第6話 王子少女は恥ずかしい!
わたしたちの国、トレジャートローブ
元々は貧しい国だったが、国の一部から古代の財宝が発見された事により状況が一変
一気に金持ち国となった
…だが、財宝はいずれ尽きるもの
それを認識していた時の国王は、手に入れた金で、国内の開拓を押し進めた
結果、ほとんどの地域が発展し、財宝が尽きた今でも中堅国家であり続けており
今でも住民は皆、王の一族に感謝をしている
私が住んでいたヒルガオ村は「花」の領地にあり、農業の開拓が一番上手くいった場所だ
そこから、国王の直轄地「空」へ馬車で向かう
「空」は平地が広がっており、街を作るのに適した場所だ
馬車を乗り継いだ長い移動の果てに、私たちは「空」の城下街までたどり着く
初めての街並み、初めての人の群れ
じっくりと見て回りたいけれど、残念ながらそれは後回し
ミソラさんに、王子が普段着そうな服を買ってもらい、それに着替える
白く清潔なシャツに、黒いズボン
動きやすくありながら、ところどころに細かい装飾のある、センスの光る服装だ
ただ…ちょっとおしりがきつい……
…男物だからだよね?!
私が太ってるからじゃないよね?!
なんて心配は置いておいて…
ここまでは順調、問題はここからだ
街の中央
赤い屋根、白い壁のそびえたつお城
大きく美しい模様を描く庭園
生涯住むことなどなかったであろう場所に、私は足を踏み入れる
正門入り口の見張り兵士さんは、ミソラさんの顔パスで通った
そして、一階のやたらと広い大広間にやってくる
大きなシャンデリアが天井に飾られ、赤いじゅうたんが敷き詰められた場所
黒い服の執事さんと、三人のメイドさんが一生懸命掃除をしていた
…これだけ大きいと、掃除も大変なんだろうなぁ……
彼女らは私の顔を見ると大変に驚き、持っていた箒を放り投げて、声をかけてくる
「王子?!」
「王子殿!お戻りになられたのですか?!」
さあ、もう無言で通すことはできない
王子っぽく振舞わねば…
私はすでに『十人十耳』(グループチャット)で繋がってるミソラさんに訊ねる
(カナタ王子はここでなんて言うんですか?)
(大丈夫…私の言うとおりに喋って)
(は、はいっ)
カンニングペーパーを持ちながら試験を受けてるようなものだ
所作に関しては不安が残るけど、言葉だけなら間違えようが……
(「はーっはっはっは!」よ)
(…え)
(「愛しいお城のみんな!ボクが帰ってきたよ!」)
(うええええええええええええええええ?!)
(さあ早くっ!)
ちょ、ちょっと待って?!
何でいきなり高笑いから入るの?!
王子そういう人だったの?!
戸惑う私
しかし、間を空けてしまうとその分だけ怪しまれてしまう
半ばヤケクソ気味に、私は喋り始めた
『はーっはっはっはっは!』
『愛しいお城のみんな!ボクが帰ってきたよ!』
……
だ、誰か助けてええええええええ!
カナタ王子も、ミソラさんの事言えないくらい変人じゃないの!
「おお…王子のいつもの高笑い!」
「よくぞご無事で…」
「メイドのみんなも心配したんですよ、王子!」
『ははっ、ごめんね子猫ちゃんたち』
(その台詞の後、メイドさんの顎を指で掴んで
自分の正面に彼女の顔が来るように持ち上げて!)
(え、ええっ?!そ、そんなことを…?)
「あっ」
ミソラさんの言うとおりにしたら、メイドさんが恥ずかしげに顔をそらした
「もう…王子ったら……」
な、なにこれナニコレぇぇぇ?!
「大変!王子、顔が赤いですよ!お熱があるんじゃないですか…?」
そりゃそうだよ!何この王子様?!
私、恥ずかしくて火が出そうだよ!
(ど、どうしたの?急に体調が悪くなった?)
ミソラさんも心配になったようで、脳内会話で声をかけてくる
(ミソラさん…)
(?)
(ここまで王子様だとは聞いてませんよ!)
(え…え?)
(演劇の中だけだと思ってましたよこんな王子様!)
(いやでも、実際いるし…)
(やーだー!恥ずかしいー!)
(は、恥ずかしいかな…?)
しまった…恥の概念が人とは違うミソラさんだ…!
私の恥ずかしさを想定できていない…!
(お、落ち着いて…とりあえず王子の部屋に着くまで頑張って!)
(う、うう……)
『久しぶりに君たちに会えて、ちょっと興奮してるのかな?』
「きゃー!」
きゃーじゃない!
興奮しないで!もっと中身を見て!
キャーキャーされるような人間じゃないの!
あ、でもバレると困るんだった!
や、やめ…メイドの皆さんひっついてこないで!胸を押し当てないで!
ドキドキするから!
あっという間にいっぱいいっぱいになった私を見て、ミソラさんが助け舟を出す
「お、王子はお疲れだから、そんなにもみくちゃにしないで
ちょっと休ませてあげましょうよ…ね?」
「は、はいっ」
「…すいませんでした、王子」
『ははっ、気にすることはないよ』
謝るメイドさんにウインクをして、大広間を後にする
(王子のお部屋は、その階段を上ってすぐ右ね)
(私も後からお邪魔するから)
…まさか初手からこんな辱めを受けるとは…
恥ずかしさで真っ赤な顔を隠しながら
ミソラさんの指示に従って、王子の部屋に向かうのだった
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