生贄は行方不明
フロントガラスの前をバイクが横切って、俺は現実に引き戻される。
助手席に相棒の死体と、後部座席に悪魔がいる。妄想より酷いもんだ。
悪魔が白い歯を見せる。暗闇となめし革のような黒い顔のせいで、閃光のように光ってみえた。
「じきに夜明けだぞ」
「うるせえな!」
「よく考えろ。他に身代わりにできるほどの情か関係のある者がお前にいるか?」
俺は頭を巡らせる。
クソ親父は酒が祟って獄中で死んだらしい。最期まで税金で悠々と暮らしやがって。もっと悲惨に死ねばいいのにと思う。
過去に戻って親父を殺すのは願ったり叶ったりだ。だが、悪魔と利益の出る取引はできない。
じゃあ、他は?
お袋は死んだ。他に家族もいない。
教会の連中とろくに関わりもない。だいたい雑談はテオに任せていた。
兄弟もいない。そう言えるのは、不本意だがテオくらいだ。
テオが俺に読み書きを教える代わりに、テオの馬鹿さ加減につけ込んで騙そうとする奴らをぶん殴ってやった。
初めての旅行もテオとの初仕事がそんなもんだった。あの馬鹿が飛行機の予約を忘れたせいで、夜通し電車に乗る羽目になった。
移動が長い方がたくさん話せていいよねとか言いやがったから蹴り飛ばした。
俺が正式にエクソシストになったとき、テオは馬鹿らしく大喜びした。皮肉のつもりで「誕生日ですら親に祝われたことないのにな」と言ったら、テオは閉店間際の玩具屋に俺を引きずって行って、好きなものをプレゼントすると言った。
何もいらないから一発殴らせろと返したが、玩具屋の店主に止められた。あのとき買う羽目になったカードゲームはまだ部屋にある。
俺は認めたくないことに気づいた。
テオの身代わりになる奴なんか世界のどこにだっていないんじゃないか?
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