大人の余裕

 さて、眼下のクソガキ共の度重なる可愛らしいセクハラを大人の余裕で往なし続けて早5分が経つ。


 独逸屋の店員さんの奮闘もあるのだろうか、私も遂に注文まであと10人程度の所まで漕ぎつける事が出来た。


 目の前の彼らは自らの財布の中を弄りまさぐりながら、何を買おう、お小遣いは足りるだろうか云々と作戦会議をしている中、私も同様に長財布を開き中の千円札と万札をピンッと音が鳴る様に弾きながら確認する。


 ひいふうみい、私が見せつけるように、そして少しばかりにやけた顔つきで財布のお札を数える度に私を散々痛めつけていた彼らが生唾を飲む。


 それはそうだ。これだけのお金があればこの祭りの間、何不自由なく自らの欲望の赴くままにこの祭りの中の酒池肉林を豪遊できるのだから。


 さて、目の前の彼らが注文をする番が来た。


 どうやらそれほどお小遣いを貰っていないらしく、ひとりフランクフルトソーセージ一本ずつを注文するのが限度のようだった。


 彼らからの注文を受けた店員さんは賞賛したいほどの素晴らしい手つきで、素早くフランクフルトソーセージを仕上げ包み紙に丁寧に収めた。


 彼らは店員からそれぞれ1本づつフランクフルトソーセージを受け取り、可愛らしくホクホクとした顔つきですぐさまかぶりつく。


 フランクフルトソーセージから弾け散る肉汁に口元や服を汚しつつ、大事そうにかつ懸命に食らいつく。


 私はその光景に満足感に似た、何処かホッとした感覚を覚えた。


 幾ら口ではセクハラまがいの言葉を繰り返そうが、彼らはやはり可愛らしい子供でこうやって目の前に御馳走があればその年相応の顔をするのだ。


 彼らの心癒される様を観察しているとすぐに私が注文をする番が来て、店員さんが私に何にしますかと鉄板の熱で火照った顔で話しかけてくる。


 私はもう一度彼らの方をチラリと覗き見て店員さんへ注文を告げる。


 すいません、フランクフルトソーセージを2、いや3本お願いします。

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