足元の黒猫が欲しい物

 あの人の影を追うために今日の夏祭りに来たというのに、その影すら悲しませるような事をしてしまって本懐を遂げる前に挫折しかけているではないか。


 もしあの人が本当に目の前に現れたら、一体どんな顔をして挨拶をすればよいのだろうか。


 どんな顔をしてもこんな事の後では、自らの不甲斐なさに一口も言葉を出すことも出来ないだろう。


 にゃあ。


 私が自らの愚行を天へ懺悔していると足元から声がする。


 ぞりぞりと硬くしなやかな毛並みを伴った何かが、私のスカートから少しはみ出た脛の部分へすり寄ってアピールする。


 鳥肌の立つような嫌悪感を伴う感覚が電気信号となって脊髄を通り脳に辿り着く間も無く、その足元のそれはさらに私の脚に尻尾を巻き付けて親愛の証を示す。


 きゃあと素っ頓狂な声を出して周囲から変な目で見られる私。


 顔を赤くしながら幽霊でも見るように慎重に足元を見ると、私の視線に気づいたその猫が暗闇にひと際光るベテルギウスの様な目で私に何かを訴えようと見返してくる。


 にゃあ。


 もしかして、ソーセージほしいの?


 にゃあ。

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