第7話 王子少女は頑張りたい!
ふらふらになりながら、王子の自室に入る
部屋自体は意外とそんなに広くはなかった
使いやすさ重視なのか、どれも手の届く範囲にまとめられている
ただ…大きな机、大きな本棚、大きなベッド、大きなクローゼット…
どれも大きく、デザインからして高級品であろうことが見て取れる
ただまあ、現在の私はあまり細かいことを気にしてる余裕はなく…
「だ…だめぇ…無理……恥ずかしすぎておかしくなる……」
ベッドの上に、倒れるように寝転がった
「……」
すっごいベッドふわふわしてる……
王子様はこんなとこで眠ってるのかぁ…いいなぁ……
しばらく何もかも忘れて、枕に顔をうずめ、ただただベッドの柔らかさを堪能する
………
……
…
そうして1時間ほど経っただろうか
「おおーい…大丈夫?」
ミソラさんがやってきて、ベッドに腰掛ける
私は顔を枕にうずめたまま、そちらを見ずに答える
「無理かも…」
「そ、そんなに…?」
消え入りそうなか細い声
思わず、ベッドに腰掛ける彼女をちらりと見る
うつむいて、すごく申し訳なさそうな顔をしていた
私が、こんなに早くダウンするとは、思ってなかったのだろう
「……」
しょうがないか…
「…いちご……」
「?」
「ケーキにいちごいっぱい、乗せていい…?」
「あ、う…うん、いいわよ!たーんと乗せて!」
恥ずかしいけど、もうちょっと頑張ろう…!
「…よし!」
生クリームは最強!イチゴも最強!最強と最強で十倍最強!
糖分の神に私はなる!
自分でも謎の気合の入れ方をして、やる気を回復させる
矢でも鉄砲でももってきなさい!
そして、そのままの勢いで、王子のクローゼットをばんっ、と開く
「ミソラさん!、王子の普段の服はどれですか?!」
「あ、えっと、その右から二番目の、白を基調に、青を主調にした服よ」
…クローゼットの中に、王子様の下着とかも見えたりするんだけど、気にしない!
恥ずかしくてもやってやる!
気合を入れたまま、城の執務室に乗り込む私たち
ここに大ボスの、『雪』の領主がいる…!
心で負けないように、高笑いを上げる
『はーっはっはっはっ!』
恥ずかしいのが気にならなければ、この高笑いは気分が高揚する
負けないぞ、って意識を高めるのにはぴったりだ
王子は意外と合理的理由で、高笑ってたのかもしれないなぁ
…さて、どんな悪い奴が待ち受けているのか
そんな私たちの前に広がっていた光景は…
「あっはああああああああああん」
「うふうーーーーーーん」
『…はぁ?』
理解の難しい状況だったので、とりあえず事実だけ述べていく事にする
一応、執務室…な訳だが、誰も執務なんてやってない
高く積まれた文書が、机の上にそのまま放置されている
その机のすぐ側に、テーブルとソファーがある
テーブルにはチキンとワインが沢山置かれている
ソファーには、五人ほどがだらけた格好で座っている
黒髪赤目、中年太りした、目つきのいやらしそうなおじさんが
ワインを片手にチキンをほおばっている
どぎつい色をしたドレスを着た女性が三人ほど、同じソファに座る少年にしなだれかかっている
黒髪で美形の少年は、しなだれかかる女性たちの頭をしきりに撫でている
そして、女性たちは「あはああああああああん」だの「うっふううーん」だの叫んでいる
……いやいやいや、なにこの光景…
だらけきってる…と称するには少々変な感じだ
何でこの女性たちは変な声を上げているのだろうか
「はっ?!」
いやらしおじさんがこちらを向く
(あれが『雪』の領主、美形の子はこの領主の息子ね)
(女の人たちは…色んな貴族の四女五女だったりするわ
まあ、今、覚える必要は無いかしらね)
「ばばばばかな…貴様は王子?!ど、どうして戻って…?!」
なぜか『雪』の領主は、ものすごい慌てぶりを見せた
(…こいつ、やっぱり王子に何かやったわね!)
(やっぱり?)
(これだけ焦ってるってことは、王子の行方不明は
実権を握り続けたいこいつが仕組んだって事!)
(そんな…?!)
王族を、一領主が貶めるなんて…
(とりあえず、不敵な笑み浮かべて威圧しといて!)
(お、おっけーです!)
意味ありげに笑ってみせる
お前の企みは不発だったぞ、覚悟しろ…と言わんばかりに
全然そんな事ないんですけどね!
『…ボクのいない間、執務の方、大変ご苦労だったね』
怯える『雪』の領主に、ゆっくりと近づく
彼は腰が抜けてしまい、立つこともおぼつかない様だ
『しかし、ボクが復帰する以上、代理はもう必要ない
大人しく、荷物まとめて自分の領地に帰りたまえ』
肩を叩き、優しく微笑む
怒りを滲ませたような笑顔で
…さあ、これできっちり騙されてくれるかな…?
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