揺れる髭

 にゃあ。


 どうやら彼は自慢の髭をカイゼル髭の様に曲げて揺らしながら、出店の店主と何か会話しているらしい。


 店主の声からするとどうやら老齢の女性であるらしいが、どういったお方なのかは私がいるところからでは見えず、もう少し近づかなければ分からない。


「おや黒すけ、今日は一体どうしたんだい。」


 彼は黒すけと呼ばれているらしい。いや恐らくきっと黒すけという名前すら幾つもある名前の内の一つかもしれないが。


「黒すけ、おまえ口元が汚れているじゃないか。だれかに御馳走になったのかい?それとも・・・。」


 にゃあ。


 彼はようやく追いついた私の方にゆっくりと振り返り、こいつだとも言いたいように鼻の先を少し上げる。


「ああ、貴方が黒すけにご馳走してくれたのね?ありがとうね。」


 店主は私を見るとすぐに、とても丁寧に腰を折りながら私に感謝の念を述べる。


「いえいえ、私は大したことはしてないので、お構いなく。」


「でも黒すけもごちそうしてもらったことですし・・・。」


 にゃあ。


 彼は店主に自慢の髭を揺らし、何かを伝えたい様ににゃあっと鳴いた。

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