第6話
パーティーを終え、公にも王太子妃を披露したことでディオーナの公務が始まるかと思われたが、元々王太子妃不在の状態で公務が行われていたこともありディオーナの暮らしに変化はなかった。
(私がここへ来たのも、王妃殿下の不在に備えてだったし、シルヴィア様の体調が回復されたから私がすることは特にないのね)
ディオーナが行っていることは、ヴィクトルの王子教育を見守ること、マルブロンとの医療提携の指揮と監督、王妃の社交への帯同くらいだ。
パーティーから1週間、ヴィクトルの様子が少々おかしい。少し上の空で、教育時も身が入っていないように思われた。
「ヴィクトル殿下、いかがなさいましたか?何かお悩みですか?」
その変化に気付き、ディオーナは声をかけることにした。
「ディオーナ様。…あの、実は、ある女性のことが頭から離れなくて…」
「女性ですか?というと、先日のパーティーでしょうか?」
「はい。そこでお見かけした女性が気になっているのです」
「あらまぁ」とディオーナは驚くと共にやるべきことができたと内心喜んだ。
「その女性はどちらの方かしら?」
「わかりません」
「お話をされなかったのですか?」
「はい。庭園の花を手折っていまして、理由を尋ねようと近づいたら私の顔を見て逃げてしまわれて…」
「…、それでなぜその女性が頭から離れないのです?」
「//あの、花に囲まれた彼女がとても美しかったのです。もしあの花を欲しくて折ったのであったら差し上げようかと近づいたのですが、逃げられてしまったので//」
ヴィクトルは顔を真っ赤にしている。どうやら一目惚れだったようだ。
「そうでしたの。ではどこのどなたか存じ上げないのですね?」
「はい」
「お年頃や髪の色、瞳の色など特徴はわかりますか?」
「背丈が同じくらいでしたので、歳は私と同じくらいではないかと思います。髪の色はプラチナブロンドでした。瞳は淡いブルーでした」
「承知しました。では、まずは彼女を特定しましょう」
ディオーナは自分の侍女であるカロラに招待客の中で令嬢を帯同させた者をリストアップし、さらにその絵姿を用意するよう指示した。
「ヴィクトル殿下、貴方はこれから出会う女性には慎重にならなければなりません。なぜならば貴方は王子だからです。不用意に親密になることも困難です。申し訳ありませんが、関心をお持ちになった女性の身辺調査は必須となります。ご理解くださいませ。だからといって、関心を隠すことはないのです。きちんと身上を把握した上で親密になるかどうか判断致しましょう。恋をすることは止められませんから、無理に止めることは致しませんが助言はさせていただきます。そして王子であるという自覚はお持ちになってくださいね」
「恋ですか!?」
「あら、違いましたか?とはいえ、これから徐々にではありますがヴィクトル殿下の婚約者についても考えていかなければなりません。女性に関しては慎重に参りましょう」
用意された絵姿から、ヴィクトルが見初めた女性はベンディクス侯爵家次女のアストリッド嬢であると判明した。
「家格では申し分はなさそうですね…」
ディオーナはベンディクス侯爵夫人とアストリッド嬢をお茶会に招待した。ベンディクス侯爵夫人はドレスの話をしていた中にいた夫人であったためすぐに話は盛り上がり、アストリッド嬢が花を折った本人であることも確認できた。花を折った理由は綺麗だと思って欲しくなったからだという。勝手に折ることは良くないことであるが、気に入ったのであればプレゼントしましょうと花束にして手土産に持たせることにした。カロラを通じてヴィクトルに花束を持ってくるよう指示し、2人を会わせることにも成功した。2人とも顔を真っ赤に染めており、互いに意識している様子が見受けられた。これにはベンディクス侯爵夫人も驚いており、お茶会の目的も察した様子であった。親睦を深められると嬉しいと伝え、定期的に王宮に招待することにした。
ヴィクトルのお相手についてと公務について話をしようとオリヴェルに対話の時間をとってもらうことにした。
「こちらに掛けてくれ」
この日も素っ気ないが、ディオーナはもう気にすることはなかった。
「本日のお話の内容は大きく2点です。ヴィクトル殿下の婚約者候補についてと私の王太子妃としての公務についてです」
「ヴィクトルの婚約者?」
さすがに息子の婚約の話が出るとは思わなかったのか、オリヴェルは驚いた様子を見せた。
「はい。そろそろ婚約者候補を考えましょうと王妃殿下よりお話がございました。そして先日のパーティーでヴィクトル殿下は1人の女性を見初めました。ベンディクス侯爵家次女のアストリッド嬢です。家格も申し分はないかと思いましたので、親睦を深めようと思いますがいかがでしょうか?」
「ベンディクス侯爵か。そちらならば問題はないと考えるが、アストリッド嬢の様子はどうなのだ?」
オリヴェルと普通に会話が続いていることに一瞬驚いたが質問に答えた。
「…、アストリッド嬢もヴィクトル殿下を意識なさっているように見受けられました。まだ婚約という話はしておりません。まずは歳の近い者同士として交流できればと考えます」
「なるほど、ヴィクトルは君に懐いているようだし、相談もしやすいだろう。君に任せるよ」
自分達の話ではなく第三者の話だったからだろうか。事務的とまではいかないがしっかり話すことができた。
「それと、もう一点。私の公務についてです。先日王太子妃として公に立ちましたし、私が担える公務があれば務めようと思うのです。エミリア様が亡くなられた後、エミリア様分の公務はどなたかに割り振られているのでしょうか?」
エミリアの名前が出るとオリヴェルは身を硬くした。
「…エミリアは産後から体調の波があったから公務はそれほど行っていなかったんだ。母上と私で分けあっているがそれほど大きな負担ではないし、これまで王太子妃がいなくても問題なかったから、君は何もしなくて良い」
王太子妃として嫁がせておきながら何もないためしなくて良いとは、ディオーナはオリヴェルから全く必要とされてないと感じた。
(それでは私がいる意味がないじゃないの…)
やはりディオーナの話になると突き放されているように思う。ディオーナは少し表情を曇らせた。
「あ、その、ヴィクトルの婚約者候補については母上からも話があったのならば、君が取りまとめてくれて構わない。君が来てからヴィクトルには良い影響があると聞いている、つまり、君にはヴィクトルのことを任せたい」
(つまりは、王太子妃や妻の役割はなく、母親になれということかしら?)
「承知しました。何か私が必要でしたらその時はお声かけください」
こうして、ディオーナは席を立ち退室した。
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