担当編集とのオンライン打ち合わせ
[2022.11.2ミーティング(参加者:Rinto・佐藤) 文字起こしアプリより抜粋]
(省略)
――正直なところ、そういうわけなんです。
…………。
――それで、……あの、Rintoさん?
……っ、ああ。はい。
――大丈夫です? 聞こえてました?
はい、すみません。大丈夫です。ちょっと、目が、疲れているようで。
――ええとですね……まあこんな短時間で代案を出してくれたのは本当にありがたいことですけど? ただ、やっぱりアイデアとしてはちょっと、なんというか、僕たちが求めてる「凄まじい作品」とは、程遠いかなあ、というところが正直なところです。
……衝撃的で、リアリティがあって、興味が惹かれるものではない、と。
――そう。根本を支えるアイデアですね。そこさえしっかりしてくれればいいんです。それさえ出来たら、後の組み立てはRintoさんけっこうお得意でしょ。今は苦しいと思いますがね、僕たちも次こそはヒット作を出してもらいうためにもね。
あの、佐藤さん。いいですか。ひとつ。
――はい? なんでしょう。
だったらどうして、急に駄目になったんですか。『日常生活に溶け込む「顔」の怪異』の話は。佐藤さんだって最初はすごい乗り気だったじゃないですか。
――それは……すみません。力不足で。
いえ、謝ってもらいたいんじゃなくて。佐藤さんだって、あれなら「凄まじい作品」が出来そうだと思ったからGOサイン出したんでしょう。駄目になった理由を知りたいんです。なんか、それが引っ掛かってモヤモヤしてて。
――まあその、……上長、というか。編集長の判断で。扱うな、と。
編集長がですか? どうして? 何か内容に問題があるとでも? 実際の記事を扱うから駄目だというなら、問題のないように書きます。その事件に関わったであろう人たちの感情にもきちんと配慮します。それでも駄目なのですか?
――いや。ええと、そこじゃなくて、問題は。
それじゃ、何が問題視されたのですか。
――(溜め息の音)……Rintoさん、これ、オフレコにできますか?
はい。もちろん。
――くれぐれもお願いしますね。
はい。他言無用で。
――僕も、……初めて聞いたんですけど。うちの会社には、各レーベルの編集長クラスには必ず共有されてる、扱ってはいけない話というか、禁忌とされるテーマやエピソードの一覧というか、そういうリストみたいのがあるらしくて。
えっ? えっ、扱ってはいけない話?
――ええ、「禁忌題目」と言われてて、それをチェックされるんです。
ちょ、飲み込めな……え、それは、「放送禁止用語」みたいな?
――公序良俗に反する単語を使わないのとはちょっと趣が違いますか、まあイメージとしてはそれでも結構です。作家さんがその「禁忌題目」に引っかかる箇所を書いた場合は校正段階で必ずそれとなく直してもらいますし、もちろんそれに引っかかるお話なんかを書こうとしたら企画段階で絶対ボツになります。
な、は、え、なんなんですそれ。ど、どうしてそんなものが?
――まあ……ある種の自主規制といいますか。そういう感じらしいです。
そ、そういう感じって、そんな……。その「禁忌題目」みたいなものに、『日常生活に溶け込む「顔」の怪異』の話が引っかかったってことなんですか?
――ええ、聞く耳も持たれなかったですよ。本当に。
えっと、佐藤さん。
――ええ、なんでしょう。
その、…………私のことからかってるわけじゃ、ないですよね?
――ほら、そういう反応になるでしょ。
……だって、……変じゃないですか。
――僕だって意味分からないですよ。……ただ、うちもホラ、業界じゃ歴史がある方でしょ? 戦後から積もり積もった諸先輩方の経験則が、次第に破ってはならない禁則事項へと進化していっちゃうことも、……なくはない、とは思うんですよ。
そんなふわっとした慣習で、私がやっと見つけた唯一の突破口が潰されたと?
――まあ、ええ……そう、そういうことに。
……ずるくないですか、そんなの。「凄い作品を生み出したいなら手段を選ぶな」って事あるごとに私に言ってたの、佐藤さんじゃないですか。
――(咳払いの音)……ええ。
佐藤さん、あれならいけるって、面白くなるかもって、そう思ったんですよね。だったら、どうかもう一度、編集長に掛け合ってもらえませんか。
――あのですね、Rintoさん……。
逆に言えばチャンスじゃないですか。禁じられてたっていうなら、誰の手垢もついていないってことでしょう? それならどうか私に書かせてください。私、絶対に凄いものを書き上げますから。
――僕も、所詮はただのサラリーマンですから。期待しないでください。
ちょっと! 佐藤さん!
――また、面白いアイデアが浮かんだら連絡してくださいね。失礼します。
(通信終了)
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