国際交流

日本について教えて

 国際交流という言葉は多くの日本人にとって「わあ、なんかすごーい」と言いたくなるようなものだと思う。実際私もそう思っていて、それをしたくてカナダに留学したのだ。そしてモントリオールという地で国際交流というものを多く経験することになる。実際楽しい。楽しいのだ。自分が知らなかった多くのことを知ることができる。文化、言語、国民性、治安、経済、教育、人間関係など、本当にあらゆることをカナダ人や他国から来た留学生達から聞きくことができ、自分の世界が広がってることを実感する。そして普段は質問してばかりだった私も「日本についても知りたい」と聞かれることがある。


 よく聞かれるのは「日本人って毎日寿司食べてるんでしょ?」だ。そんなわけない。だが、これは海外でよくある誤解らしい。寿司が高級品であることを伝えると、「なんだ、家庭料理じゃないんだ」と残念がられる。そして時々「寿司パーティしよ!日本人だから寿司作れるでしょ?」と期待されることもあるが、大抵の日本人が作れるのは手巻き寿司レベルであって本物の寿司は職人芸だと伝えると同じように残念そうな顔をされる。夢を壊したようで軽く罪悪感に苛まれる。


 そして想像もしていない質問もされる。ここでは私が実際に聞かれ、そして困惑した日本に関する質問について話したいと思う。



「しゃりんがんって何?」


 知らん。


 質問された私が放った第一声がこれである。冷たいと言わないでほしい。これでも頑張ったのだ。でも絞り出した答えがこれしかなかったのだ。幸いこの質問をしたのは、すでに気心知れた仲である夫だったので、私の放った冷たい一言も夫は気にも留めていない。「なんだ知らないんだ」くらいにしか思っていない。

 

 ナルトを知っている人なら説明できただろうが、私が夫とナルトを全話観るという無謀に走るのはこれからしばらく後になるので、当然この時の私の回答は「知らん」しかなくなる。


 ただ、これで終わらせるには私のプライドは高すぎた。日本人であるにも関わらず、日本が誇るアニメ、漫画の、しかも最も有名なもののうちの1つであるナルトに出てくる「しゃりんがん」すら説明できないなんて、と自責の念に苛まれたのだ。考え過ぎだろう、と思う方もいると思う。でも私はアニメ、漫画が好きで、日本では「オタク」を名乗っていたのだ。ナルトを観たことない人はオタクじゃない、という厳しい声が聞こえてきそうだ。でもこの数か月後にしっかり観るのでご容赦いただきたい。


 とにかくだ。日本人でオタクを名乗っていた私は日本の有名なアニメについて答えられず、プライドが傷ついた。薄っぺらいティッシュのような脆弱なプライドだが、だからこそより守りたくなるのだろう。そして見苦しくも、私は「しゃりんがん」について説明し始めたのである。


 「詳しくはないけど、『しゃ』は『朱』だよ。ほらカカシ先生の目赤いでしょ?あと『りん』は輪っかのこと。『がん』は『眼』のことだよ。これが朱輪眼だと思う」


 かろうじて知っていたカカシ先生の赤い片目を思い出し私はこう説明した。皆私の間違いに気づいたことと思う。「しゃりんがん」の漢字は「写輪眼」であって「朱輪眼」ではない。写輪眼とは相手の技をコピーし、使用することができる特殊な技だ。だからこそ、「写」の文字を使う。それを私は「朱」と勘違いした。そして私の勘違いはここだけではない。


 私は「朱」の読みを「しゃ」だと勘違いしていた。本来は「しゅ」と読む。似ているようで大きく違う。私は説明の最中「朱色」を「しゃいろ」と読んでいた。英語の勉強をと思ってカナダに発った私はそもそも母国語である日本語ですら未熟だったのだ。英語の前に母国語の勉強が必要だった。


 海外に来た日本人が「海外に来て逆に自分が知らない日本のことを学んだよ」とキラリと白い歯を光らせながら語る人を何かの動画で見たことがあるが、この時私はひどく共感した。だが、きっと彼らの言いたかったことはこんな低レベルの話ではないだろう。共感されて迷惑かもしれない。


 「詳しくはないけど」などど謙遜していることをアピールする為の常套句も、ここでは恥の上塗りでしかない。「写輪眼」どころか「朱色」の読み方すら知らず、間違えたまま旦那にどや顔で説明するなんて日本人の恥だ。


 ただ、日本人ではないこれらのことは旦那は知らないので、私の間違いには気づかず指摘することもなかった。そしてそれを、「詳しくない」割にきちんと説明してやったぞ、よくやった私、ふふんと鼻を鳴らした日本人の恥は、その数が月後にナルトのアニメを観て間違いに気づき、鳴らした鼻が折れるのである。

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