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今年のお盆はどうするのだろう。
じいちゃんの新盆なのかと思ったら、まだ四十九日が明けてないから、それは来年になるらしい。母さんがそう教えてくれた。「別になにもしないけど」という言葉といっしょに。
おれが覚えているかぎり、何もしないお盆は初めてだ。じいちゃん家には仏間と仏壇があった(田舎だったからどこの家にもあるのがふつうだった)。毎年お盆には祭壇を作って飾りつけをするし、迎え火と送り火も焚いていた。この辺はじいちゃん家があったところに比べればだいぶ都会に近いけど、やっぱりお盆っぽいことをする人はけっこういるみたいで、十三日の夕方には線香の匂いがした。
でも、うちでは何もやらなかった。母さんの家には仏壇がない。そして、お盆のしたくは何もしない。母さんは「うちはいいの」とそっけなく言う。むしろそういうことをやりたくなさそうな感じでさえある。
じゃあじいちゃんや、ろくに覚えてもいないけどやっぱり亡くなっている父さんは、この家には帰ってこないんだろうか――なんてことを考える。さびしいけれど、まぁ、そういうものなのかなとも思う。
「父さんのお墓とか行かないの?」
母さんに聞いてみると、「お墓はないよ」と言われた。納骨堂に納められているらしい。そういうところってお参りはしないんだろうか? ていうか、よく考えたら自分の父親が眠っているっていうのに、これまで一度もその納骨堂というところに行ったことがないのだ。なんだかさびしい気がする。
「そうか、おじいちゃん家のお墓にはお参りしないとね」
おれの表情を見て察したのだろう、母さんがそう言った。
二階にいる「お化け」は、この時期、どこかに帰ったりはしないんだろうか。
そんなことを考えながら、その夜、おれは廊下から二階を見上げた。気にしないようにとは言われているけれど、やっぱりどうしたって気になってしまう。母さんだっておれにはああ言うけれど、自分はじっと二階を見上げているときがある。
以前貼った養生テープはそのままだ。緑の半透明のテープがベタベタ貼られているところは見た感じ明らかにおかしいんだけど、でも母さんは一切はがそうとしない。おれもその気はない。はがした途端にまた何かが二階から下りてきそうで怖い。
(何しろ母さんはお札って言ってたし)
実際本当にこのテープのおかげかはわからないけど、あの日以降何かが二階から下りてくることはなくなったわけだし、タイミング的には合っている。効果があるのだと思いたい。母さんは応急処置だと言ってたけど……。
(大丈夫なのかな。応急処置のままで)
母さんは何も言わないけど、おれに教えてくれないだけで、何か対策があるんだろうか。
そんなことを考えながら階段の下に立っていると、上の方で何かがきらっと光ったような気がした。
コン、と固い音が聞こえた。
コン、コン、コンと音をたてて、二階から何かが落ちてくる。おれの目線の高さまできて、ようやくそれが何かわかった。
ビー玉だ。
それは見る間に階段を下まで落ち、おれの足元にコロコロと転がってきた。おれはあわてて飛びのいた。
ビー玉は廊下の電灯を反射し、コロンと床板の上に転がっている。どう見ても実体がある。本物の、そしてごく当たり前のビー玉にしか見えない。ラムネ瓶から取り出したみたいな、本当にふつうの、うす青い色のビー玉だ。
そのとき、上の方から呼ばれたような気がした。おれははっと顔を上げた。
「とってぇ」
二階の暗がりの中から、子どもの声が聞こえた。
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