第5話 王子少女と闇の軍師
「あー…困りましたね……」
私たちは中央のお城に行くために、まず街への乗合馬車が止まるヨルガオ村を目指して歩いた
ヒルガオ村からは歩いて四時間ぐらいの、ご近所村だ
しかし、野盗の人から頑張って逃げていたミソラさんは、途中で疲れ果て
ちょっと木陰で休んだとたん、全く目を覚まさなくなったのだ
「ううん…できればヨルガオ村で宿をとってから眠りたかったですけど
…しょうがないですね」
ミソラさんは、なぜか私に抱きついたまま眠ってしまった
彼女のふわふわの金髪からいい匂いがする
「まだこんな歳なのに、王子様の補佐官って…すごいなぁ」
年齢を聞いたわけではないけれど、顔立ちから十八歳以下だと思う
ユニークスキルを持っていれば、私もこんな風に頑張れるんだろうか
「むにゃ…おうじぃ……」
こんなかわいい子に懐かれるカナタ王子ってどんな人だろう
きっと、すごくいい人なんだろうな…
彼女の肌のぬくもりを感じながら、ゆっくりと時間を過ごす
まあ、いいよね…私も緊張して疲れたし……ちょっとゆっくりしても……
そうしているうちに、辺りはすっかり真っ暗になってしまった
「…はっ?!あ、あれ?あたし何してたの?」
「ぐっすり寝てましたよ」
「わー、お空にお星さまがー!」
急に幼児退行しはじめた
「ま、まあ、お疲れだったし、しょうがないですよ」
「ごめんねぇ…軍師ももっと体力を磨くべきね」
また軍師って言ってる…
「…ところで、何でその格好で軍師なんです?」
そもそも王子の補佐官と言ってたし、軍師ではないはず
なのに軍師を自称する理由とは…?
「知らないかな~?カリスマ王に仕える、有能な闇の軍師!
あたしは彼女をリスペクトしてるの!」
闇の軍師…
「……あー!」
そのキーワードと、彼女の格好…私はあるものに思い当たった
「ひょっとして、『光と闇の幻王国』(ライトアンドダークネスイリュージョンキングダム)
に出てくる、闇の王に仕える軍師?!」
『光と闇の幻王国』…名前が長すぎるので、大体『ひかやみ』って呼ばれてたりする小説
色々な王が出てくる群雄割拠なお話で、世間でかなり人気だった
私もブームに当てられて、貸本屋で全巻読んだ
「そうそう!あのみーさん!」
二巻の表紙、闇王と一緒に登場した、いかにも悪だくみが得意そうなお姉さん
腕に包帯をし、やたら布面積の少ない水着のような恰好をする彼女は、当時かなり話題になった
本名は『ヤミ』で、主人公に『みーさん』と呼ばれると怒る
「あ、読んだことある?」
「あるある!主人公がカッコよくて好き!」
選ばれし者たちのバトルものって感じで、台詞がいちいちカッコいいんだ、これが
ちょっと『…何?!』を多用しすぎなとこはあるけど
「けど、何で敵幹部のキャラの格好なんて…」
「あたし、あの闇の軍師が大好きなの!」
目がキラキラと輝きだした…
やばい…この子『ひかやみ』の熱烈ファンだ!
「闇王のために智略を尽くして戦い、けれども、それが民のためにならないとわかると
反旗を翻し、命を懸けて主人公を助け、はかなく散る…」
…確かに、そんなキャラだった
「彼女の意志を、あたしは受け継いでいるの!」
顔を上げ夜空を見つめ、頬を赤く染め自分に酔った感じで話すミソラさん
まあ、小説に影響を受けて、それを目標にするのも、悪くないとは思うけども…
「受け継ぐのは意志だけでいいんじゃないかな?!」
そのスケベ黒水着まで継承しなくても?!
「なにおう?!このスタイルあってこその『みーさん』じゃないの!」
…彼女の意思は固いようだ
憧れは止められないってやつなのかな…
「カナタ王子は、よくその格好を認めたね」
…補佐官がこれでいいのかは、気になるところ
いや、ひょっとして、王族貴族の間ではそんなでもない格好なのかも…
「『ちょっと引いたけど、それでやる気になってくれるなら』って許可してくれて」
「引かれてるんじゃん?!」
カナタ王子、器が大きいなぁ
……
「しかし…私、カナタ王子に会ったことも無いんですけど
知らない人をどう演じればいいんでしょうか…」
やっぱり何か月か使って特訓かな…?
「そこは大丈夫!あたしのユニークスキルを使うわ!」
「ユニークスキル!?」
憧れのユニークスキル!
村の人たちは、農業にちょっと便利、ってスキルが多かったけど
貴族の人たちのスキルは、きっと別物なんだろうなぁ
私はきらきらした瞳で、ミソラさんを見つめる
すると…
(…うらめしや…)
「え?な、なにこれ?!どっかからエコーのかかったような声が…?」
(我は無駄に摂取され続けた砂糖の霊…
カロリー爆弾ばかり作りおって…許せぬ……)
「いいでしょそれくらい?!私の数少ない楽しみなんだから!」
まあ、そのせいで太る→ダイエットを繰り返してるから
本当は良く無いんだけど…
「…って、ミソラさん!何ですかこれ!?」
「これがあたしのスキル…『十人十声』(グループチャット)よ!
十人までの相手と、脳内で会話ができちゃうスキルなの」
「え?という事はこれ、私にだけ聞こえてるんですか?」
「そういう事」
…よかった、他の人がいなくて…
何も聞こえてないのに、突然空中へツッコミだすとか
それこそ、何かの霊に取りつかれたのかと思われちゃうよ
「そして、つなげてる間は、そっちからも脳内で喋れるわ」
「そうなんですか?!え、えーと…」
(は、拝啓 皆様いかがお過ごしでしょうか
日差しの強い中、元気に咲く向日葵のように、ご活躍されていることと存じます)
(手紙の書きだし?!)
(だ、だってぇ、なんて言っていいのやら…)
「…と、まあ、こういう事ができる訳よ」
「…ほえー、便利なスキルですね」
上から指示を出す貴族さんには、ピッタリなユニークスキル
ユニークスキルの種類は、ある程度生まれに関係する、って学者さんの研究は本当のようだ
「このスキルで指示を出すから、あたしの言う通りに喋ってくれれば、対応に困ることはないわ」
「なるほど…!それならいけるかもですね!」
「でしょー?」
にっこり笑うミソラさん
偽物作戦、ちゃんと上手くいく計算があったんだ…
これならバレて打ち首にならなくて済むかも…!
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