第10話 面倒な
「カット」
番組プロデューサーの合図でカメラが止められた。西園寺は後ろを向くとぎこちない笑顔を作って頭を下げたのだ。
「ありがとう」
俺も礼を述べるが、西園寺は反応が薄かった。
「あ、いや」
彼女はそう言って足早に立ち去る。俺は彼女の背中を呆然と眺めた。番組プロデューサーがやってきて、帽子を脱いだ。短く整えられた髪があらわになる。
「よかったよ。また出演して頂けますか」
「俺は構いませんが」
俺は後日会うことを決めてダンジョンを後にすることにした。途中でスマートフォンを大事そうに持った人に写真をお願いされた。自分の写真に価値があると思えなかったが、俺は了承した。写真を撮るときぎこちない笑顔を作ったが、その人は嬉しそうに笑ってくれたのだ。
ダンジョンを後にすると、タクシーの中でスマートフォンが鳴った。村沢から電話が来ていたのだ。電話に出ると、村沢は落ち込んでいた。何かをぶつぶつ話していて、西園寺の名前がところどころで聞こえてきた。
「何を喋っているんだ?」
俺が言うと村沢は黙り込んだ。
「はあ、西園寺さんが探索者辞めるって書き込んでいるんだよ」
「たぶん、俺のせいかもしれない」
「どうした。急に」
急に電話を掛けてきたのは村沢のほうだろう。ごほんと咳払いをすると、俺は村沢に打ち明けることにした。
「魔王様って言ってただろ。あれ、俺なんだ」
「本当かよ」
「今日、西園寺と一緒に収録をしたんだが、そのときに俺がやらかしたかもしれん」
「何をしたんだ?」
「その、自分で言うのは間違いかもしれんが、実力の差を見せつけてしまったかもしれん」
「しれん、しれんってどうせ妄想だろ?」
「新聞記者が突然やってきてさ、今日の新聞に」
「俺はしらねえぞ」
村沢は怒鳴り声を挙げて電話を切った。何か申し訳ない気持ちになり、村沢に電話をかけ直すが、あいつは電話に出たりはしなかった。
村沢からメールが届くと、「裏切り者め」と恨み節が書かれていた。
俺は西園寺のSNSを調べてみた。彼女のアカウントは休止しており、誰も見れなくなっていた。しかしながら、西園寺に関連している書き込みには、西園寺に対する失望と応援の声が挙がっていた。
電話が掛かってきた。番組プロデューサーの番号だった。
「申し訳ない」
「西園寺さんの件ですか?」
「察していただけると助かります。あの収録はなかったことになります。たぶん、西園寺さんのファンが新川さんに攻撃しかねないので、新川さんにとっても無しにしたほうがいいかもしれません」
「生放送ではないんですね」
「それが幸いでした」
ほっと息を吐くと、番組プロデューサーとの会話は終わった。
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