第4話 李貴妃の場合

 ある地域で生まれた李貴妃。

 雅楽や二胡、香など王、または高官の妻になるべく育てられた李結林。


「これでよかったのでしょうね」

 後宮に入るにあたっての迷いは当然ある。

 市井で育ってきたものとは定められた運命が違うことにも気が付いていた。

(ここに入るために生まれて、育てられてきたのだから、結果を出さなくては)


 后妃には教養が求められるが、

 政治的な教養を持つと政略的なことを

 聞いた場合には謀反の疑いをかけられるという懸念があった。

 そのため漢詩を諳んじることや、政治的なことを学ばなかった。


(武器にもなるだろうけれど。女の世界はどうなることかわからないわ)


 やっかみなんてあって当然だ。

 例えば市井では何をしているのかと影口を叩かれてしまい、

 後宮に入ったらまた血筋のことで影口を叩かれる。

(面倒なことだわ)

 こうやって面倒ごとに巻き込まれることの方が多いだろう。

 意図して学ばなかったのは漢文の知識だけで、

 あとは積極的にどんなことでも吸収していく。


「主上のことをどれだけ理解できるのか」

 書物も多少は読めるので、医学的なことも、

 こどものために学ぶし、

 清潔にすることの大切さも教養の必要もわかっている。


 そして、他国の文化の違いにも。

 皇后を目指す場合には、他国からの賓客だってあるだろう。

 その時のために知識だけは入れている。


(貴妃になったからにはさらに上の皇后になって見せるわ。

 淑妃にもましてや徳妃にだって負けるものですか)


 闘志を燃やす貴妃ではあるが、主上からのお通いはあまりない。

 ないからこそ、肌の手入れと香の種類を変えてみる。

 若さや芸事はほかの妃には及ばないが、貴妃の頭には昔からの付き合いもある勢力図がうっすらとではあるが、頭の中にある。

 昔からの顔なじみの者たちの顔と名前は一致している。

 父と懇意にしているものは私の出世を望んでいるはずだ。

 娘の出世が男たちの勢力図にまで浸食することはある。

 ここまで育ててくれた親族たちのためにも、子をなさないといけない。


(さぁ、宦官にそれとなく変えたことも匂わせないとね。

 こんなに着飾っても主上が気づいてくださらないと意味がないわ。

 子をなすことも時間がかかるのだもの。是が非でもお通いになってもらわなくては)

 主上はもしかしたら、妃ごとに役割分担でもさせようというのかもしれない。

(そんなことさせてたまるものですか)


 どの女よりも私を選ばせて見せる。


 私が国母になるのだから。


 淑妃や徳妃に劣りはしない。

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