第5話 ライバル
佐藤真人とフランス料理を食べると、駅まで彼を見送った。
「絶対に観てください」
佐藤真人はそう言うと、改札を抜けた。23時からエンシェントドラゴンを倒す生放送が動画サイトで配信される。
俺はタクシーに乗車すると、大きな公園を目指した。のんびりとしたところで、西園寺の配信を観ることにした。公園内に入っていくと、適当なベンチを探した。木製のベンチに腰掛ける。ちょうどいい時間になり、俺は動画サイトを開いた。すでに1万人以上が生放送に来場していて、リアルタイムでのコメントは滝のように上から下へと急速に流れていた。
西園寺のアップが映され、画面に向かって手を振っていた。
「こんにちは、あそうだね。こんばんはだね。皆さんこんばんは」
西園寺は笑みを浮かべていた。彼女は18でダンジョン探索を始め、今は25になるが、トップの層に恥じない実力者だった。それ以前から、ダンジョンの専門学校に通い、基礎的な力は十二分にあった。俺も同時期にダンジョンを探索し、彼女の配信を念入りに調べていた。
彼女はアイテムボックスから剣を取り出す。
「今日はエンシェントドラゴンを倒すためにダンジョンにやってきました。すでにボスの手前まできています」
背景に巨大な火山が映っていた。たしかあのマップは周りに溶岩がなだれ込み、ダメージ判定があったはずだ。
西園寺は話を続ける。
「エンシェントドラゴンは、トリプルS級のボスモンスターと言われています。討伐数は100にも満たないとありますが、先日、私が憧れている方がエンシェントドラゴンを難なく倒していました。やっぱり悔しいですよ。それだけじゃなくて、時空の魔法使いというボスと同時に倒す離れ業もありました」
西園寺は両膝に手を付いた。
「悔しいですね。でも、今日、エンシェントドラゴンと戦って、少しでも近づけたらなと思います。では行きましょうか」
西園寺の後ろ姿が映され、場面は真っ赤に染まっていく。火山のエリアに入り、禍々しい雰囲気になった。コメントの流れが一旦落ち着くと、すぐに多量の文字が流れていく。
映像には、肉が削がれ落ちて骨だけの身体をした、エンシェントドラゴン映っていた。上空から降下すると、翼をはためかせ、ゆっくりと着地した。
「さあ、行きます」
西園寺が言うと、コメントが一気に盛り上がった。そして西園寺の姿が消えると、次の瞬間にはエンシェントドラゴンの側面に回り込んでいた。カメラが追いつけないほどの速さだった。西園寺が一太刀入れると、彼女は後ろに下がった。エンシェントドラゴンの周りに黒色の障壁が立ち込めた。
あの障壁は毒霧のようにダメージを与える。予習はしてきたんだな、と俺は上から見線。再度、西園寺が突進すると、すぐに地面を蹴って飛び上がった。エンシェントドラゴンの上に乗り、一刺しを入れる。
エンシェントドラゴンは旋回すると、周囲に突風を起こした。しかしながらエンシェントドラゴンの上に乗っているため、突風の被害は及ばない。
「よく勉強してるな」
俺もコメントを打ってみた。俺の打った文字はすぐに流れ、枠から消えていった。俺は見守っていると、コメント欄に変化が現れたのだ。
「今、あの人いなかった?」
「魔王様が観てる」
「うおおおおおお、夏愛ちゃんいけえええ」
「魔王様いる。魔王様あああぁぁぁ」
コメント欄に反応が起きたのだ。
「夏愛、あの人が観てるぞ」
カメラマンと思わしき女性の大きな声が入り込んだ。西園寺はこちらをちらりと確認すると、宙返りをしてエンシェントドラゴンの頭部に一閃を与えたのだった。
エンシェントドラゴンが崩れ落ちると、西園寺は駆け足でカメラの前にやってきた。
「私、やれました。エンシェントドラゴン、倒しました」
俺はコメントをするか迷い、動画サイトを閉じた。
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