第14話 強気になる村沢

 ダンジョンの前にやってきた。通行証を手にすると、村沢が不安そうな顔を向けてきた。


「これ、持ってねえのか?」

「お前、俺が忘れると思ったか?」


 村沢はリュックサックを下ろし、中を探し始めた。中身を覗きみる。


「なさそうだな」

「あるよ」


 村沢は言葉尻を尖らせる。リュックサックをひっくり返すと中身が床に散らばった。俺はその中から通行証を拾い上げた。


「あったぞ」

「俺のだから」


 村沢は俺の手から通行証を奪うと、門番の男に提示した。俺は呆れ顔で、その様子を見守っていた。

 村沢が脇にそれると、俺は門番に通行証を手渡した。男は俺の顔を一瞥すると、フンと鼻息を鳴らして俺に通行証を返したのだ。不快な気持ちを抑え込み、俺はダンジョンの中に入っていった。洞窟の中にやってくると、すぐに村沢が着いてきたのだ。


 洞窟の奥からスルスルっと地面が擦れる音が聞こえてきた。一層のモンスターはスライムだが、簡単に倒せるものだった。村沢を見る。


「ほら、先に行けよ。最強なんだろ?」

「今日はレベリングをするんじゃねえのか?」


 村沢はじっと俺の顔を睨みつける。


「帰るか」


 村沢はそう言って、踵を返すが、俺はこいつのリュックサックを軽く引っ張った。村沢は地面にひっくり返り、仰向けになった。俺の顔を見上げるが、視線を横にそらす。


「つ、強えな」


 村沢の額から汗が流れる。俺は彼の手を取って立ち上がらせた。


「いいから、レベル上げするぞ」

「あ、ああ」


 村沢は袋のファスナーを引っ張ると、金属バットをあらわにした。村沢はそれを両手で持ち、俺の後ろに着いた。


「スライムってそんなに強くねえぞ」

「な、そんなこと知ってるわ」


 村沢の足が震えていた。俺はアイテムボックスの中から剣を取り出した。それを村沢に見せる。


「この剣使えよ」

「強い剣なのか?」

「そこそこ」

「どうせなら、最強の剣を貸せよ」

「いやいや」


 俺は笑って否定をする。


「俺の使っている剣は貸せねえから」

「強い剣あるだろ?」

「だからこれだよ」


 村沢は俺の持っている剣を見下ろす。


「どう見ても弱そうなんだが」

「精錬値が99まで鍛えているやつだから」

「そうなのか?」

「軽いし、ステータスが高くなくても使えるからよ」


 俺は村沢に剣を手渡した。彼は剣を振るう。強気になったのか、村沢は奥に駆け出していった。俺も付いていくと、村沢はスライムを叩き倒しているところだった。


「こりゃあ、簡単だな。ダンジョンなんて楽勝だわ」


 村沢はそう言って次のスライムへと走り出した。村沢は次々とスライムを倒していった。俺は後ろで見守っていたのだが、村沢は不服そうな顔を向けてきた。


「全然レベル上がらなくなったぞ」

「そりゃあ、スライムだからな」

「ボスを倒そうぜ」


 ボスか。


「わかった」


 村沢の側によるとアイテムボックスから魔法書を取り出した。


「ボスのところに飛ぶけどいいか?」

「早くしろよ」


 俺は魔法書を使用した。次の瞬間。暗雲の下に立っていた。沼がところどころにあり、村沢もいた。彼は強気になっているためか、前方にいる黒色のマントを羽織った骸骨頭のボスに突っ込んでいくのだ。死神の形をしたボスは口を動かして何かを喋っていた。


 俺は慌てて村沢を追い抜かし、ボスの前にやってくると、剣を抜いて四肢を斬り捨てた。ボスは地面に倒れ込み、俺は村沢の方を向いてボスを指差す。

 村沢が走ってきた。


「お前、ボス倒しちまったじゃねえか」

「叩いて」

「これをか?」


 村沢はボスを見下ろした。


「や、やめろ」


 ボスの命ごいを聞くが、村沢は気にしている様子はなかった。


「や、やめてくれ」


 村沢は剣を振り下ろし、死神の顔面を叩き続けた。ボスを倒すと、村沢は大声をあげて喜んだのだ。


「一気にレベルが上がったぞ」

「まあそうだろうな」

「次、次のボス行くぞ」

「まあいいけど」


 村沢と一緒に次のボスの部屋まで飛んだ。周りの景色を見て弱いボスだと判断した。そのことを村沢に告げる。


「こいつは経験値そんなに入らねえわ」

「そうか」


 村沢は何やら考え込んだ。


「一人でやるわ」

「死ぬかもしれねえんだぞ」

「お前は何回も死線を越えてきたんだろ。俺にだって可能性はある」


 村沢はそう言って、ベビードラゴンの下へと駆け出していった。

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