第12話(オリヴェル視点)

再びディオーナから対話の申し出があった。やっと顔を合わせることが出来るとオリヴェルは前回の非礼を詫びようと考えていたが、会話がうまく成り立たないことを見越したディオーナによって、「本日のお話の内容は大きく2点です」と先に要点を提示された。1つ目のヴィクトルの婚約者候補についての話には驚いたが、国民をも納得させる相手でないとならないことはよくわかっている為早いうちから慎重に進めていくことは理解できた。そして2つ目の王太子妃公務については、エミリアも療養が多かったが所以にこなしていた訳ではなかったため今更王太子妃の公務に戻す必要性を感じなかった。ある意味王妃シルヴィアが不在になった場合を想定した人事配置であり、シルヴィアの体調が回復した今、ディオーナがいなかった頃となんら変わりなく活動できている。


「これまで王太子妃がいなくても問題なかったから、君は何もしなくて良い」


と伝えると、ディオーナの表情は曇った。


(あ、また間違えたか!?)


すぐに壁際にいたヨエルとカロラを見ると2人の目が死んでいた。


(やはり仕出かしてる!)


慌てたオリヴェルはディオーナに役割を提示しようと、ヴィクトルのことを任せると伝えた。するとディオーナは了承し席を立ち退室した。



「挽回出来たか?」


オリヴェルがヨエルに尋ねると、


「いえ、前回よりも拗れました」


と返ってきた。


「そうか…」





それからひと月後のことだった。


ヴィクトルから恋愛相談をされたのだ。


「どうした?」


「好意をお伝えするにはどうしたら良いですか?」


「好意?」


「はい」


「それはアストリッド嬢のことか?」


「はい」


「ヴィクトルの婚約者候補のことについては王太子妃に任せているが、彼女はなんと?」


「贈り物はいかがかと」


「私もそれには同意だが、そういったことは女性目線で何を貰ったら嬉しいか聞くのが良いのでは?」


「はあ。ですが、ディオーナ様が異性から贈り物など貰ったことがないからご自身の意見は参考にならないかもと、母上と学園の頃から婚約をしていた父上に聞いてみてはどうかと助言を頂いたのです」


「は?一度も贈り物を貰ったことがないと?」


「はい。前王太子から頂いたことはないと。父上からも頂いたことはないと仰っていらっしゃいましたが?」


「…確かに」


「ディオーナ様に何も贈り物をしなかったのは何故ですか?」


「…。特に意味はないが、国王陛下が彼女に打診し婚約から結婚まで時間が短かったといったところだろうか」


「なるほど、ディオーナ様と同じご意見ですね」


「同じ?」


「はい。結婚までの時間が短かったからと」


「そうか」


「それで、何か助言をいただけますか?」


「ならば、花が良いだろう。手紙で愛を囁くのも良いのだが手紙では物証として残る。王子という立場上関係が曖昧である今は花に意味を込めて贈ると良いかと思うぞ」


「花に意味を込めるですか?」


「ああ。相手の好きな花を贈るのも良いのだが、今回はヴィクトルの好意を伝えたいのだろう?花には各々花言葉がある。それならば彼女の印象に合うものであったり、愛や恋といった意味を持つ花を選ぶと良いと思うぞ」


「そうなのですね!助言ありがとうございます。ディオーナ様の仰っていた通りでした。父上は花に詳しいはずだと」


「彼女がそのように言っていたのか?」


「はい」


「そうか…。あー、その他にも何か言っていたか?」


「他ですか?そうですね…ディオーナ様は愛を諦めたと仰っていましたよ」


「は?愛を諦めた?」


それからは頭が真っ白になり覚えていない。気が付けばヴィクトルは退室しており、あの大きな溜め息に繋がるのだった。



◇◇◇


「はあぁぁぁぁ」


「だからいつも申し上げておりましたのに。努力をなさってくださいと」



『ディオーナ様は愛を諦めたと仰っていましたよ』


この言葉が頭の中をこだましていた。



「贈り物など何も思い浮かばなかったな。思えばエミリアにもこれといって贈ってはいなかった」


「エミリア様とは初めから家族同然でしたものね。愛は表現しなければ伝わりませんよ。形に残るものであろうがなかろうが。殿下は妃殿下との距離を置きすぎです。努力をなさるべきでした」


「はあ…」


「それに、パーティーの殿下のお言葉が噂で広まるかと期待しておりましたが、そうなりませんでしたね。エクストランド侯爵令嬢は言い触らさなかったということでしょうか?エクストランドの品格を落とすような言動でしたから、侯爵からお咎めを受けたかもしれませんね」


周りからディオーナにオリヴェルの愛が伝わることを期待しているとはなんとも情けない。


「彼女に愛が伝わってないのは私の所為だよ」


「ええ、その通りでございますね」


「ヨエル…」


オリヴェルはガクッと肩を落とした。


「ヴィクトル殿下に想いの伝え方を助言されたことですし、殿下もされてはいかがです?」


「…なるほど」


少し考えると、オリヴェルはヨエルに指示を出した。

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