禁忌題目の簡易プロット Ver.5.0(筆者作成)
『日常生活に溶け込む「顔」の怪異(仮)』
[ジャンル]現代オカルトホラー
[テーマ]安定していると思われている日常の脆弱さ
[一行ログライン]
日常生活に潜む「顔の怪異」を発見した弱小作家が、地獄の世界を作るまでの話
[起]
デビュー作が不発だった弱小新人作家の私は、次作構想のための情報収集中。実親を猟奇殺人した青年Tを始めとし、事件事故に共通して「誰でもない顔の幻覚」の証言が多々あると気づき、それを「顔の怪異」と定義する。そのネタを用いた次作案を厳しい担当編集に提案したところ、珍しく一発でプロット作成のGOサインを得る。
[承]
しかし担当編集は「顔の怪異」が「編集部で禁忌題目とされていた」と突如掌を返す。納得のいかない私は売れっ子作家の友人Kと共に「顔の怪異」と、それがどうして禁忌題目とされたのかを探る。やがて「顔の怪異」は幻覚症状が進むと「異常行動を強制させる」特性があると判明。私も「顔の怪異」と思しき幻覚に悩まされ始める。
[転]
「顔の怪異」に関連する数多の事例を集める中、「顔の怪異」に取り憑かれた友人Kが異常行動の強制で死亡。私もまた「今まで経験したこと・知ったことを文章化する」という異常行動を強制され苦しむ。私の担当編集や一度接しただけの人物にさえ「顔の怪異」が取り憑き始めたことから、私は自身が感染源なのではと疑念を抱く。
[結]
自身に科せられた異常行動の強制は、やがて「顔の怪異」を感染させる呪いの媒体を作り出し、それをこの世に拡散させる結末を導くと確信した私。世界を優先して自殺するか、自身を優先して世界に呪いをふりまくか。私は第三の選択肢である、■■を■■へと■■■■■ことによって「顔の怪異」の導く結末を変えようとする。
【筆者メモ】
2023年4月1日の夜明け、私はプロットを立て終えた。
無論、連絡の途絶えた担当編集に送るつもりではない。
これは、極めて個人的で、ささやかな宣戦布告状だ。
勝算があるかって? そんなものはない。
てんで見当違いのことをしているかもしれない。ただの無意味な偶然の連なりに、法則性を見出した気になっているだけなのかもしれない。独りよがりに明後日の方向を睨みつけ、間抜けなことをしていると嘲笑われるかもしれない。
ただ、私にだって矜持はある。
私は何者になろうとして藻掻いてきて、私は何者であろうとして足掻いてきたのか。物語に踊らされるだけのちっぽけな存在だとしても、その死に様くらいは自分で決めるのだ。文句なんか言わせるものか。
私は、全身全霊で考え続けている。
きっとこれが、私の生涯最後の創作活動だ。
ただ、そもそもの前提条件からしてあまりに難しい。なにせKですら成し得なかったことを、私が成さなければならない。彼の挑戦がどれほどまで形となっていたのか、それが通用したのかそうでなかったのかさえ不明である。
それでも、あのKのことだ。
たとえ未完成だったとしても関係ない。万人の目を惹く文章力に、流麗なストーリーテリング、読んだ者の心を狙いすまして必ず打ち抜いてみせる、そんなエンタメ性溢れる物語を紡いできた天才作家たるKが、だ。
私が焦がれるような憧憬と嫉妬を抱き、どうにかその背中に手を伸ばし続け、人生全てを懸けたにも関わらず、最後まで隣に並ぶことが出来なかったあのKが、だ。
彼に出来なかったことに、私が挑む。
その意味を考えると腹の底から震えが湧き上がってくる。
負けたくないと思う。同時に、勝てるわけがないと思う。
だけど私が、やらなければならない。
あいつを納得させる物語を紡ぐ。
今度こそ、衝撃的で、リアリティがあって、興味を惹かれる、本当に凄まじい作品を生み出してやるのだ。手段なんて選ばない。例えどんなに歪で悪辣で品性を疑われるものだって、必要ならば躊躇せず為そう。
業火の中へと我が身を焚べてやる。
この地獄が用意された物語であるならば。
それすらを燃やし尽くす苛烈な地獄を作り上げる。
そうでもしないと、およそ似合わない死を迎えたKの弔いにならない。
ただし、Kと同じことをしても、私は絶対敵わない。当然だ。Kは天才。万人を魅了する王道を魅せ続けた強者。人の気持ちを動かすプロフェッショナル。
ならば、どうする。
私には幾つかの奇策があった。
弱者には弱者なりの戦い方というものがある。
同じやり方では敵わないのなら、彼なら決して選ばないアイデアで挑めば良い。
それにしても、いつまでも仮題のままでは格好がつかない。私はこの物語にどのようなタイトルを付けるべきだろう。端的に「ホラー小説のプロット案」ではちょっと弱い。もうすこしパンチがあって、目を引くものはないか。
そうだ。
私が「顔の怪異」に呪物を作らされていると確信したきっかけ、編集へのメール。その表題から「Re:Re:Re:Re:ホラー小説のプロット案」なんてのはどうだろう。
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