20
うちの玄関から、スーツを着た男の人が出てくるのが見えた。
おれの口からうっかり「でっか」という声が出て、あわてて飲み込んだ。それくらい大柄な人だ。縦にも横にも大きいので、黒っぽい壁がぬっと立っているようにも見える。すぐに家の方を向いてしまったけど、一瞬見えた顔はかなりの強面だった。
知らない人だ。たぶん、あんなインパクトのある人を全然覚えてないってことはないと思う。たぶん母さんは、あの人が訪ねてくるからおれにお使いを頼んだんだろう。でも何者だ? 何をしにうちに来たんだろう?
門の外でこっそり見ていると、その男の人は家の中に向かっておじぎをした。それからこっちに向きなおった。
やっぱり、改めて見てもかなりの強面だ。じいちゃんが観てたヤクザものの映画に出てきそうだな――などとこっそり考えていたら、その人の右側からヒョイッと小さな人影が出てきた。大柄な男性の影にかくれていたのと、おれが強面っぷりに気を取られていたので、全然気づかなかったのだ。
女の子だった。おれと同い年か、一個下くらいだろうか。肩くらいの髪の小柄な子だ。
強面の人が、おれを見つけて「おっ」という顔をした。おれは「たった今帰ってきた」という体で、「こんにちは」とあいさつをした。強面の人は思った以上に優しそうな声で「こんにちは」と返してくれた。
「こんにちは」
女の子も小さな声でそう言って、ぺこっと頭を下げた。右手に白杖を持ち、左手で強面の人の手首あたりをつかんでいる。おじぎの方向もおれからちょっとずれていたし、どうやら目が不自由みたいだ。
いやでも、どんな用事でうちに来た二人なのか、全然さっぱりわからない。女の子の方はかなりかわいいけど、なんだか具合が悪そうに見える。
おれはよくわからない二人とすれ違い、家の中に入った。玄関には母さんが立っていた。
「おかえり。入れ違いになったね」
そう言った母さんは、緑色のガムテープみたいなものを持っていた。
「ただいま。あの……なに? 今の人たち。知り合い?」
「知り合いの知り合い」
そう言うと母さんはくるりときびすを返し、家の中の方に歩いていった。部屋にもどるのかと思ったら、階段の下で立ち止まる。何をするのかと見ていると、手に持っていた緑色のテープをビーッと伸ばして、なぜか階段の下に貼り始めた。
「母さん……何やってんの?」
「いいの。気にしないで」
どうがんばっても気になるんだけど……おれのことは気にせず、母さんはどんどんテープを貼っていく。
あれ、ガムテープじゃなくて養生テープというやつだろうか? それもふつうのものじゃなく、側面が真っ黒にぬられている。
やっぱり全然わからない。どうしてそんなものを貼るんだ?
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