか?」


「ああ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだ。ダイアウルフって金になるのか」


「ダイアウルフがいたのか、そりゃあ珍しい。ダイアウルフの毛皮なら結構な金になるぞ。まさか仕留めたのか」


 ダイアウルフは絶滅危惧種だから、その毛皮は希少品ってことか。


「仕留めたんじゃなくて捕まえたんだよ。だけど俺一人だからどうしようかと思ってな」


 俺はそう言った後、手に持っていたロープを引っ張る。

 すると木の影からダイが出て来た。


 それを見た男達が、お互いの顔を見合わせてニヤリとしたのが見えた。

 そして男の一人が言った。


「おい、そのダイアウルフをこっちへ寄越せ。痛い目見たくないだろ?」


 山賊決定だな。

 一応聞いておくか。


「これ、最終確認な。お前らは“レッドキャップ”なのか?」


 すると男達が一斉に身構える。


「てめえ、賞金稼ぎか!」


 あ、確定だ。


「ダイ、ハピ、やっていいぞ」


 俺の合図でダイが待ちわびたように、一気に先頭の男に飛びかかる。


「うわああっ」


 それに遅れて木の上で待機していたハピが、一番後方にいる男の頭を鈎爪かぎつめで鷲掴みにする。


「ぎゃああああっ」


 奇襲攻撃に対し、残りの三人の男はオロオロと周囲を見まわしている。

 まだ他にもいると思っているのか。


 俺はその三人へ走り寄りながら、両脚を変身させていく。

 筋肉がメキメキと盛り上がっていく。


 そこで跳躍ちょうやく


 右脚を突き出す。


 俺の脚は男の顔面を捉える。


 すると男の首があらぬ方向へと曲がり、錐揉きりもみしながらすっ飛んで行き、最後は木に激突して鮮血を散らした。


 残るは二人だ。














 

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