正しさがたとえきみを傷つけても
夏眠
Prologue
海は好きだ。なんてたってころころと表現を変えるから。。
自然は、私たちの心に寄り添うように泣いたり笑ったりしてくれる。凪の、どこまでも澄んだ爽やかな碧のときも、荒れた空の下で雨や風に打たれて、どす黒く染まっているときもあるそれに比べて人工物は無機質で不愛想だ。その人工物の中でも特段趣味の悪い――――田舎町でよく見掛ける、虹色に輝く電飾をまとったラブホテル。私はそこで、一人支配人として働いている。
このホテルには、一般的なラブホテルとは違うところがある。
まずラウンジが存在する。ラブホテルらしいラグジュアリーなものではなく、古びた小説や、ボードゲームが置いてある。ひどく簡素なものだ。大衆的でどこか懐かしい。このような施設を使用する人間のなかには人に見られたくないと思っている人間も存在する。そのため、このブースは一定数の客に眉を顰められる。
また、ルームサービスの食事メニューほかに小さなレストランがあり、豚の生姜焼きやハンバーグ、サバの味噌煮などの家庭的な料理を食べることができる。また、予約制ではあるが、フレンチのコースを食べることもできる。こぢんまりとしたレストランはところどころ年季の入りを感じられるが、窓からは海が見え、なかなか穴場であるように感じられる。寝台列車の食堂車のようだとある客が言っていた。
極めつけに、ここには連泊料金が存在する。一週間、一か月と泊まると、かなりリーズナブルな値段となる。一部屋を二人で割るとすると、都内のちょっとしたワンルームより安くなるくらいに。
少なくとも、首都圏のビジネスホテルよりかは逃避行にうってつけの場所なのだ。
正しさがたとえきみを傷つけても 夏眠 @sakura_nemuri
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