担当編集からの電話
「あの――Rintoさん、ご存知ですか」
その頃になると、私は夜眠ろうとすると必ず「顔の幻覚」の悪夢にうなされるようになっていた。睡眠不足を誤魔化すには気休めにしかならない浅いうたた寝を妨げたのは、それはそれは珍しいことに担当編集の佐藤氏からの電話だった。
どこか焦ったその口ぶり。重版なんかの良い知らせではなさそうだ。
「……K先生が、亡くなりました」
その言葉に、私は絶句した。
――Kが? 何度殺しても死ななそうな、あの本物の天才が?
頭の中がちりちりと痛んだ。酷い風邪の時のような悪寒に襲われる。
また悪夢でも見ているんだと思って、内腿のあたりを指先で強くつまむ。
痛い。醒めない。さらに力を強める。痛さの中で懇願する。どうか覚めて。悪夢であって、と。しかし、どれだけ力を込めようとこの悪夢から目覚めることが出来ない。
耐えられなくなって指を離すと、内股には赤黒い痣ができていた。
「もしもし? 大丈夫ですか?」
「あ、すっ、すいません…………どっ、……どうして?」
「まだ警察の方が現場検証中で、なんともいえませんが。部屋の状況を見るに、急性アルコール中毒か、酩酊して吐瀉物で窒息したのか。……あの、Rintoさん一昨日K先生と飲んでいたそうですね? 何か様子が変だとか、なかったですか?」
「そ、それは……その、」
「それと、Rintoさん宛らしいメモが残っていたんですが、『やっぱりこれは本物だ。俺は酒を飲む強制に抗えない』と書かれていて――この意味、わかります?」
携帯端末を持つだけのことが難しいくらい、手が震えた。
私のすぐ背後で、腐肉のような顔がほくそ笑んでいる気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます