第12話 西園寺の電話番号
村沢はマンションから出ていき、しばらくしてスマートフォンが鳴ったのだ。番組プロデューサーからの電話だった。
「新川さんに色々な方がお会いしたいと、私のほうに連絡が来ていまして、新川さんがよければ料理店でどうですか?」
「そういう話があるんですか」
「新川さんの都合に合わせられるので、いかがでしょうか?」
「正直に言えば、あまりそういう話は好きではないですね」
「そうですか、残念です。でもいろいろなコネクションを築くのも悪くないですよ」
「コネクションですか」
「新川さんがその気になったらお知らせください」
「あ、西園寺夏愛さんの連絡先って教えてもらえるんですか?」
「それは彼女に聞いてみないとわかりません」
「難しいですよね」
俺は苦笑するが、電話口は静かなものだった。電話が終わると、俺は家でゴロゴロとしていた。スマートフォンで動画サイトを開くが、俺が倒したエンシェントドラゴンと時空の魔法使いの解説動画が流れていた。どんなもんか、と再生してみたら、俺の動画を参考にした解説に過ぎなかった。しばらくして、スマートフォンにメールが届いたのだ。
「西園寺さんのほうは連絡先を交換してもいいとのことだったので、新川さんの連絡先を知らせておきましたが、よろしかったでしょうか」
余計なお世話だと思ったが、番組プロデューサーは良きと思って行動しているのだろう。
「次にあったときで良かったのですが、ありがとうございます」
俺はそれだけ文字を打ち込むと送信した。西園寺から電話が掛かってくるのか、とスマートフォンを眺めていたが、彼女は俺に興味がないのか、着信が届く気配はなかった。
ベッドに横になって先ほどの解説動画を観ながら、うとうととしていたらピコンと着信が届いた。電話番号があり、挨拶文が書かれていたのだ。
「西園寺夏愛と申します。こちらの電話番号は新川哲也さんのものであっているでしょうか?」
俺は瞬きをしてスマートフォンの画面を見た。まさか、西園寺からメールが届くとは思わなかったが、すぐに俺と交流を持つために営業みたいなもんだと自分に言い聞かせた。
「こんにちは、電話番号合っていますよ」
メールを送ったが、これで終わりだろうとは思った。
「よければ一緒にご飯でもどうですか?」
「誰かと一緒ですよね?」
「工藤さんと一緒になります。この前の収録のときにプロデューサーをしていた方です」
なるほど。番組プロデューサーが伝手として西園寺を使っているのだろう。
「それなら止めておきます」
俺がメールを送ると、彼女はメールを返しては来なくなった。動画を見終えると、電話が掛かってきていた。
「あの、新川さんですか」
西園寺の声が電話口から聞こえ、少し緊張した。
「そうですが、ご飯ならまた今度行きましょう」
「二人なら行きますか?」
声のトーンは静かだったが、妙な感じを覚える。
「二人で行ったら変な噂が流れるじゃないですか」
俺はそう言って笑う。
「そう、そうですよね」
西園寺はそう言って、すみませんと言って電話を切った。
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