第3話 王子少女は落ち着きたい!
彼女を引っ張り、家に帰る私
すっかりしゅんとしてしまっていて、心ここにあらずな感じだ
何でこんな事になったのだろうか…
家に入る手前で、庭の手入れをしているお父さんに出くわす
黒髪青眼、ちょっと筋肉質な所以外は、普通の村人お父さんだ
「おかえりセッカ、イノシシは気にしなくていいって言ったのに
…追い回されて怪我とかしなかったか?」
「それがその…ややこしいことになってて……」
連れてきた彼女の方に目を向ける
…そういえば、まだ名前も聞いてなかったなぁ…
なんて言えばいいんだろ
そんなことを考えていたら、お父さんが意外な反応を見せた
「おや、その子は…?」
「お、おじさま?!」
「あれ?お父さんと知り合いなの?」
接点なんてなさそうな二人なのに
「十数年前、大病をわずらったこの子のために、特別な薬草が必要になってな
それがこの辺りにしか生えてなくて、村中総出で探し回ったんだ」
さっき三人ぐらいと話した時は、誰も気づかなかったような…と、思ったけど
あのスケベっ子は生まれる前だったし、あの奥さんはよそからお嫁にやってきた人だし
もう一人の青年さんは…思い出しそうだったっけ
「お前は小さかったし、覚えてないと思うが」
なんか、夜中にみんなが騒がしかった日があったような気がするけど…
その時の私は小さくて、すぐに眠ってしまっていたのだと思う
「そっか…ここはあの時の…
夢中で逃げ回ってるうちに、ここにたどり着いていたのね」
胸に手を当て、遠い昔を懐かしむように、目をつむる
彼女にとっては、思い出深い出来事だったようだ
「あの時は本当に、お世話になりました」
「いつの間にかこんな大きくなったんだな」
その金色の頭を撫でるお父さん
くすぐったいような表情を見せる彼女
予想外の出来事だけど、ちょっと落ち着いたようでよかった
「あたしは『花』の領主の娘、ミソラと言います
ちょっと情けないとこ見せちゃったけど…よろしくねセッカちゃん」
この国では、地域ごとに『花』とか『雪』とかの一文字の名前がつけられており
そこを治める領主も、それを名乗る
そして、私たちの住んでいるところは『花』の地域
…私たちが納税してる相手じゃないの!
「…いやしかし、ちょっとその格好はどうなんだ…?お腹こわすぞ」
腕に包帯…はともかくとして
色んな所から肌が見える、黒水着ファッションに、お父さんも思うところがあるらしい
…そりゃそうだよね
誰だってそう思う、私もそう思う
「こ、これは軍師のたしなみなの!」
「軍師?」
「あたし、今は『花』を離れて、王子の下で補佐官をやってるの!すなわち軍師ね!」
軍師って、そんないやらしい恰好するものだっけ…?
「…まあ、とりあえずそこに座れ
高級品じゃあないが、淹れたてのお茶を用意するよ」
お父さんが、よそから来たおじいさんと、庭でチェスをするときに使うテーブルと椅子
そこに座ることを促される
確かに日差しも暖かいし、庭でお茶会もいいよね
「じゃあ、ついでにクッキーもお願いね!」
「お前が作ったアレか?…お客に出すには、ちょっと甘すぎるんじゃ」
「いいの!」
糖分は、めでたい再会の日に摂取しても美味しいのだ
「あ、甘っ…何これ?!ホントにクッキーなの?!」
「ほらやっぱり」
「ええー?これ美味しいのに」(もぐもぐ)
暖かい日差しの中、お茶とお菓子でしばしの歓談
そして、落ち着いたところで…
ミソラさんは彼女の事情を話し始めた
「今、私たちの国の実権を握ってる『雪』の領主ってのがいて
そいつが、他国に戦争を仕掛けようとしてるの」
「戦争?!」
『雪』の地方は開拓が難しい地域で、赤字が続いていると聞いた
…けど、だからって戦争しようだなんて
「王が病気中の現在、その横暴を止められる立場にいるのは、カナタ王子だけ」
「けど、王子はなぜか行方不明になってしまったの」
両手を頬に当て、いやいやと首を振る
「王子の補佐官であるあたしは、地方を回って彼を探していた」
「彼を見つけ出して、戦争を止めなきゃいけないっ」
「『雪』の領主は、そんな戦争反対派のあたしをこの機に始末しようと、野盗を差し向けてきたわ」
「絶体絶命のあたし!」
…だんだんと演技が入ってくのを見るに
実はこの子、そういう演劇っぽいのが好きなんじゃないだろうか
軍師とか言ってたし
「けど、偶然出会ったおじさまの娘さんが
カナタ王子に激似だったおかげで、野盗は恐れおののいて逃げ出してくれたの」
…どう考えてもここがおかしい…
なんで私が王子様にそっくりだったりするんだろう
彼女もそう思ったようで
「あ、あの…もしかしておじさまか奥様のご出身に、王族の関係者が…?」
「いや、そんな事全くないぞ…?
俺は平民だし、亡くなった嫁も、この村の農家の出だぞ」
今明かされる出生の秘密!私は実は王子の双子の妹だった!
…なんて事も特になかった
「というか、そんなに似てるんですか?」
「似てるよー、もうホントそっくりで」
そう言って、彼女は一枚の小さな額縁を取り出した
「これ、王子の写真なんだけども」
写真というのは、古代文明の遺産を用いて
見えるものをそのまま精密な一枚の絵にしたものだ
けっこう高価なので、貴族たちの間でしか流行っていない
裏側にして差し出された額縁を、ひっくり返して確認する
そこには…
銀髪のショートカット、青い瞳、いかにもゆるゆるな感じの…私の顔が映っていた
「なんだー、人が悪いなぁ、ミソラさん
鏡を出されたらそりゃそっくりに見えますよー」
ぷにぷにっ
いきなりミソラさんにほっぺたをこねこねされた
「な、何ですか?!」
「ほら見て!その額縁の人物はほっぺたこねられてる?!」
「あ…」
映されてる私…いや、現実を見よう…『カナタ王子』は微動だにしていない
というか、ちゃんと見たら私と服装が全然違う
装飾がいっぱいの、かなりお洒落な『男性の』服だ
「お、驚いたな…本当にそっくり…というか同じじゃないか…?」
お父さんまでそんなことを言い出す
「これはもはや、運命と言うしか無いのでは…」
親でさえも見分けがつかないと言うそっくり度合い
ミソラさんは手を顎に当て、しばし熟考した後…
「セッカちゃん…お願い!」
私の両手を取り、真っすぐに正面から見つめて
「あたしの王子様に…なってください!」
「にょえええええええええええ?!」
唐突に、大胆な告白をしてきた
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