第15話 村沢の意地

 村沢はベビードラゴンの方へと一目散に駆け出した。ベビードラゴンは大人の人間ほどの大きさで、村沢と比べても、大して変わりはない。ベビーが口を開くと、炎に包まれた玉が飛んできた。俺は後ろから声を掛ける。


「避けろよ」


 村沢は走りながら剣で炎の玉を弾くと、野球の玉のように打ち返した。明後日の方向に飛ばされ、俺はそれを眺めていた。綺麗に打ち返したな、という感想を抱き、村沢のほうに目をやる。


 村沢はベビードラゴンの目の前までやってくると、手に持っていた剣を振るう。村沢の一方的な攻撃が加えられ、ベビードラゴンは倒された。俺は後ろで見守っていて、こいつはダンジョンの探索に向いているのではないかと思った。


 村沢は後ろを振り返り、見たか、という顔をした。


「やるやん」

「俺だってやればできるのよ」

「まあ、弱いボスだけどな」

「っけ」


 村沢は機嫌を悪くして俺の前にやってきた。


「帰還するアイテムよこせよ」

「もう帰るのか?」

「お前を抜かしたらつまらなくなるからな」

「言うね」


 俺はそう言って笑う。アイテムボックスから帰還できるアイテムを2つ取り出すと、1つを村沢に差し出した。けれども村沢は受け取らずにいた。


「あのさ、俺って探索者向いてるか?」

「かもな」

「どんなところが?」

「配信者になったら、見る人多くなるかもな」

「まじかよ」

「だってお前、話すの上手いやん」


 俺は素直に村沢の優れているところを褒めた。村沢は鼻で笑った。


「俺よりうめえやつなんていっぱいいるだろ」

「たしかに」

「だろ」


 村沢は先に帰還すると、俺も後を追った。戻ってくると、ダンジョンの前に人だかりができていた。誰かが俺の名前を呼ぶと、一斉に俺の方を向いたのだ。俺はサイン攻めに合い、初めてのサインだったので丁寧にシャツの上からサインを書いた。サインを一通り終えると、村沢を探したが彼はどこにもいなかった。


 スマートフォンを開いて電話をすると、村沢は出なかったのだ。仕方なくメールをするが、すでに彼からメールが届いていたのだ。


「今に見てろよ」


 村沢からそんなメールが届いていた。


「何が今に見てろだよ」


 俺は一人事を呟く。なんか気分が良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る