第3話 ファン1号

 テーブルの上にスマホを置いた。さきほどから通知が鳴りっぱなしなのだ。普段からSNSに触れていないため、どうやって通知を切ったらいいのか分からなかった。コメントの多さに少し恐怖心を覚え、俺はスマホを放置した。家の外に出ると、外に誰かいないか気配を探った。

 まるで芸能人になった気分だ。まあ、顔出しをしていないから付け回されることはないようだ。少し散歩をし、家に帰ってくる。恐る恐るスマホを開くと、メールが届いていた。

 動画サイトからの打診のメールだった。動画サイトを通して企業から直接メールが届いたらしい。こんなことがあるのか。俺はメールを開くと、某大企業からのメールだった。動画サイトのコメントを確認すると、すでに1万件を超えていた。スマホが鳴ると、母から電話が掛かってきた。


「スマートフォン見つかったけど、あんた警察署まで行く?」

「どこの警察署」


 母は都心のほうの警察署を指定してきた。


「そこまで行かないといけないのかよ」

「私に言われても、取ってきなさいよ」


 俺は電車で移動し、都心にある警察署に出向いた。一階のお届け物に尋ねると、女性の警察官が顔を上げた。


「スマートフォンを取りに来たんですが」

「お名前を教えてください。あと身分証も拝見いたします」

「新川哲也」


 俺はそう言って財布から免許証を取り出した。女性警察官に手渡すと、彼女は目を見開いた。


「新川さんですか」


 あの、新川さんですか、という言葉の響きがあった。


「パスコード設定ができていなかったので、中を覗かれた可能性があります。気をつけてください」

「お巡りさんは知っているのですか?」

「え、ああ、無断で写真を使用したことについて被害届を出しますか?」

「ちょっと確かめてみます」


 スマートフォンを手にして動画サイトを開く。ロベルトフォールドという無断で俺の画像をアップロードしたアカウントはすでに無くなっていた。ざまあみろとは思うが、それ以上には何もない。


「まあ、消えているので別にいいですよ」


 俺はそう言い、古い方のスマートフォンを受け取った。


「あと」


 そう言って警察官は紙切れを寄越してきた。


「よかったらこれを」


 そこには女性警察官のものと思われる電話番号が記載されていた。


「いいんですか?」

「秘密にしてください」


 彼女が後ろを向くと、後ろで待機していた男性警察官が笑顔を向けた。俺は警察署を後にすると、スマートフォンを調べてみた。もしかしたら電話番号から俺の身元を調べていたりしないだろうか。電話番号の履歴に知らない番号があった。


 電話を掛けてみると、若い男の声がした。


「あ、もしかして」


 それだけ聞こえてきた。


「誰だか知らないけど、警察署に届けてくれてありがとう」


 まだ確定はしていないが先に話を振ってみた。


「あ、ごめんなさい。俺、何もしてないので」

「本当かよ」


 俺が言うと電話口で乾いた笑い声がした。


「別に脅すつもりはないので」

「犯罪はやめようぜ。まあ、今度飯でも行こうぜ」

「ありがとうございます」


 電話口の少年か、青年らしき男はそう言うと俺は電話を切った。その次の日だった。こいつからもう一度電話が掛かってきたのだ。


「俺、会ってみたいんです」


 時間を確認すると、午後の3時だった。学生さんだろうか。社会人ではないので、不用意に警戒する必要もないだろう。もし待ち合わせに複数人で来られたら断ればいい話だ。


「東京人なので」

「別に構わないけど」


 内心喜びつつも俺はクールに気取ってみた。


 彼が待ち合わせ場所に選んだのは、新宿のアルタ前だった。アニメの帽子を被ってくるというのだが、いざ新宿に向かうと人混みがあった。人の多さは、いつも通りなのだが余計な勘繰りをしてしまう。本当に芸能人気分だな。


 アニメキャラクターのロゴが入った帽子を探すと、中学生くらいの少年が被っていたのだ。


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