第11話 電話番号

 気付いたら俺はベッドに横になっていた。スマートフォンが点滅していて、よく見ると村沢からだった。


「なんだよ」


 俺は眠気があり不機嫌に答えるが、村沢の声は元気なものだった。


「西園寺さんの電話番号を知っているんだろ?」

「知らんが」

「だっておまえ、魔王様なんだって言ってたじゃねえか。それに新聞見たぜ」

「ありがとう」


 眠気を抑えながら答える。


「西園寺さんと収録したんなら電話番号知っとるよな」

「だから知らんって」

「教えてくれるまで切らんからな」


 俺の方から切れば話は早いのだが、村沢はしつこく電話をしてきそうだった。


「だって知るチャンスじゃねえか。西園寺さんはおまえに憧れてるんだろ。なら知れるじゃねえか」

「もう、しつけえな。切るぞ」

「切るなよ」


 俺はスマートフォンを眺め、再度耳に当てた。


「ならよ。俺も手伝うから西園寺さんから電話番号手に入れろよ」

「言っとくがな。あの人は俺にいい気持ちしてないぞ」

「な、訳ねえだろ」


 村沢は俺の住んでいるマンションまで来ると言うのだ。俺が了承すると、電話はすぐに切れた。インターフォンはすぐに鳴った。村沢の顔が画面に映っていた。どうやら村沢はすぐ近くにいたようだ。俺はオートロックを解除すると、少しして玄関の扉が叩かれた。扉を開けると、村沢が勢い良く部屋に入ってきたのだ。


 こいつは俺の顔をじろじろと見る。


「新聞の話、本当なんか?」

「書かれている通りだよ」


 誇張も偽りもなく、俺の発言のみを書いてくれた。新聞記者はそんなに悪い人ではなかったと思う。

 部屋の中を一通り眺めると、不思議そうな顔を浮かべたのだ。


「ダンジョンで稼いでるのに、質素な生活しててつまらなくならんの?」

「別に、オートロックがあればいいかなと」

「言う事が違うね」


 嫌味なことを言われ、俺は黙り込む。


「動画サイトのアカウントを貸せよ。俺が人気者にさせてやるからよ」

「人気者って、再生数。これ」


 俺は村沢に動画の再生数を見せつける。村沢は顔を背け、手を振った。


「そういうのはいいから」

「なんかめんどくせえな。アカウントは絶対に貸さねえから」


 村沢は舌打ちをすると、側にある椅子に腰掛けた。スマートフォンを操作し、笑みを浮かべた。


「西園寺さんのSNS復活されたんだけどさ。おまえ謝っておけよな」

「は? 嫌だよ」

「おまえが西園寺さんの行動を左右してるんじゃねえか」


 村沢は悪態をつくと、急に笑顔を作った。


「電話番号も入手できるよな?」

「やらんから」


 村沢は机をバンバンと赤ん坊のように叩き、俺は心底うぜえな、と思った。

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