アルゼンチンの治安
海外に行く時、多くの人が気にするのは治安だ。せっかくの旅行、留学で危ない目に遭いたい人などいないだろう。私も例外ではなく、治安は私が留学先にカナダを選んだ理由の一つでもある。
南アメリカの国に詳しくない方は、アルゼンチンの治安はどうなのだろう、と疑問に思うかもしれない。
一言でお答えします。治安、良くないです。
私はアルゼンチン滞在中にあらゆる場所で、日本ではお目にかかれない、治安の悪さに特化した対策を目にしてきた。今回はそれを通して、どれくらい治安が悪いのかをお伝えしたいと思う。
【歩きスマホ】
まず外でのスマホの扱い方は南アメリカの国ではあまりにも常識すぎて、ラテンアメリカ人に彼らの国の治安を聞くたびに必ずこの話が出てくる。
どういうことかと言うと、外を出歩くときはスマホは尻ポケットに入れない。必ずバックか前のポケットに入れ、スられないよう対策を取る。尻ポケットに入れる=盗んでください、となる。
そして道を歩くと日本との違いにすぐ気づく。歩きスマホをしている人が極端に少ないのだ。(ちなみに歩きスマホは絶対しないように夫からも口酸っぱく言われていた)ほとんどの人がスマホを手に持たずに歩いている。これもスリ対策で、スマホに集中し、周囲への注意が散漫になると、すれ違いざまに手に持っているスマホをさっと盗まれてしまうのだという。
おまけに手練れのスリは狡猾で、例えばスられる瞬間に気付いて奪い返そうと取り合いになると、スリは「俺のスマホを返せ!」と大声で叫び、まるで自分が被害者であるかのように周囲にアピールするのだという。
そういったスリ対策の為に、外を歩くときはスマホを使わないのが常識だ。つまりここでは「歩きスマホ」という問題は存在しない。治安が悪いがゆえに。治安がいいがために、「歩きスマホ」という問題が議題に上がる日本を考えると、なんと皮肉な話だろう。
ちなみにアルゼンチンでは銀行の中でスマホの使用は禁止されている。治安の悪い地域では銀行は常に強盗の的であり、銀行内で銀行員の人数や内部構造、金庫の場所など、そういった情報を外部の仲間に流して、強盗が入りやすくなることを防ぐためだという。
そして内部も迷路のような作りで、一般の客ですら内部構造ははっきりと見れないのだという。日本のようにカウンター越しにすべてが見えるような開放的な作りにはなっていないらしい。
【アパート】
アパートのエントランス、各部屋のドアは必ずオートロックになっている。鍵の閉め忘れで空き巣に入られるのを防ぐためだ。オートロックというと高級なイメージを持つかもしれないが、アルゼンチンでは古い建物や安いアパートであってもこの機能がついている。
ちなみに、アルゼンチンのアパートは日本のそれのようにそれぞれの部屋が剝き出しになる造りではなく、マンションのような造りになっているので共用のエントランスが必ずある。
おまけに各部屋のドアは最低でも2つ以上の鍵がついている。日中はそのうちの一つを閉めて問題ないが、夜間は必ずすべての鍵をかける。
また日本では、マンションのエントランスは部屋から解錠し客をマンション内に入れることができる。エントランスまで迎えに行く必要はない。
が、アルゼンチンでは違う。遠隔操作でエントランスを開けて招かれざる客まで入れてしまうことを防ぐため、遠隔操作はできない仕様になっている。客はエントランスの外にあるパネルを操作し、招いた人が住む部屋番号を選択する。すると選択した部屋に電話がかかり、住民に到着を知らせることができる。住民それぞれがエントランスの鍵を持っており、わざわざエントランスまで来て鍵を開けて客を招き入れる。客以外の人間は入れない。絶対に。
不便だが、身の安全を守るために必要なセキュリティ対策だ。
【ベランダ】
アルゼンチンの多くのアパートにはベランダがある。ただ一階、二階にある部屋の多くは、ベランダが非常に高い柵で覆われ、時にはベランダの天井から床まで檻に覆われたものもある。
監獄……? 私は密かにそう思った。夫に理由を聞くと、一階、二階の部屋は、壁などをよじ登ってくる犯罪者の侵入を防ぐためにベランダ全体を檻のように覆うことが多いのだという。
この対策に関しては、私は日本も導入した方がいいと思っている。というのも、一人暮らし時代、ベランダに干していた洗濯物を盗まれる、窓を開けて昼寝していたら窓から侵入してきた男が自分の上に乗っていた、などという恐ろしい話を何度か耳にしたからだ。
正直この檻のようなベランダは見た目は良くない。しかし、安全面を考慮し、空き巣、性犯罪対策をする上ではとてもいい案だと思う。
【24時間営業の店】
当然だが、昼よりも夜の方が治安は悪くなる。つまり深夜営業している店は常に危険にさらされることになる。ブエノスアイレスで24時間営業をしているのは、コンビニエンスストアとドラックストアだ。
夜間、彼らは檻のようなシャッターを入り口に下ろす。そのシャッターには真ん中に丁度顔を出せるくらいの空間があり、客はそこから顔を出して注文することができる。店員は客の要求する商品を取りに行き、客は檻のシャッター越しに支払いを済ませる。
つまりある一定の時間を過ぎると客は店の中に入ることはできなくなり、すべてのやり取りは入り口で、檻のシャッター越しで行われる。
危ないなら、誰も入れなきゃいいじゃない。つまり、そういうことだ。いたってシンプルな対策。
こうしてみると、アルゼンチンでは檻が非常にいい役割を果たしていることがわかった。檻万歳。外から見ると監獄にしか見えないのだが、治安が悪い場所では檻の中の方が安全だというのはなんとも皮肉な話だ。
いかがだっただろうか。とりあえず4つほど挙げたが、これらの特徴から治安の悪さは伝わったと思う。(私の稚拙な文章が妨害していなければいいが)
ちなみに南アメリカの国はどこも似たようなものらしいので、旅行に行く予定の人達はしっかりと治安対策することをお勧めする。
ブラジルに数年住んでいた友人は「ブラジルに違法なものなんて存在しないよ」と冗談を言っていた。どういう意味かというと、あまりにも犯罪が多すぎて対処しきれていない為に無法地帯のようになっている(違法であっても取り締まれないため)、ということらしい。
あとこれは余談だが、夫の友人と食事をした時に面白い話を聞いた。その友人は日本が好きで、何度か日本に旅行したことがあるという。旅行中、彼は外を歩いている時にリュックが地面に置かれているのを発見した。周囲には誰もいなかった為彼はリュックを手に取り持ち帰ろうとしたが、慌てて走って来た日本人に「これ俺のリュック! 盗らないで!」と言われたそう。
それを聞いて彼はひどく驚いた。「捨てたんじゃないの?」
日本人は「捨ててない! 場所を取る為に置いていっただけ」と言った。
アルゼンチン人の彼は驚愕した。というのも、アルゼンチンでは、公共の場で荷物から離れる=捨てたとみなされるからだ。そして捨てられたものは拾った人のものとなるのが常識。
日本では盗んだと認識されるこの行為は、アルゼンチンでは捨てられたものを拾ったと認識される。同じ行為でここまで認識の違いがあることに私もカルチャーショックを受けた。
なのでこれからアルゼンチンに行く人は絶対に自分の荷物から離れないことをお勧めする。そしてもし、日本でアルゼンチン人が人の荷物を持っていこうとしたら、それは盗んでいるのではなく、捨てられたものを拾って持ち帰ろうとしているだけである可能性がある為、優しく説明してもらいたい。
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